*『サンデー毎日』2006/12/10号より
「数字ではなく人間のドラマ」
9・11の年の「もう一つの事件」
「9・11」の年、米国では、もう一つ、大事件があった。全米第7位の巨大企業「エン
ロン」の倒産である。同社は天然ガスのパイプラインなどを扱うエネルギー企業だが、
レーガン時代から規制緩和の波にのって急速に規模を拡大してきた。経済学者の中には
「エンロンのほうが、9・11よりも重大」との意見もあり、それは「市場主義の末路」
を暗示しているからだという。そのエンロンの最高責任者、ケン・レイらを中心に描い
た映画「エンロン・巨大企業はいかにして崩壊したのか?」が公開されている。
上映館は東京・渋谷のスペイン坂の途中にあるライズX(03・3464・8555
)で客席は40しかない。映画はナレーションが多く、エンロンにかかわるさまざまな人
物へのインタビューや議会での証言などで成り立っており、「娯楽作品」とは言えない
。ただ、多少の予備知識や事前にパンフレットを読むことで、「規制緩和が時として人
間を狂わせる」・という時代の断面が見えてくるだろう。
映画は、同社の倒産を暗示する幹部社員の自殺の場面で始まっているが、最高責任者
のレイが貧しかった少年時代から、いかに利益第一主義で生きてきたか、ブッシュ父子
に多額の献金をしてきたか、といった興味深いエピソードも明かされている。とりわけ
01年に起きたカリフォルニア大停電は、同社が電力価格をつり上げるために行った計画
停電だったことに驚くが、その他にも、時価会計によって資産を粉飾していたことや、
幹部らがヤ売り逃げユする一方で、社員に年金資金で自社株購入を勧めたことなど……
結果、同社の倒産では2万人の社員がヤ丸裸ユで失業した。誰もいない社内シーンが印
象的。
映画の中には「エンロンの破たんは数字の問題ではなく、ごう慢と狭量、そして強欲
がもたらした人間ドラマだ」という発言がある。一見の価値あり。 (木下昌明)
写真説明 : 映画「エンロン」―会長のレイ。有罪判決後の今年7月、心臓発作で死去した
*2006/11/29up
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Created on 2006-11-29 17:03:56 / Last modified on 2006-11-29 17:13:45 Copyright:
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