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Document 20081225kuro
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第2回・WTO問題を通して見るグローバリズムの正体

 2008年、米国と中国・インドの対立により決裂したWTO(世界貿易機関)農業交渉が、来年後半の妥結に向け動き出そうとしている。この交渉で日本は、国内産業の保護のため高関税をかけることができる重要品目を「8%」とするよう主張しているが、同調する国はなく、米国と中印両国との対立が解消した場合、重要品目の6%への引き下げは確実とみられている。

そのような中、全国から東京に集まった農家やJA(農協)役職員ら3000人によるデモ行進が12月9日、都内で行われ、日本農業を断固として守る決意とともに、交渉への不満・怒りを霞が関に響かせた。農水省前では「安易な合意はするな」「日本農業を守れ」とシュプレヒコールをした。

参加者の声は怒りに満ちており、「食の確保をせずに、何が国益か。工業や金融より前に、食料を自給することが国益だ」(JA富山県青協の森下和紀会長)、は「上限関税や重要品目の大幅削減などが通れば、農地の荒廃がさらに進み、美しい安曇野の風景も失われてしまう」(長野県安曇野市から参加した農家)、「重要品目8%を堅持できないなら交渉を打ち切ってほしい」(JA新潟中央会の萬歳章会長)などの声が聞かれた。この森下和紀会長の決意に、筆者は全面的に賛同する。

WTOが日本にどんな利益をもたらしたか。利益など何もありはしない。日本はかつて、自動車産業を守るために牛肉・オレンジの全面自由化に踏み切った。いわば、大企業・財界の利益のために国民の「いのちの食」を売り渡したが、その結果もたらされたのは食料自給率の低下だった。中国産輸入食品への不安が高まり、消費者の安全志向が高まると、食品業界はこぞって国産食品の確保を目指したが、食料自給率が40%しかないのに国産品の確保などできるわけがなく、その結果起こったのはラベルだけ国産に貼り替える「偽装」だった。

その上、「いのちの食」を外国に売り渡してまで守ったトヨタなどの自動車産業が、今、国民に対してどんな振る舞いをしているか見てみるがいい。赤字と宣伝しながらも、巨額の内部留保を溜め込んでいるトヨタは、ぎりぎりの給料で何とか暮らしていた3000人の期間工たちを雇い止めし、この寒空の中、路頭に迷わせようとしている。しかも、トヨタは今年、役員報酬を17%も増額しているのである。トヨタが今年、引き上げた役員報酬分の数億円を元に戻すだけで、期間工の雇用は全員守られるばかりでなく、新たな雇用さえできるであろう。

もう一度、この際だからはっきり言おう。日本は「自由貿易」の名の下に牛肉・オレンジを自由化し「いのちの食」を切り捨てた。そして、それと引き換えに守ったのは、役員報酬を数億円も引き上げながら、3000人の期間工をゴミのように切り捨てる「ならず者企業」である。グローバリズムと呼ばれるものの正体が何であるか、これほどよくわかる実例もないではないか。

WTOは、このような「ならず者企業」たちのために存在する組織である。彼らが私たち庶民の利益を守ってくれるなどと考えてはならない。そうであるならば、日本は決裂も辞さない覚悟でこの交渉に臨み、「いのちの食」を生み育てる農業を守り抜くべきである。

<参考資料>

[緊迫WTO]届け農の声/食料確保貫き通せ 地域農業に大打撃 本気の交渉見せろ (2008.12.10 日本農業新聞)
http://www.nougyou-shimbun.ne.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=2151

役員報酬17%増を決議 トヨタ株主総会(2008.6.24 産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/080624/biz0806241255009-n1.htm

(黒鉄 好・2008年12月25日)


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