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●映画「敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生」

悪とも平気で手を結ぶ「正義」
なぜナチ戦犯は生き延びたか

 戦後、ハリウッドの戦争映画は、米軍などの連合国側を善とし、ドイツなどの枢軸国側を悪として描いてきた。日本人は戦争中は敵として戦っておきながら、連合国側に立ってドイツ軍の敗北に喝采していた。そこに敗戦国日本の屈折した一面もみられた。

 しかし、そのハリウッド映画の戦争観も、米国がベトナム戦争で敗北したことで、しだいに影をひそめていった。それどころか、時代を経るなかで、そんな戦争観など通用しない米国の醜い所業も次々と暴かれるようになってきた。

 フランスのドキュメンタリー映画「敵こそ、我が友」もその一つで、戦後40年近く自由の身だった一人のナチスドイツの戦争犯罪人を通して戦後史のあり方が問われている。

 映画は、占領下のフランスで「リヨンの虐殺者」として恐れられたゲシュタポの責任者クラウス・バルビーの生涯に焦点を当てる。バルビーが戦後も生き延びられたのは、かつて「敵」だった米陸軍情報部の庇護によってだ。米軍は、東西冷戦が始まるや、ソ連などの社会主義国家への防波堤を築くために、ナチスの反共情報を必要とした。目的のために“悪”とも結託した。

 その後、バルビーはバチカンの神父の手引きでボリビアに渡る。軍事独裁政権に取り入り、ナチの残党を募って“第四帝国”を創設しようとする。その彼が再び米軍と接触し、チェ・ゲバラの殺害に加わったというのだから驚く。

 フランスで行われた裁判風景が興味深い。ベトナム系弁護人は「これはミッテラン大統領(当時)が仕掛けた裁判」で、ミッテラン氏は「(占領下に対独協力した)ヴィシー政府の官僚だった」と告発し、バルビーは「ベトナム人民を爆撃した米将校とどう違うのか」と問う。

 映画は、戦争犯罪人を利用し、都合が悪くなると個人に罪を着せ、責任のがれをする国家や政府の汚い手口を追及している。(木下昌明)

映画「敵こそ、我が友〜戦犯クラウス・バルビーの3つの人生」は7月26日、銀座テアトルシネマ他にて公開 写真(c)YALLA FILMS-WILD BUNCH-FRANCE 3 CINEMA.

*「サンデー毎日」08年8月3日号所収

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●映画「雲南の花嫁」

試されない愛なら価値はない
悪戦苦闘のアカルイ新婚物語

 中国映画には、中国の辺境を扱ったドラマが目につく。「1978年、冬」の北部の荒涼とした農村地帯、「トゥヤーの結婚」の内モンゴル自治区の砂漠と化した草原、「ココシリ」の青海省チベット高原などがすぐ思い浮かぶが、それらには雄大な自然とともに、その地に根ざした人々の営みも見ることができる。

 今度公開される「雲南の花嫁」は、ベトナム国境に近い山村を舞台にしているから、山や川や草原の豊かな緑が背景になっている。それは昔懐かしい日本の風景でもあった。映画では色鮮やかな民族衣装をまとった男女の純朴な恋と、それをめぐる人々の葛藤が繰り広げられていく。

 監督はチアン・チアルイで「雲南の少女 ルオマの初恋」に続く第二作。すでに作られている三作目の「芳香之旅」と合わせて“雲南三部作”ともいわれている。この3本をみれば、居ながらにしてひとかどの雲南通になれるかも。

 雲南省には25の少数民族が住んでいて、映画はその一つ、イ族の物語。イ族には古くから、結婚式を挙げても3年は同居できないという風習がある。それなのに、主人公の2人―アーロンとフォンメイは、式のあと酔いつぶれて同じ寝台で眠ってしまう。翌朝、家族は大騒ぎとなる。

 フォンメイは、幼い頃から木に登り川に飛びこみ、はては頭にくると家の梁に脚をひっかけて一日中こうもりのようにぶら下がっている(これが愉快)お転婆娘だ。アーロンは、龍舞の継承者として育てられ、娘たちの指導にあたっている。中国のお祭りでみかける龍舞は、この地が発祥とされ、村の誇りになっている。それにフォンメイが参加するしないでもめて、ついに「離婚だ!」とまでなる……。

 映画は1999年に北京全国龍舞大会でイ族の娘龍舞が優勝した実話をもとにする。アーロンが屋根の上で踊る「酔龍舞」が圧巻。(木下昌明)

映画「雲南の花嫁」は7月26日から東京・新宿のK's cinemaほか全国順次ロードショー

*「サンデー毎日」08年7月20日号


Created bystaff01. Created on 2008-07-27 12:19:03 / Last modified on 2008-07-27 12:28:18 Copyright: Default


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