ピョン・ジョンピル(韓国・韓米FTA阻止汎国民運動本部)
◆ はじめに
2006年2月3日、韓国政府は突如として、アメリカとのFTA交渉を開始すると表明し た。前USTR(米国通商代表部)のロブ・ポートマンは、韓米FTAの開始を歓迎し て、次のように述べている。「今回の交渉は、この15年間すすめられてきた自由貿易交 渉のなかで、最も重要な交渉となるだろう」と。この言葉は、財界からの広い支持によ って裏打ちされている。韓米FTAはNAFTAと同じように、多国籍企業の利益を最 大化する一方で、民衆の権利や生活を犠牲にする。
◆ いわゆる4つの事前交渉
FTA交渉に先だち、韓国政府はアメリカに自らの「真剣さ」をアピールすべく、事 前に4つの新自由主義的アジェンダを遂行しなくてはならなかった。
1)2005年10月に、医薬品の価格にたいする規制を緩和すること。
2)2005年11月に、アメリカの輸入車にたいする排ガス規制を削減すること。
3)2006年2月に、アメリカ牛の輸入を再開すること。
4)スクリーン・クウォーター制度の規制を緩和すること。
これらは、韓米FTAがもたらす破壊的な結果を端的に物語っている。
◆ 暴露された韓国草案
私たちは韓米FTAがNAFTAと同じように、民衆に悲惨な結果をもたらすのでは ないかと危惧している。韓国政府はFTAによって雇用が生みだされ、貧富の差が縮ま るだろうと公言している(これもNAFTAと同じ主張だ)。しかしながら、アメリカ 政府がFTAで要求しているのは、韓国の市場を100%解放させることにすぎない。
私たちはFTAのことを「農民にたいするテロ行為(Farmer Terror Action)」と呼 んでいる。なぜなら、FTAは韓国の最も重要な農産物である、米農家の保護を撤廃さ せるからである。アメリカ側のリーダーであるリチャード・クロウダーは、「FTAは 例外を認めない」と述べている。アメリカ側の統計によると、FTA締結後、韓国の農 業生産は、現在の45%まで減少する。このことは、韓国農民の半数が職を失い、都市貧 困層となることを意味している。
また、韓米FTAは韓国の公共サービスを商業化し、私有化することにつながるだろ う。1998年に韓米投資条約(BIT)交渉が行われたさい、アメリカ政府は韓国政府に たいして、公共部門(5つの例外を除く)における「外国資本への規制」を撤廃するよ う要求した。この交渉は韓米FTAに引き継がれている。現在、そのターゲットとして ガスがねらわれていることは周知のとおりである。
もう一つ、FTAでターゲットとされているのが、医療の価格制度である。とくにア メリカの医薬品業界がもとめる価格制度が設定されることになる。
また、文化の多様性も危機にさらされる。FTAは韓国市場をハリウッドや巨大放送 資本に譲りわたすことになるだろう。
FTAは民衆の利益ではなく、両国の多国籍企業の利益となるものである。というの も、FTAとは新自由主義的な政策を強化するものだからである。5月15日に発表され た韓国のFTA草案は、このことをよく示している。その内容は、NAFTAとほとん ど同じである。そこには、外国投資家のために政府の政策や決定をむしばみ、政府や民 衆の権利を浸食するような内容がふくまれている。
◆ 東アジアにおいて、アメリカのヘゲモニーを強化するFTA
もう一つ、論点を追加しておきたい。韓国政府は2006年1月にアメリカ軍の「戦略的 柔軟性」を受けいれた。FTAをつうじて、両国間の軍事同盟はさらに強力なものとな るだろう。そして、このことはアメリカの「対テロ先制」ドクトリンを正当化すること になるだろう。
◆ 社会運動にとってのチャンスか?多国籍企業にとってのチャンスか?
しかしながら、韓米FTAに向けた政府の動きは、韓国の民衆や社会運動にも新しい チャンスをあたえている。「韓米FTAに反対する韓国国民連合」という名のもとに、 14以上の共同委員会(およそ300団体)が集結し、韓米FTAをストップさせるため の共同行動を行っている。闘争をつうじて、これらの運動はFTAをストップさせるた めの経験や戦略を共有できている。そして、FTAばかりでなく新自由主義グローバル 化をも超克できるようになる。FTAは社会運動にとってのチャンスなのか、それとも 多国籍企業にとってのチャンスなのか?韓国民衆と社会運動は、その答えをださなくて はならない。