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●映画「妻の貌」
夫は一台の「カメラ」と化した ただ妻を撮る…何のために?

「わたしにも写せますぅ」という言葉が流行した時代がある。それは家庭用8ミリカメラのテレビCMだった。あれから50年、8ミリ(後にビデオ)で家族を撮り続け、その都度、アマチュア映画祭で発表していた川本昭人が、今度その集大成ともいうべき「妻の貌」を公開する。一念、棒のごときもの。これがいい。

 川本は広島在住で82歳。酒造業を営んでいたが、長男の誕生を機に8ミリを買い、妻が甲状腺がんを手術した1968年から彼女の日常を撮ることに徹し、撮影も日常化した。19歳の折の被爆が原因で原爆症にかかっていると判明したからだ。「わたしの中のヒロシマ」と妻は語り、夫は被写体の中の「ヒロシマ」を見つめ続ける。

 といっても、彼女が編み物をしたりアイロンをかけたり、台所仕事をしたりのありふれた日々でしかない。その中で、二人の息子が育ち、それぞれ一家を構え、孫が生まれ、学校に通い、成人式を挙げて、といった時の移り変わりもとらえていく。そこに日本の原風景が垣間見えてこよう。

 圧巻は、ベッドで寝たきりの姑を13年にわたって介護した妻の姿だ。彼女は食事を与え、背中をこすり足をさすり、清潔好きの姑の髪を切る。かつて確執のあった姑も、いまや嫁のなすがままだ。そこから言葉では表せない日々の営みの重さが伝わってくる。彼女も時折、倦怠感や頭痛に襲われ、ベッドに横たわり、酸素マスクをしたり、病院通いをして病に耐えている。

 そんな妻を川本は、カメラになりきって凝視しつつ話しかける。そのカメラに、彼女は「わたしの人生を戻してちょうだい」とか「あんたはわたしを素材に、仕事の肥やしにしているだけ」と辛辣な言葉を浴びせる。しわが増えていく彼女の顔のアップをみていると人間にも年輪があるのだ、としみじみ思えてくる。それはうっそうとした大木に似ている。―今年も8月6日がやってくる。(木下昌明/「サンデー毎日」09年7月26日号)

*映画「妻の貌」は東京・渋谷ユーロスペース、川崎市アートセンターで7月25日からロードショー、全国順次公開


Created bystaff01. Created on 2009-07-23 10:31:06 / Last modified on 2009-07-23 10:45:53 Copyright: Default

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