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タイにおけるFTAの動向とその影響

キンコン・ナリンタラック(タイFTAウォッチ・Thai Action on Globalisation : TAG

◆ タクシン政府およびFTA

現在のタイ政府は、建築、アグリビジネスおよびテレコミュニケーションといった産業 に後ろ盾された政府です。彼らは、投資および金融部門の開放により起こった97年の 経済危機を忘れたかのように、国際貿易と投資の推進による経済開発をますます推進し ています。それと共に自由貿易協定(FTA)の交渉が進められていますが、FTAとは、二 òü発展途上国òýの貿易交渉力を弱めるものに他なりま せん。

◆ タイFTA交渉例:中国との場合

中国はアセアン(ASEAN)加盟国ではないものの、タイ・中国のFTAは、1993年以来設立 されたアセアン自由貿易圏(AFTA)の一部として、交渉が進められています。

2003年に始められた自由化交渉は2004年に終了し、2005年には圏内関税縮小が開始され 、2010年にはアセアン6カ国(タイ、フィリピン、シンガポール、インドネシア、 マレーシア、ブルネイ)と中国の関税縮小が、2015年には新アセアン4カ国(カン ボジア、ラオス、ビルマおよびベトナム)の関税縮小が達成される予定です。また、そ れとは別に、前倒し実施(アーリーハーベスト)と呼ばれる枠組みのもと、生物、肉、 乳製品、動物製品、樹木、野菜および果物などの品目は、2004年1月1日から関税縮小が 開始され、2006年以内には関税ゼロにまで引き下げられる予定です。

しかしながら、タクシン首相率いるタイ政府は、アセアン自由貿易圏(AFTA)交渉下での 、タイ・中FTA交渉では時間がかかるとみなし、2003年2月の中国訪問での朱鎔基首相と の会見以来、中国との二国間交渉を公式に開始しました。その結果、アーリーハーベス トのリスト中、例えば果物および野菜は、2003年10月1日以降、貿易関税をゼロとする ことが決められました。

◆ タイ小規模農家の崩壊

タイ農業経済オフィスによると、中国からの野菜・果物輸入自由化の9か月後には、そ の輸入量は180%増加しました。タイへ輸入される主な野菜はニンニク、玉ねぎ、ニン ジン、じゃがいもで、他方、輸出品の90%はタピオカですが、輸入価格が輸出価格をは るかに凌いでいます。

果物に関しても、タイの主な輸入品はりんご、西洋ナシ、ブドウ、オレンジなどで、主 な輸出品は乾燥ロンガン(竜眼)、新鮮なロンガン、ドリアンおよびザボンなどですが 、輸出が78%の成長に過ぎないのに対し、輸入が伸びて、これもタイの142%の赤字 です。中国から輸入された野菜や果物は、タイ産の平均3分の1ほどの価格なので、中 国産の商品がタイの市場に浸透するのも当然です。

2003年10月1日の貿易自由化施行直後に、タイの農業・協同組合省は、中国から圧倒的 安価な農産物が市場に流入したことを理由に、ニンニク、赤玉ねぎ(シャロット)、お よび玉ねぎの作付面積を縮小する計画を発表しました。農業経済オフィスによれば、中 国との市場自由化前は、平均25.64バーツ/kgだった乾燥ニンニクの価格が、自由化後は 18.35バーツ/kgに落ち、2004年には15-16バーツ/kgに低下しました(1バーツ約3円)。

タイのニンニクの作付面積はかつて2万8千ヘクタールありましたが、自由化が始まっ た後、農業・協同組合省による補助金制度もあって、8千ヘクタールに減少しました。 補助金として、農民は、ニンニクの代わりに多年生樹木を植えれば1ライ(0.16ヘ クタール)につき2千バーツ(約6千円)が支払われ、他の野菜に替えれば1ライにつ き500バーツ(約1500円)だけが支払われるとされました。

低価格で生活苦のニンニク農家は、2005年、政府に対し、乾燥ニンニクの価格とし て1キロ30バーツを保証するように請願しました。それに応じて、通商省は県の通商 担当に対し、要求価格を保証するようにとの通達を出しましたが、しかし実際は、20 05年は18バーツだけを保証され、残りの12バーツは次年度にニンニク及び他の作 物(赤玉ねぎ、玉ねぎ、レイシ、ロンガン、タンジェリン)の作付けを放棄したものに 対し支払われるとされました。これでは、農民には将来はありません。

果物に関しても、価格は低迷を続け、果物生産者の状況は今もますます悪くなっていま す。タイ政府は、国内で果物の消費促進キャンペーンなどを行っていますが、その一方 で、市場原理の問題に取り組まず、少数の輸出業者による果物市場の独占を容認してい ます。要するに、タイ政府は、工業とサービスセクターがFTAから利益を得るために、 小規模農民を犠牲にしたのです。

◆ オーストラリアからの乳製品の輸入

タイのオーストラリアからの乳製品の輸入は、全乳製品輸入合計の60%を占めます(約 100億バーツ/年)。タイでは、約15万人の酪農業者がいるとされていますが、しかし この自由化の流れの中で、彼らの生活もまた苦しくなっています。

約40年前に設立された酪農協同組合はタイで最も強力な協同組合です。1日約10時間は 働かなければならないとはいえ、酪農家は生活に十分なお金を稼いでいます。なぜなら 、それは国王陛下の意向によって独立独行の精神のもとに設立された組合だからです。 しかしFTAによって、そうした組合が壊滅の危機にさらされています。牛乳の国内需要 が1日4,000トンなのに対し、国内供給量は1日2,100トンです。タイの生乳の生産コスト はアメリカ、デンマーク、オランダ(10-14バーツ/kg)とは競争できますが、オーストラ リアとニュージーランドの生産原価は低く(6-7バーツ/kg)太刀打ちできません。EUやア メリカは農業補助政策を設けていますが、タイ政府は反対のことをしています。

国内で飼育されている約40万頭の乳牛への影響に加えて、FTA合意はさらに約5〜600万 頭の肉牛にも影響を及ぼすでしょう。タイではほとんどの農民は補助的収入として、ま た、土を有機的に肥沃にするためにも牛を育てています。しかし、オーストラリアから の安い肉牛の流入により、タイの持続可能な農業が破壊されようとしています。

◆ 小規模農家への影響のまとめ

FTA推進の理由として、タイ政府は、繊維産業やその他の特定の産業に加えて、農産物 市場の拡大によって農業にも利益を与えるだろうと主張しています。しかし、中国との 貿易自由化後、タイ国内市場では明らかに問題が起こっています。酪農家や牛肉飼育農 家の問題が、政府の主張と現実とはギャップがあることを証明しています。FTAにより タイがより大きな農産物市場を確保したのは本当かも知れませんが、それから実際に利 益を得るのが誰なのかという疑問が残ります。

農産物輸出の最大の問題は関税障壁ではなく、衛生および健康基準による障壁です。タ イがFTA交渉を進めている日本、オーストラリアおよびアメリカなどの先進国は、輸入 関税は最高5%と既に低い値です。これらの国のポイントは、衛生や健康基準、また環 境基準が高いことです。タイでは既に禁止されたある種の農薬をまだ使用している中国 でさえ、農産物の輸入時に、化学肥料の残留に関して非常に高い基準を課しており、タ イの小規模農家にとっては対応が難しいのが現実です。

タイ・オーストラリアFTA協定に関連して、協定成立直後に、オーストラリアのクィー ンズランド州とタイの多国籍アグリビジネスCPグループとの間で、果物パッケージング の技術協定が交わされました。CPのCEO兼常務取締役によれば、ザボン、マンゴスチン 、ドリアン、ロンガン、レイシおよびタマリンドなどの果物のオーストラリアへの輸出 は、(韓国、香港、フィリピンおよびEUなどの国々への輸出もあって)今後ますます成長 するだろうし、クィーンズランドの主な輸入業者であるカーター・スペンサーと、作物 プランテーションの基礎技術向上と研究のために協力していくつもりだそうです。

自由貿易協定締結後、中国への輸出増加が期待されていたロンガンは、果物への関税撤 廃後も、その低迷する価格が回復する気配はなく、農民への利益は何もありません。そ れどころか、国内産業システムの慢性の腐敗と、中国における予想を超える市場規制の ために価格は落ちるばかりです。さらには、かつては農民からロンガンを購入していた 小規模の地元仲介業者が少数の大規模中国商人によって追い出されています。それらの 中国商人は、タイ国内でロンガンの価格を押し下げて、且つ0%の関税で、彼ら独自の 流通経路によって自国に売っています。政府が、タイ国内でのロンガン消費促進キャン ペーンをどれだけ行おうと、小規模生産者の生計が改善することは無いでしょう。

最後に、タイの二大製品である鶏およびエビをみてみると、それは日本で確かに販売拡 大の可能性があり、また、米国にも巨大市場の可能性があります。しかしこれらの輸出 から最も利益を得るのは誰か、想像するに困難ではありません。タイの農業および小規 模農民の将来はどうなるのでしょうか? もちろん、私たちは、まだ輸出のために生産 することができるでしょう。しかし、作物の生産は大企業あるいは契約農業によってコ ントロールされ、小規模農民が生き残る道は無いでしょう。


Created byStaff. Created on 2006-06-21 01:28:13 / Last modified on 2006-06-21 01:29:19 Copyright: Default

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