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Document 20071016
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●映画「ガイサンシーとその姉妹たち」
映画は常に歴史から試される
老女の「生」に凝縮された戦争

『肉体の門』で有名な田村泰次郎に、『肉体の悪魔』など優れた戦争小説がある。その 一つ『裸女のいる隊列』は、

〈ああ、あの山だ、あの谷だ。私は画面が変るたびに、どうしようもなかった〉

 という書き出しで始まる。

「私」こと兵隊時代の田村がいた中国山西省盂県の前線に長期ロケに来た阪東妻三郎主 演の「将軍と参謀と兵」(1942年)を、戦後10年たって見たときの感慨である。映 画は荒涼とした黄土地帯の戦闘もので、画面には、日本軍将兵しか映っていなかった。

 班忠義監督の「ガイサンシー(蓋山西)とその姉妹たち」は、今も荒涼とした黄土の 風景が広がっている同じ盂県が舞台で、ここで同時代に日本軍が行った、もう一つの現 実を掘り起こしたドキュメンタリーである。

「ガイサンシー」とは、山西省一の美人のこと。そううたわれた侯冬娥を、班が訪ねて いったとき、彼女はすでに故人となっていた。そこで班は、同じ境遇に置かれて「姉妹 」のように生きた老女たちを捜し出し、一人一人に話を聞いていく。彼女らは当時15歳 前後で、日本の将兵と手先の中国人によって強制連行された。日本軍トーチカのある建 物に監禁され、連日、大勢に性暴力を振るわれた。そのことを昨日の出来事のように話 して聞かせる。老女の語り口から、ガイサンシーの悲しい生涯も浮かび上がってくる。

 映画を撮った班は、中国撫順市の生まれ。彼は日本人残留婦人に日本語を教わり、日 本に留学し、残留婦人の帰国運動に携わるなかで、戦争被害者の女性たちの問題を追及 するようになる。

 映画は、彼女らとかかわった加害者側の元日本兵たちにも証言を求めている。一人の 元兵士が「強姦を皆がやっているのを面白がって笑いながら見る人間になってしまった 」と述懐しているのが印象に残る。 (木下昌明)

*「サンデー毎日」(07年10月21日号)所収


Created bystaff01. Created on 2007-10-16 10:48:19 / Last modified on 2007-10-16 10:52:28 Copyright: Default

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