大野和興 (脱WTO草の根キャンペーン)
東北アジアと東南アジアを包み込む東アジア共同体を構想しようという論議が政府や経済界を中心に盛り上がっている。 WTO(世界貿易機関)が進める新しい自由貿易交渉ドーハ ・ラウンドと平行して二国間・地域レベルのFTA(自由貿易協定)/EPA(経済連携協定)を結ぶ動きがいま東アジアでは広がっており、この流れを自由貿易地域形成に結びつけ、さらにその先に東アジア共同体をおくという構図である。 こうした動きが出れくる背後には、東アジア地域が巨大市場として成長し、経済のつながりが急速に深まっている現実があることはいうまでもない。 この6月15・16日、東京で、「アジアの統合に向けた新しい枠組みの構築」(Creating a New Agenda for Asian Integration)をテーマに掲げて開かれる世界経済フォーラム(WEF)東アジア会議は、そうした流れの一環として位置づけることができる。 「アジアの統合」を正面から掲げたこの会議は、東アジアにおける自由貿易・経済連携の動きをいっそう促進するであろう。 2006年6月17日、私たちはこの東アジアフォーラムに対抗して、「大企業と大国によるアジア統合に異議あり!」と銘打ったアジア民衆フォーラムをもつ。それはなぜか。
それは、市場の繁栄を謳歌するアジアではない、より広く深い“もうひとつのアジア”が存在しているからだ。アジアの圧倒的多数の人々は、この“アジア”で生活している。 日本でのそれは、リストラと成果主義賃金におびえる労働現場、衰退する地域と解体する農林漁業、などの形をとって私たちの周りを囲んでいる。 アジアの諸地域では問題はもっと深刻である。貿易や投資の自由化が生む激烈な市場競争のなかで生存基盤を失っていく生活者・小生産者の存在が、都市でも農村でも目につく。 大企業や公共事業に土地・水を奪わ れた農業民のたたかいが各地で起こっている。
例えば日タイFTAで日本政府は、2011年までに自動車部品関税を、2015年までに鉄鋼の 関税を撤廃させることや、タイに進出する日本企業の出資条件を緩和させることに成功した。 タイを軸に組み立てられているASEAN地域の自動車生産・販売網は、これによって日本の自動車資本に完全に組み込まれたと見てよい。
こうした人々の状態は社会の不安を呼び、社会不安は政治不安をつくりだす。 在日米軍の再編によって、世界を対テロ戦争の戦場と位置づける米軍と一体化した自衛隊は、アジアでその存在感を発揮しようと動き出している。 そのための条件作りとしての憲法・教育 基本法の改正、共謀罪制定などが政治日程に上がり、かつて日本の侵略戦争に苦しんだアジアの人々の間に危惧の念が広がっている。 小泉首相の靖国参拝がその危惧にいっそうの裏づけを与えている。 自由貿易を旗印とする「アジアの統合」、東アジア共同体への道は、こうした政治的・軍事的動きと密接にリンクしあっている。 そこから生まれるのは、共生と和解ではなく、相互不信と対立でしかないであろう。 アジアに何層もの階層社会が生まれ、搾取と支配の仕組みが構造化されることになる。 そのヘゲモニーをめぐって米日、中国などが争い、軍拡競争と軍事的危機が作り出される。
こうしたきにアジアの民衆、工場や田畑や海や山で働き、くらす人々は、どう対峙し、いかなる対案を用意するのか。 そのことがいま私たちに問われている。 この6・17シンポを、競争と対立ではなく、共生のアジアをめざす私たちの実践の第一歩としたい。