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●『長江哀歌』
「中国」はどこへ向かうのか?
映画が問う「三峡ダム」のいま

 いま、中国が国家的事業として総力をあげているものに北京オリンピックと「長江の 三峡ダム」がある。貯水池の長さが600キロで東京〜神戸の距離にあたり、世界 最大のダムといわれる。その建設に際して数多くの市街、歴史的景観や文化遺産、田畑 が水没し、113万人余りの住民が強制的に立ち退きを強いられ、生活手段も奪われた 。

 この問題を取り上げた映画「長江哀歌」が8月18日から日比谷シャンテシネで公開さ れる。監督は、36歳ながら、いまや中国映画界を代表する賈樟柯。彼は内陸部の山西省 出身だが、「社会主義」から改革開放を経て「資本主義」へと逆転していく中国社会で 翻弄される故郷の若者たちを描きながら、そこにある矛盾を追ってきた。本作も昨年度 ベネチア国際映画祭で金獅子賞グランプリを受賞している。

 物語は、古来「水の都」と親しまれた奉節を舞台に、はるか山西省からやってきた男 と女がそれぞれに人を捜すというもの。男は炭鉱夫で16年前に別れた妻子を、看護婦だ った女は、2年前に出稼ぎに出て音信不通になった夫をたずねる。カメラは2人の姿を 追いながら、瓦礫の山と化していく市街と、それとは対照的な山上の近代的なビルの群 れをとらえる。同時に、雲のたなびく山々、船が行きかう大河をとらえて、変わりゆく 風物を愛惜込めて描きだす。その中に、住民を追いたてる連中や新たな住み家を求めて さまよう人々もいる。

 画面に一度も登場しないが、「厦門の女」とよばれる女が背後で暗躍していることも 分かる。厦門は経済特区の一つ。女はそこの「富人」階層の一員で、ダムは金儲けの手段と化している。中国は、どこへ向かうのか―そう、監督は問うている。

*『サンデー毎日』2007/7/29号所収

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●『belief』
カメラが「カウンセラー」になる!
「統一教会に入信した母」の映画

 編集部あてに一枚のDVDが送られてきた。「belief」という62分の映画である。  映画の公開日や推薦する人の名前とコメントのチラシも添えられていた。公開は7月 28日〜8月17日まで。シネマアート下北沢でのモーニングショーのみ。推薦者には香山 リカ、紀藤正樹、有田芳生といった著名人が並んでいる。

 この映画は、自分の母親が「統一教会」に入信したことを知った息子、つまり監督の 土居哲真が信仰をやめさせるために彼女にカメラを向け、対話を重ねていくもの。登場 人物は、この母を中心に監督と兄夫婦とその子ども、「統一教会」の信者、教団を「最 大の破壊的カルトだ」と批判する学者、カウンセラー、弁護士たち。

 映画にドラマチックな展開があるわけではないが、観る者を引き込まずにはおかない のは、人間存在の危うさ、精神のもろさを目の前に突きつけてくるからに違いない。

 この種のドキュメンタリーには「home」(02年)という話題作があった。映画学校に 通う弟が、ひきこもりの兄とそれに悩む母親を撮り続けた結果、ついに、兄はカメラと 向き合い、社会へ出て行った。

 今回の「belief」も、母と対話をしていく過程で、なぜ彼女が入信し、1600万円 もの大金を騙し取られたかが明らかになっていくが、実は監督本人が「原因」であった ことまで判明して、観る者を驚かす。そこから、依存する人間(家族)関係の負の側面 までがあぶりだされ、そこに付け入る相手の実体も見えてくるのだ。

 最近、ビデオカメラの普及によって、家庭に潜む「社会の病理」を当事者自身が掘り 起こそうとする映画が増えている。そこでは、不思議にもカメラが「カウンセリングの 役割」を演じている。これはそういった試みの一本として興味深い。

*『サンデー毎日』2007/8/12号所収


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