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木下昌明の映画の部屋・第19回『約束の旅路』『パラダイス・ナウ』

「ユダヤ人」になった黒人少年知られざる「イスラエルの顔」

 映画を観ていると、教わることが多い。たとえば、ユダヤ人といえば、ほとんどヨー ロッパ系の白人だと思っていたが、ラデュ・ミヘイレアニュ監督の「約束の旅路」でア フリカの黒人にもユダヤ人がいることを知った。

 彼らはエチオピアの山中で古代からソロモンとシバの女王の末裔とされる「ファラシ ャの民」として生きてきた。ファラシャとは「よそもの」の意で、彼らはいつか鷲の翼 にのって「聖地エルサレム」に「帰還」することを夢みていた。1984年、それは「モーセ 作戦」と呼ばれるイスラエルの空輸計画で現実になった。スーダンの難民キャンプから 8000人のファラシャの民がイスラエルに「帰還」を果たした。

 映画は、移送された一人の黒人少年が青年に成長していく過程を通して、イスラエル 社会の光と影を描く。少年自身はファラシャの民ではないが、同じ難民キャンプにい たため、母親がファラシャの女に息子を託して連れていってもらうことにしたのだ。そ のため、少年はヤニセのユダヤの民ユとしてイスラエルへ。移民局でシェロモと名付け られたが、ヤ第二の母ユを亡くし、自分はこの国ではニセモノでしかないのだと苦しむ 。その彼を、信仰深くなく「左派」だというリベラルな一家が引き取って、息子として育てる。ここからが 、がぜん面白くなる。

 ユダヤ教中心の社会に、もっとも差別される存在である黒人少年を放りこみ、 さまざまな人間との葛藤が展開される。そこでは、人間同士が憎しみ合う「戦争」とは正反 対の、人種や皮膚の色や宗教も超えた子どもを育てることの大切さがうたわれる。校門前の衆 目の中で、吹き出モノができたわが子の黒い顔を舐める白人の母親の姿には圧倒されよう。この養母がとても魅力的。

 原題は「行け、生きて、何かになれ」―これは少年を他人に託した実母の言葉だ。

 公開は東京・岩波ホールで、3月10日から。

(『サンデー毎日』07年3月4日号所収)

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パレスチナ人が映画で問う自爆攻撃は「正しいことか」

 イスラエル・パレスチナ紛争は第二次世界大戦が生んだ「負の遺産」である。イスラエル の領土拡張でパレスチナ人を追いだし、「暴力には暴力を」という報復合戦が続き、解決のメドがつかないままに半世紀以上が経過した。

 今回、日本で公開されるパレスチナ映画「パラダイス・ナウ」(ハニ・アブ・アサド 監督)は、イスラエル占領地のヨルダン西岸で自爆攻撃をひきうけた2人のパレスチナ 青年が「これは正しいことなのか」と悩み、逡巡し、葛藤する姿を描きだしたもの。2人は自動 車の修理工のバイトをしてあてのない日々を送っていたが、ある日「組織」から殺され たリーダーの報復を命じられる。

 その2日間を追ったドラマには、外国育ちの娘がからむ。彼女は自爆攻撃に反対し、 「平等に生きる道を探るべきよ」と非暴力の抵抗を訴える。3人はそれぞれの父の生き 死にに傷痕を抱えており、考え方も一様ではない。それがドラマに奥行きを与えている 。

 舞台は、山の斜面にへばりつく住宅の密集した実在の町ナブルス。そこで2人が遺言 用のビデオを撮り、髪を切り、ひげをそって、アラーに祈りを捧げ、爆薬を体に縛りつ けるシーンも実際の儀式をなぞっている。そこからは「殉教者」がつくられる仕組みも 見えてくる。同時に「神」の名の下に若者たちを死へと追いやる組織に批判の目をそそ いでいる監督の姿勢もうかがえる―それにしても、殉教者の遺言ビデオや密告者の処刑前の告 白ビデオが店でレンタルされているのには驚いた。この社会の退廃ぶりもあばいている。

 ラストで、観客に「これでいいのか」と問いかけるように終わるシーンは見事。映画 が外国語部門のアカデミー賞にノミネートされた折、自爆攻撃にあったイスラエルの遺 族たちが反対の署名運動をおこして物議をかもした。

 公開は3月10日から東京都写真美術館ホールで。

(『サンデー毎日』07年3月11日号所収)


Created bystaff01. Created on 2007-03-10 12:58:50 / Last modified on 2007-03-10 13:03:44 Copyright: Default

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