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第1回・母屋でおかゆ、離れですき焼き

 読者の皆さん、こんにちは。このレイバーコラムの執筆を担当することになった黒鉄 好(くろがね こう)と申します。立候補表明からずいぶん遅れましたが、レイバーコラム「時事寸評」の執筆を開始したいと思います。

 これを機会に、特急たからの筆名を改め、今後は「黒鉄 好」を名乗ります。大好評を博した名古屋哲一さんの後を引き受けるのは大変ですが、よろしくお願いいたします。結構根が単純なので、短くても皆さんからの感想などをいただけると励みになります。

 本題に入る前に、筆名の由来について触れます。

 これまでの特急たからという筆名を名乗っていたとき、皆さまにいただいた質問で最も多かったのが「実在する列車なのですか?」とういうものでした。

 結論から申し上げると、国鉄時代にかつて実在した列車です。正確には「コンテナ特急たから」といい、その名前からわかるように貨物列車の特急でした。私たちが乗ることができない列車でしたから、なじみがないのは当然です。

 コンテナ特急たからは1959年、東京(汐留)〜大阪(梅田)間に登場しました。国鉄初めての本格的なコンテナ専用特急で、コンテナ貨車はレールや電柱などを運搬する際に使われる「長物車」(長いものを運ぶ貨車)からの改造でした。行先別に貨物列車を編成し、行先が別れる拠点の操車場で、広大なヤードを使って貨車を1両1両振り分けるのが当たり前だった旧来の貨物輸送を大きく転換した画期的なもので、行先が別れる貨物はコンテナの積み替えをするだけで済むためヤード作業がなくなり、大幅な到達時間短縮が実現しました。その上、当時、平均走行速度が時速60〜70キロメートルだった貨物列車が、この「たから」によって85キロに向上し、旅客列車のダイヤに影響を及ぼさずに走ることが可能になりました。当時、東海道本線で最もパワーのあった機関車で、国鉄史 上唯一の8軸機、EH10型がけん引。貨物列車でありながら、「コンテナ特急たから」のヘッドマークが掲げられた時期もあり、その姿は多くの鉄道ファンを魅了しました。性能の良いカメラがなかった時代に、多くのファンがその姿を追って撮影地に繰り出したのです。

 この特急たからは画期的な列車でしたが、あまりに登場が早すぎたため、国鉄がヤード系輸送を全廃し、貨物をコンテナ列車と荷主ごとの貸切列車中心の輸送体系に切り替えた1980年代になるまで、鉄道貨物輸送の本流を占めることはできませんでした。

 「早すぎた先駆者」として時代に乗りきれず、貨物輸送の質的転換が進んでいた時代の国鉄輸送を切り開くこともできないまま、あだ花に終わってしまったこの列車。先進性と悲劇性を兼ね備えたこの列車が私はとても好きでした。たとえ道は狭くても、時代の最先端を全力で駆け抜けたこの列車のようでありたいという思いから、「特急たから」の筆名を名乗ってきました。

 しかし、この名前はいかにもネット活動をする上でのハンドルネーム的響きを持つもので、文筆活動をする上では今ひとつ収まりの良くない名前であったことは事実です(それに、鉄道系のホームページでは列車の名前をそのまま自分のハンドルネームとして使う鉄道ファンの評判が概してあまり良くないという事情もあります)。そういうわけで、今後、紙媒体でも使えるような通りの良い名前として考案したのが「黒鉄 好」という筆名です。

 筆名を考えるに当たり、私が鉄道ファンだということで連れ合いが「鉄」の字の入った筆名候補をいくつか考えてくれました。その中のひとつを人名風にアレンジして、新しい筆名は生まれました。

 かつて、鉄道の現場や鉄道ファンの間で蒸気機関車が「くろがね」に例えられ、某鉄道雑誌で蒸気機関車乗務員の思い出話を集めた「くろがねの馬」という連載が行われていました。それに、「黒鉄 好」という名前は、「国鉄好き」とも読めます。「好」という文字には、読者に好感を持ってもらえるような執筆者になりたいとの思いも込めています。

 さて、これから第1回コラムをお届けします。テーマはガソリン税と道路問題です。

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ガソリン税と「霞ヶ関埋蔵金」〜母屋でおかゆ、離れですき焼き

◎特定財源の使われ方

 昨年の参議院選挙で突如生まれた衆参ねじれ国会。その余波で、ガソリン税の暫定税率制度を維持するための租税特別措置法改正案が3月中に成立せず、暫定税率が失効したため、1ヶ月間にわたってガソリンが約25円も値下がりするという状況が生まれた。この状況は、1ヶ月にわたる「ガソリン特需」を生んだが、1ヶ月だけの春の椿事だったようだ。結局、租税特別措置法改正案は、参議院山口2区補選の結果をも無視する衆議院での強行再可決で成立し、税率は元に戻された。選挙の結果であれ高裁の違憲判決であれ、自分に都合が良ければ利用し、悪ければ無視する。国民が法律なのではなく、俺様が法律。誰がなんと言おうが、正しいのは俺様。

 「独裁政治」の意味を辞書で調べたら「特定の個人・党派・階級・身分などの少数者が国家権力を独占し、恣意(しい)的に行う政治」とある。今の自公政権はまさに独裁だ。日本国民が、民意の全く届かない自公独裁からの解放を今ほど切実に願っているときはないと言っていいだろう。

 ところで、いつも表面的事象は伝えても物事の本質には迫ることのないマスコミの空騒ぎからは決してわからないガソリン税問題とはいったいなんであるのか。この問題を追及していくと、ひとつの事実が浮かび上がる。「政府の予算制度の問題」、ぶっちゃけた話「カネの使われ方」をめぐる政府部内の底知れない硬直化と腐敗である。

 今、いわゆる道路特定財源は年間6兆円といわれる。国の一般会計の歳入がだいたい70〜75兆円。そのうち20〜25兆円は「特例公債」、つまり赤字国債発行でまかなっているから、租税収入と税外収入を合わせた本来の収入は50兆円しかない。そこに道路特定財源は6兆円もある。借金を除いた国の収入の1割以上が道路特定財源というこの現状をおかしいと思わないか?

 私は昨年11月に羽越線事故調査と称して山形県・庄内地方に出かけた。その結果は20ページの調査報告書となって結実したが、調査の過程で秋田〜山形間には片道1車線の国道1本と単線の鉄道があるだけで高速道路もない状況が明らかになった。道路特定財源が本当に地方のために使われているなら、なぜここ庄内には高速道路もないのか? その一方で都会では、3月の年度末になるといつも同じ道路の同じ場所が掘り返され、無用の渋滞が起きているが、それはなぜなのか?

 通学中の子どもたちの列に暴走車が突っ込み、子どもが亡くなる痛ましい事故が毎年どこかで必ず起きる。マスコミはセンセーショナルに暴走車のドライバーを非難する(もちろんそれは間違いではない)が、道路にガードレールがあれば防げたと考えられるケースも多いなかで、ガードレールもないまま放置していた行政の怠慢を批判する報道はどこにもない。国家予算の1割以上を占める道路特定財源がありながら、通学路にガードレールが付けられないなんて話はもちろんあるわけがない。強行再議決までしてガソリンを値上げしながら、子どもたちの通学路にガードレールも付けないまま、6兆円の道路財源が毎年、どこかで消えているのだ。巨大な予算はどこに行ったのか?

 明らかに道路特定財源は既得権益化し、間違った使い方がされている。そして、特別会計は公共事業を担当する省庁が所管しており、財務省がメスを振るいたくてもそれができない「聖域」となっている。道路特定財源維持派も廃止派も、この事実はきちんと押さえておいた方がいい。

 特定業界のための利権と化した予算制度は見直さなければならない。疲弊する地方の現実を考えてもなお、道路特定財源につながる暫定税率制度は一度「ご破算」にし、国民の新しいニーズをふまえながら新しい制度設計をすべきである。ただし、先に見た庄内地方のように、真に道路を必要としている地域もある。それら地域については、特別会計ではなく一般会計として新たな財源を手当てしていけば良い。暫定税率廃止と地方の道路整備は二律背反ではなく、両立できるのである。

◎特別会計制度の問題点〜聖域化する財源

 特別会計の問題点について触れよう。2007年、年金記録問題に関して、保険料でのレクリエーション用具購入や、グリーンピアなどの保養所建設がやり玉に挙げられた。これも突き詰めれば特別会計問題である。

 国の予算制度は一般会計と特別会計からなる(この他、特殊法人や独立行政法人の予算などの「政府関係機関予算」というものもあるが、これはとりあえず除外して考える)。特別会計には、

(1)いわゆる「国営企業会計」(国有林野事業特別会計)
(2)巨額の資金が必要な公共事業を別枠で実施するための会計

の大きく分けて2つあり、このうち、現在「霞ヶ関埋蔵金」として問題になっているのは後者である(1の国営企業会計は、国有林野事業が独立行政法人化されることが決まっているので、その移行と同時に廃止となる)。やや古いデータだが、特別会計は、国家予算にまだ余裕があった1989年現在では38種類もあった。産業投資特別会計のように一見しただけでは何をしているのかわかりにくいもの、「石炭並びに石油及びエネルギー需給高度化対策特別会計」のように、何をやっているのかわからない上、覚える気にもならない長い名前のものもあった。特別会計はずいぶん整理されたが、現在でもまだ20前後残っているのではないだろうか。このうち、扱う予算額が巨額なため特に世間の関心を引きやすいのが道路整備特別会計、空港整備特別会計、港湾整備特別会計などの公共工事関 係特別会計である。

 一般会計では、歳入は財務省が所管し、歳出は各省庁が所管するが、特別会計はその事業を担当する省庁(道路整備なら国土交通省)が歳入・歳出とも所管する。このことも、予算制度の面で各公共事業が「聖域」化し、独立王国化するひとつの要因になっている。

 特別会計制度の下での予算の配分のされ方は国民感情と全くかけ離れている。公共事業費とは直接その事業の執行に充てられる経費(工事費等)だけを指し、人件費、事務管理費などの一般経費は一般会計で手当てするべきだというのが国民感情であると思うが、驚くことに現在、国の特別会計制度はそうなっておらず、職員の人件費から会議費、出張旅費、果てはレクリエーションのための遊具購入費なども特別会計扱いとなっている。つまり、直接、公共事業を執行するための経費だけでなく、その公共事業を行う役所自体の維持までがすべて特別会計でまかなわれるようになっているのである。そして、その原資は私たちの納めたガソリン税や年金保険料である。

 国民の納めた年金の掛金が、年金支払いに充当されないで保養施設の建設に使われたり、「道路建設や補修のための大切な経費は、みなさまのガソリン税からまかなわれています」などと国民向けに説明しながら、そのガソリン税が国土交通省職員の人件費や遊具購入費に使われていたりする問題の根源はここにある。特別会計予算が単に公共事業執行のための直接経費のみならず、およそ公共事業執行に伴って発生する諸々の間接費、果ては公共事業を担当する役所自体の維持費までをすべて含むという構造が、国民感情からあまりにもかけ離れているのだ。第一、特別会計から給与をもらっていた事業所の官僚が、公共事業担当でなくなり、一般会計で予算が付いている本省に転勤したら、そのとたんに一般会計から給与をもらう立場になる、というのはどう考えても国民からは理解できないだろう。しかし、予算を執行する国にしてみれば、このような制度にしておいたほうが、1つの事業所には1つの予算体系という運用ができるから便利には違いない。

◎母屋でおかゆ、離れですき焼き

 こうしたいくつかの要因が絡み合って、一般会計ではいつも財政危機が噂されているにもかかわらず、特別会計では使い切れないほどの特定財源を抱え、毎年、年度末になると都市部では同じ道路の同じ場所が予算消化のために掘り返され、渋滞が起きるという現象があらわれる。霞ヶ関周辺ではこうした事情は誰でも知っており、誰が言い出したのか知らないが、「母屋でおかゆ、離れですき焼き」と言われている。一般会計(母屋)ではお金がないないと言いながら節約しておかゆをすすっているのに、特別会計(離れ)では使い切れないほどの予算を抱え、すき焼きを食べて贅沢をしている、という意味である。予算過剰と予算不足が同居する現在の国の会計制度の矛盾をよく突いている。

 しかし、今まで見てきたように、一般会計の予算不足も特別会計の予算過剰も人為的に作り出されたものである。政治家も官僚も業界も、わかっていながらあえてそれには手を付けず、なれ合っている。なぜなら政治家は「おらが村に道路を引くのが政治」と今でも思っているし、官僚はカネがないよりあるほうがみずからの権力を行使できるし、事業所の末端の役人は1つの事業所に一般会計と特別会計が2本立てになるよりも1本化していてくれた方が仕事が楽だし、業界は業界で予算が過剰な方が不要不急の道路工事まで受注でき潤うからである。一時期騒がれた政・官・財の「鉄のトライアングル」はずいぶん錆び付いたものの、どっこい今も生きている。そして、昨年末あたりに自民党内で大騒ぎになった「霞ヶ関埋蔵金」とは、一般会計の予算不足と特別会計の予算過剰のうち、後者の 部分を表現したものとして捉えるべきである。つまり、「霞ヶ関埋蔵金」は存在するのだ。

 錆び付いた「鉄のトライアングル」に群がる者たちは、「霞ヶ関埋蔵金」が発見されることを恐れている。埋蔵金は道路特定財源以外にもあるからだ。その全部を合計したら十数兆円規模になるかもしれない。今後100年間くらいは消費税引き上げが不要になってしまうほどのとんでもない額である。この4月から、老人を緩やかに死に追いやる老人虐殺医療制度(後期高齢者医療制度)が作られた。その制度の導入目的について、政府・自公与党は「10兆円の老人医療費をお年寄り同士の“相互扶助”でまかなうため」などというデタラメな説明をしているが、事実は簡単なことである。道路特定財源(6兆円)と防衛費(4兆円)をなくしたら合計10兆円が国民の手に戻る。その額で増税を伴わずに老人医療費の無料化さえ実現するのだ! 軍隊を廃止すると規定した日本国憲法。その6 1回目の記念日を機会に、漁民をひき殺すしか能がないイージス艦づくりなどやめ、防衛省・自衛隊を廃止して老人医療費に充ててはどうか。

◎都市と地方の格差

 福田内閣の支持率は今日、ついに20%を割り19%となった。1ヶ月だけの椿事に終わったガソリン税狂想曲も、相変わらずの「鉄のトライアングル」と霞ヶ関埋蔵金の存在を国民に知らしめるための騒動と捉えればそれなりに意義があったのではないだろうか。国民はただ負担が受け入れられないのではない。国民生活には予算を回さず、無駄遣いを放置しながら新たな負担だけを求めるから怒りが爆発したのだ。

 政府のカネの使い方が間違っていることから、国民の間にも毎日おかゆしか食べられない人と、毎日すき焼きを食べて贅沢を尽くす人とが本人の努力と無関係に生み出された。「母屋でおかゆ、離れですき焼き」は今や全国民の問題であり、おかゆしか食べられない人を救済することを最優先にすべきである。

 暫定税率制度は廃止して道路予算は一般財源化し、真に必要な地方の道路を精査した上で一般会計として予算措置すればよい。東京などの都心で渋滞解消を求める声も上がっているが、都会(特に3大都市圏)では道路をいくら拡充してもその分だけクルマが増えてまた渋滞し、永遠のいたちごっこが繰り返されるだけ。そんなことに使うカネがあるなら、極端な過疎化で維持が難しくなっている地方の過疎バスの補助金をもっと増額すべきだろう。

 結局、ガソリン税問題が浮き彫りにしたのは、都市と地方の格差問題だったのではないか。

(黒鉄 好・2008年5月3日)


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