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●木下昌明のWEB版・映画批評『泥ウソとテント村』(2004年5月25日掲載)

大学は“寮”からはじまった 

木下昌明

 これは山形大学と東京大学の二つの大学寮が大学当局によってつぶされることに反対して、寮生たちが抵抗した日々のドキュメントである。これがおもしろかった。といっても、学生総体を巻きこんでの大学全体のたたかいにはならなかったし、わたしも、これを見るまでは、その全容をつかみきれないでいた。それまでは、学生側のいい分を理解しないまま雑居生活の古い寮をこわし、ワンルーム型の新しい寮でけっこうじゃないか−−と不遜な考えさえ抱いたりした。

 ところが、寮のたてかえには、悪しき大学再編をめざす政府主導のたくらみがあった。それは学生たちから寮を自由に運営できる自治権も一緒に奪ってしまうことだ。その狙いは、学生たちから真理を探究する学問の自由を奪い、集団での抵抗の意志を奪い、バラバラの個人にして企業に奉仕するロボットにしたてることにあった。たたかいは小さくとも大学の基本を問うた大きな問題だったわけだ。

 そのことにわたしが気づかされたのはドキュメントの後半部−−一人の老元教官が、寮の跡地で「大学はもともとは寮からはじまった」と発言したシーンをみたからだ。これには目からウロコだった。わたしは、大学があってエリートコースを歩む学生がいて、地方出身の貧乏学生のために安い寮が設けられたと思っていた。それは逆立ちした考えだった。かれによると、寮は修道院や共同生活で農作業しながら学問するような所と同じく、学生たちが家族的な生活をしながら主体的に互いに練磨しあっていくことで、社会への目も開かれていく−−これが大学の根っこにあったという。この発言によって、二つの大学の寮生たちがなぜ自治権を守ろうと必死にたたかっているのかがわかった。

 作品の特徴は、撮影者がプロの手になる一般の記録映画とはちがって、大勢(10人以上)のアマチュアがビデオ撮りしたところにある。それも当事者が必要にせまられて撮っている。撮ることがたたかいになっている。だから、画面はぶれたり、衝突で暗くなったり、雨でレンズが曇ったままだったり。そのことが自治を守ろうとする運動の表現になっている。つまり、これは運動が生みだした運動のための映像なのだ。

 とくに多いのは、二つの大学とも当局が機動隊やガードマンを使っての強制執行場面である。それに学生たちが寝転んだり座り込んだり、シュプレヒコールで抵抗する。また教官への信頼をなくした学生たちが「お前」よばわりして抗議するなど、騒然とした対立現場の緊迫感もつたわってくる。これら二つの脈絡のない記録の断片を、サンドイッチ方式で重ねて、深くかかわりあった一つの問題(制度批判)として編集した新田進(一部撮影)の努力は並大抵でなかったことが推察できる。

 もっとも、わたしにとって興味深かったところは、タイトルにある「泥ウソ」と「テント村」の場面。そこに二つのたたかいが象徴的に表われている。「泥ウソ」とは「ウソつきは泥棒のはじまり」をひっくり返して縮めたもの。これは山形大寮で、大学側が清掃員を使っての泥棒行為が学生側にバレたので、警察にウソをついて学生四人を逮捕させた事件。これによって学生側は二重に被害者となるが、かれらもホームビデオで証拠をつかんだり、勾留されても黙秘を貫いたり、勾留状況をへたくそな絵で表わしたり、と。これらのシーンがいい。そこから大学と警察の結託した腐敗も浮かび上がる。

 また「テント村」とは、東大で寮を追いだされた学生たちがテント村をつくって立てこもることをさす。わたしはかれらの「カフェ」と称するしゃれた建物にひかれた。残念ながら映像にはないが、そこで自主的な学習会なども催されたらしい。

 なお、これらの建物は山形大生も手伝っていて、そこに両者の連帯もみられる。一方の「泥ウソ」裁判には東大生がかけつけて支援している。そんな大学の枠をこえての交流は見ていて気持ちがいい。ここに老元教官のいう“寮”の精神が脈打っている。

 イマドキの若者たちのしたたかな奮闘記である。

(『週刊金曜日』2004年4月30日・506号より転載。その際筆者が若干の補足・修正をした。)

全国上映中。詳しくはホームページへ。


Created byStaff. Created on 2005-09-04 20:40:23 / Last modified on 2005-09-04 20:48:02 Copyright: Default

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