●映画「動物農場」
宮崎駿が半世紀前のアニメに見いだした「権力腐敗」の法則
なんと半世紀も前の1954年に作られた長編アニメが公開される。ハラス&バチュ
ラーの「動物農場」(英)がそれで、CIA(米中央情報局)が資金を出した。原作者
は『1984年』で有名なジョージ・オーウェルだ。
この映画が作られた時代、旧ソ連を中心に社会主義諸国が台頭していて、世界は冷戦
状態にあった。そこで「ソビエト神話の正体」を暴いたとされるオーウェルの『動物農
場』は、CIAにとって反共イデオロギーを高める格好の素材と映ったのだろう。
物語は、ある農場を舞台に農場主に虐げられていた動物(家畜)たちが反乱し、彼を
追いだすとともに「すべての動物は平等だ」とする理想社会を作ろうとした寓話だ。ス
ターリンとトロツキーを思わせる黒と白の2頭のブタが指導者となるが、権力争いで白
は追放され、黒が独裁体制を敷いていく。
興味深いのは、これを「崖の上のポニョ」のスタジオジブリが提供し、宮崎駿がその
理由を、いまの社会のしくみとよく似ているからだと述べていることだ。確かに、当時は社会主義批判が狙いであっても、その内実が薄れている今日からみれば、腐敗してい
く政治のからくりを考えさせる中身に見えてくる。動物と人間を敵対的に単純化し、さ
らに動物サイドから人間を悪として描いているために、一般の人間中心のドラマとはひ
と味違った見方ができるのだ。
動物たちは、革命の後で自分たちの法律をつくる。「4本脚はよい、2本脚は悪い」
「動物は他の動物を殺してはならない」など。しかし、権力を握ったブタは贅沢の味を
覚え、人間とも取引するようになって法律も巧妙に変えていく―ここらが実に面白い。
動物のデッサンもしっかりしていて色彩も鮮やか。そして4本脚がいつしか人間化し
ていくさまに誰しもがゾーッとさせられよう。(木下昌明/「サンデー毎日」08年12月21日号)
*映画「動物農場」は12月20日、東京◎渋谷のシネマ・アンジェリカ、立川シネマシティほか全国順次ロードショー (c)RD DR 1954(renewed 1982)
<追記>
動物たちが人間たちとのたたかいに勝ってかれらのくびきとなっていた馬具やむちなどの家畜用の道具を集めて焼き払うシーンがある。その炎の前に円陣をつくり動物たちがいっせいに合唱する。このシーンがいい。この歌は、ロシア革命にあてはめれば「インターナショナル」の歌を意味していたといえよう。これが三度歌われるのだが、三度目に、「革命は成就したのだから、この歌は必要ない、禁止する」と黒ブタが命令する。それをみて実際のスターリン時代はどうだったか、と調べてみると、やはり、ソビエト国歌だった「インターナショナル」をやめてレーニンとともにスターリンをたたえる国歌に変えられていたことを遅まきながら知った。しかし、スターリン批判後、その国歌から「スターリン」の個所が削除された。
スターリン時代に大量の人民を粛清した問題は、アニメとは別に歴史の彼方に葬り去ってはならない問題である。
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Created on 2008-12-11 13:42:07 / Last modified on 2008-12-11 13:46:47 Copyright:
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