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Document 20080115
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●映画「ぜんぶ、フィデルのせい」

「キョーサン主義って、何?」
少女が見た不可思議な70年代

 コスタ・ガヴラスをご存じだろうか。ギリシャ出身で、1970年前後に激動する世界の政治の闇を告発した「Z」「告白」などを作り、チリの軍事クーデターを題材にした「ミッシング」(82年)ではカンヌ映画祭パルムドールをとったフランスの映画監督だ(89年の「ミュージックボックス」はミステリーものの最高傑作の一つ)。「ぜんぶ、フィデルのせい」のジュリー・ガヴラス監督はその娘で、これは初の劇映画である。

 時代は父のガヴラスが活躍した70年代初頭、主な舞台はパリで、9歳のアンナが主人公。弁護士の父と雑誌記者の母のもとで、アンナは弟とともに何不自由のない生活を送っていた。ところが、2人をボルドーの祖父母に預けてチリに旅行した両親が“キョーサン主義”にかぶれて帰ってくる。父は弁護士をやめてチリの支援活動に奔走し、母はフェミニズム運動に飛びこみ、中庭のある家から狭いアパートへ引っ越す。揚げ句にアンナの大好きなメイドまで首にする。メイドはキューバからの亡命者で「すべてフィデル(カストロ)が悪い」とののしるのが口ぐせ。アンナもこれをまねて「フィデルのせい」と思うようになる。

 両親に翻弄される彼女の目を通して、大人たちの言動や風俗と時代の移り変わりを、何か不可思議なことが起こっているかのように描いていく。それがおかしくも楽しい。

 母たちが「中絶」が法律で禁止される問題を話し合うのをのぞき見たアンナが「チューゼツって何?」と大声で尋ねるシーンや、「ベンセレモス(われらは勝利する)」を合唱する男たちに囲まれてうっとりするシーンが印象的だ。

 同名の原作を大幅に改変し、父が「ミッシング」を作っていた時代のジュリー監督自身の体験を盛り込んで、味わい深い作品に仕立てている。

 両親を観察する好奇心旺盛なアンナがとてもいい。その彼女を介して、人間同士、手をつなぎ合うことの大切さが伝わってくる。 (木下昌明)

*映画「ぜんぶ、フィデルのせい」は1月19日から東京・恵比寿ガーデンシネマで公開されるほか、全国順次ロードショー Copyright: 2006 Gaumont-Les Films du Worso-France 3 Cinema

「サンデー毎日」08年1月20日号所収


Created bystaff01. Created on 2008-01-15 18:12:10 / Last modified on 2008-01-15 18:18:04 Copyright: Default


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