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ポリシー・スペースをめぐるたたかい

新しい貿易の取り決めは、 フィリピンの開発の選択肢をどう狭めるのか

ジョセフ・ブルガナン (フィリピン・ストップ・ザ・ニューラウンド・コアリションフォーカス・オン・ザ・グローバル・サウス)

世界貿易機関(WTO)で新たに始まった複数国間の貿易協定交渉は、開発と国際貿易か ら生じる利益のより公正な分配を約束して、2001年にドーハで始まった。ドーハ宣言に よれば、(その交渉は)「(開発途上国の)ニーズと利害を作業プログラムの中心に据 える。そして開発途上国、とりわけ後発開発途上国が、その経済発展のニーズに応じて 世界貿易の成長の分け前を得られるよう、建設的な努力を続ける」としていた。

しかし構成国がいわゆる開発ラウンドの幕引きに向けて動き出すにつれて、フィリピン のような貧しい国のための交渉議題が進められる可能性はなくなっていった。その交渉 は開発の条件を整備して繁栄をもたらす代わりに、ポリシー・スペースをめぐるたえざ る争いの場になった〔訳注−ポリシー・スペースとは、ある国家が自国の政策(関税率 など)を自国で決定できる裁量の幅のこと〕。途上国は自らの開発目標の遂行のために 国策を使用する権利を守ろうとしている。

フィリピンは、よい実例である。貿易交渉に関して言えば、フィリピンは戦術を用いる 余地のほとんどない開発途上国である。私たちはほぼ20年間、実質的な関税率の引き下 げになる一連のプログラムを実行してきた。そしてフィリピンは、WTOのもとで、ある いは二国間で、自由貿易協定(FTA)を交渉し続け、関税を減らして経済をさらに自由 化することをめざしている。

WTO交渉における現在の提案は、農業、水産業を含む他の工業部門、さらにサービスの ポリシー・スペースを実質的に侵食するであろう。新しい妥協は、拘束関税率と適用関 税率をさらに減らし、工業製品の関税による拘束をさらに強め、国内でのサービスに対 する規制を弱めるであろう。

合衆国とEUのような貿易超大国から出された交渉議題は、複数の戦線でポリシー・スペ ースに攻撃をしかけている。開発途上国は、それに対抗する提案を考え出し、ポリシー ・スペースの侵食の効果を緩和する予防措置を講じてきた。

その交渉でのフィリピンの防衛的な態度は、最近フィリピンが参加することになったグ ループとこのグループから出された提案に明らかである。

農業では、フィリピンは開発途上国のG33の主要メンバーである。このグループは特別 産品と特別セーフガード措置(SP/SSM)の規定を推し進めている。

NAMA(非農産品市場アクセス)では、開発途上国の柔軟性が戦線になっている。香港閣 僚会議の前に、11の開発途上国からなるグループは、柔軟性を独立の規定として扱い、 フォーミュラの議論から切り離すことを求めた。フィリピンはこのグループの一翼を担 っている。

サービスでは、国内の規制に関する議論は、自由化の強力な推進を和らげている。一方 では、外国サービス業者の国内市場への参入をうながすための規制緩和の諸要求があり 、他方では、サービスの自由化を規制するための各国の権利がある。その議論は、この 二つの議題をうまく両立させることをめざしている。最近のブラジルとフィリピンによ る提案は、開発途上国が新しい規制を導入して、自国の目標を達成する権利を持ってい ることを再度強調した。

◆ その取り決めに価値はあるのか?

構成国は農業とNAMAのモダリティに関する重要な期限である4月30日を守っていない。 その期限が破られたことで、二種類の反応が生まれた。一般的に開発途上国は、不公平 な取り決めの影響を再調査し、「開発」が交渉の軸であるべきとあらためて主張してい る。これによって、議論をさらに広げるチャンスを生かそうとしている。他方で、自由 化攻勢で得をする諸国は、期限が守られなかったことを、交渉強化の合図と見ている。 そして香港で達した合意からのさらなる「後退」を警戒している。

新たな期限に向けて、交渉は進められている。しかしながら、このいわゆる開発ラウン ドなるものは、本当に推進する価値があるのかという疑問は残されたままである。

ドーハ・ラウンドから得られる利益と言われているものは、見積もり通りには実現しな いかもしれない。最近のカネギーの研究の結論では、ドーハのシナリオがすべて実現し たとしても、地球全体の収入は600億ドルに満たない。すなわちそれは、現在の地球全 体の国内総生産(GDP)のわずか0.146%(1%の約七分の一)である。個々人の経済に もたらされる利益も小さく、実収入が1%を超えて上昇するのは中国のみである。加え て、その研究はこう結論づけている。「各国が貿易政策を変更するときに課される調整 コストは、以前よりも不気味に立ちはだかっている」。

◆ 調整コスト

1995年のWTO結成以降に実施された貿易政策の変更は、途上国が懸念する少なくとも二 つの主要な領域に損失をもたらしてきた。一つは収入の効果である。経済協力開発機構 (OECD)の研究が報告するところでは、開発途上国は現在、1560億ドルの関税収入を得 ている。国連貿易開発会議(UNCTAD)による予測によれば、この関税収入の基盤は、非 農産品の関税が「スイス・フォーミュラ」のもとで削減される「野心的な」シナリオに おいては、41%まで下降するだろう。

加えてその研究の指摘によれば、低開発段階にある諸国は、自国のマクロ経済の安定を 維持し(そのなかでも重要なのは、持続可能な財政である)、収入の減少が貧困削減、 再分配、開発能力に及ぼす逆効果と対決している。

もう一つの懸念される領域とは、雇用の喪失である。東南アジアでは、NAMAに関する野 心的な取り決めに伴う雇用の喪失は、非鉄金属(6.4%)、その他の工業製品(2.3%)、 自動車(6.6%)、電気(1.7%)になると推測されている。

◆ ドーハを疑う

ドーハ・ラウンドの楽観と開発の展望は、ゆっくりと疑いに取って代わられた。交渉の 主要な領域のすべてで、開発の目標はさらなる自由化のための野心的な議題に席を譲っ たように思われる。

ポリシー・スペースをめぐる議論が、開発についての議題の中心をなす。一方で開発途 上国は、「開発ラウンド」の幕引きをすすめている。他方で、この交渉での防衛的な姿 勢は、途上国が自らの開発の選択肢を拘束にかけ、自国経済に大きな犠牲を強いる取り 決めに批判的であることを示している。

フィリピンのような開発途上国が、ドーハ・ラウンドの野心的な議題を撃退し、制限さ れたポリシー・スペースを守り、自ら開発の議題を要求することは、どれだけできるか 。次の数ヶ月は、リトマス紙になるであろう。


Created byStaff. Created on 2006-06-21 01:31:31 / Last modified on 2006-06-21 01:32:42 Copyright: Default

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