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トリンプ・タイ
トリンプ・フィリピン署名

世界最大の下着メーカー・トリンプと闘うタイ・フィリピンの女性たち

昨年夏から、アジアで最も注目されていた労働争議は、タイとフィリピンで同時におきた世界最大の下着メーカー・トリンプの女性労働者の闘いだ。2009年6月末、世界不況を理由に、フィリピントリンプ(1975年操業)は、マニラにある2工場の閉鎖で1660人、タイトリンプ(1969年操業)はバンコク郊外の工場の水着部門とブラ部門を撤退し、全労働者の半数1959人を解雇した。いずれも、10年、20年、30年とミシンの前で働き続け、家計を支えていたベテラン労働者たちだ。

フィリピントリンプ労組(BPMTI)とタイトリンプ労組(TITLU)は、工場前にピケをはり、復職や公正な退職金を要求し闘争をおこなった。タイでは、昨年の10月半ばから、労働省の建物の一部を占拠するという大胆な行動をとった。彼女たちはいずれも女性リーダーに率いられた労働組合のメンバーたち。フィリピントリンプ労組は1977年に、タイトリンプ労組は1980年に結成され、両労組とも女性リーダーに率いられ、女性労働者の権利や中絶の権利(タイ)をもとめて、戦闘的な闘いを続けてきた。

トリンプ社は、1886年ドイツで創業され、現在、スイスに本社を置き、140ヵ国に販売拠点、55カ国に生産拠点を置き、従業員3万人、売上高2000億円をほこる世界最大の下着メーカーである。日本国内ではワコールに続く400億円の売り上げを持つ。トリンプ社は、フィリピンでもタイでも組合との事前協議をもつこともなく、大量解雇を決定した。大量解雇は、世界金融危機による不況だと説明しているが、組合にそのデータを示すことを拒否している。世界金融危機を口実に工場閉鎖や縮小をおこない、組合がなく低賃金の中国やベトナムの工場に生産移転をもくろんでいる組合潰しだと、両組合はトリンプ社を非難している。

フィリピンでもタイでも、労働省、国会、販売店などにデモが繰り返し組織されたが、8月27日、タイ国会前でおこなわれた抗議行動では、超音波を人間に放射する兵器・LARD(エルラッド−長距離音響発生装置)が国内で初めて使われ問題となっている。LARDは、イラクに300基配備されているという円盤型の兵器で、音量を調整しながら超音波を人間に放射するという。LARDの攻撃をうけた多数の女性や子供たちは鼓膜の異常や頭痛に、通院した人もいる。

この争議には多くの国際的支援が寄せられた。フィリピン・タイの労働者は相互訪問し、昨年7月にはタイからフィリピンへ、8月12−14日はフィリピンからタイへ、14−17日は両労組の委員長とリーダーたちが香港の労組・NGOとともに香港のトリンプアジア統括本部への抗議行動をおこなった。12月には、ヨーロッパの消費者団体が二労組のリーダーを招き、12月2日のスイス・トリンプ本社前を皮切りに、24日までヨーロッパ7ヵ国でトリンプ販売店の前で抗議行動を展開した。

しかしながら、今年にはいり状況は大きく変化した。タイトリンプ労組は労働省からの立ち退きを強要され、話し合いを続けていたが、3月にタイ政府がミシン250台を支給するという妥協案をだしてきたので、労働省の敷地から撤退することを決めた。タイトリンプ労組は「トライアーム」というブランドをたちあげ、ピケットラインにミシンを持ち込み、下着を生産・販売していたが、一部の労働者は工場を借りてこのミシンを使い、生産を継続していく。刑事告訴された組合のリーダーたちの裁判闘争を抱えながらの、「トライアーム」製品の製造・販売は大変なことだろう。フェアトレードへの協力など、さらなる連帯がもとめられている。

フィリピントリンプ労組の状況はさらに過酷だ。家賃を払えなくなった労働者や子供たちは、ピケのテントに住んでいた。このピケが5月はじめに、200人以上の警察やガードマンに襲われて、撤去されたのだ。組合は新たなピケを立ち上げたが、今後、どのように闘争を継続していくか難しい局面にはいっている。

(遠野はるひ)