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ブレクジットのブラックホールの中で何が育っているのか

[ワーカーズ] INTERNATIONAL

チョン・ジユン(もう一つの世界に向けた連帯実行委員) 2019.05.13 10:26

[出処:Chris Bertram (Flickr)]

最近ヨーロッパ連合(EU)が英国のブレクジット(Brexit:英国のEU脱退)の予定日を 10月31日まで先送りすることに合意した。 しかし一時的な延期でしかなく、 今後も英国社会は続いてブレクジットというブラックホールの中でうず巻くだろう。 このうず巻きは強硬脱退派(ハード ブレクジット)、 穏健脱退派(ソフト ブレクジット)、 残留派と四分五裂して、衝突とマヒを繰り返している。 英国の下院だけでなく英国社会全体はもちろん、対立は特に路上で自明に現れている。

去る3月末、英国のロンドンで100万人が参加するブレクジット反対デモがあった。 これは昨年10月に70万人がデモ行進して「民衆再投票(The People's Vote)」 を要求したのに続く二回目の集会であった。 参加者の多数は新移民の多人種青年たちで、 2003年のイラク戦争反対集会以後、 英国の歴史で最大規模のデモだった。 このデモの前後にブレクジットの撤回を要求する議会請願署名には、 4日で500万人が参加した。 世論調査によれば、労働党員のほとんど、労組員の多くもブレクジットに反対している。

しかし実際には英国の急進左派は、こうした下からの反感に共感することも 共にすることもできずにいる。 主要な急進左派団体はそのデモに参加せず、 労働党の左派的指導者のジェレミー・コービンも参加しなかった。 事実、英国の急進左派の多くは2016年の国民投票の時にブレクジット賛成の投票を主張した。 そのため当時、僅差でブレクジットが可決された時、 急進左派は歓迎した。 その上、これを「階級投票」による労働階級の勝利と見た (代表的に社会主義労働者党(SWP)がこうした立場だった)。 もちろん、製造業が崩れた郊外地域の低所得・低学歴層から脱退票がたくさん出たのは事実だった。 こうした態度だったため、急進左派の多くは今でもブレクジット反対陣営の 第2国民投票(『民衆に任せろ!』)要求を支持していない。 事実、再投票をすればまた賛成の主張と扇動をすることが負担になって、 左派内部の対立と分裂が表出されることを心配しているようでもある。

こうした急進左派の立場は実際、理解できる面がある。 EUが人権・労働権を保護してきた進歩的機構であるかのように説明してきた メインストリーム・メディアと違い、 EUは初めから米国と競争するためにヨーロッパ各国に新自由主義的な規則と構造調整を強制するために作られた構造物だ。 殺人的緊縮政策をギリシャに強要してきたのもまさにEUだ。 また、EUと保守党が一致協力して進めた緊縮政策は、 英国の労働者の人生を破壊してきた。 EUはヨーロッパに渡ってこようとしていた中東の多くの難民が 地中海で溺死してきた悲劇にも責任がある。

そのため、左派は伝統的にEUの新自由主義と帝国主義的性格を批判し、反対してきた。 そしてブレクジット国民投票の時にも賛成投票を主張して、 これを左派的脱退(Left Exit)、レクジット(Lexit)と表現した。 彼らは「EUはヨーロッパの支配階級とエリートのためのシステムでしかなく、 緊縮と既成の体制に怒りと不満を持っている人々が今、 ブレクジットを支持している」とし 「ブレクジットが可決され、このシステムが危機に陥れば、 それはわれわれ左派と労働階級の機会になる」と主張する。

[出処:peoples-vote.uk]

人種主義と反移民問題

しかし、ブレクジットはこのような立場で単純化することはできない。 英国の有名な歴史家で、社会主義活動家のニル フォークナー(Neil Faulkner)は、 こうした態度を強く批判しているが、彼の主張を一度調べてみよう。

「過去にもこれと似た主張があった。 モスクワの指令下にあったドイツ共産党は1930年代初期、 ワイマール共和国の危機を歓迎し、 ファシズムに対抗して(『社会的ファシスト』と上塗りされた)ドイツ社民党と連合することを拒否し、 『ヒットラーの独裁は社会主義革命への踏み台になる』と主張した。(…) 1932年にヒットラーの運動が反ワイマール運動だったのと同じように、 ブレクジット運動は反EU、反議会、反体制運動だった。 ヒットラーは失業者、未組織労働者、破産した自営業者と、 忘れられた『存在感のない人々』からの支持を受けた。 同じように、ブレクジット運動は世界化、新自由主義、緊縮の犠牲である 社会の底辺の人々の間に漂う巨大な痛みに依存した」。 [1]

これはブレクジットをめぐる左派の地形が単純ではなく、 われわれがブレクジットの暗い側面である人種主義と反移民の問題を 重く見回さなければならないということを示す。 3年前、英国保守党のデービッド、キャメロン総理は、 ブレクジット投票カードを切って、国内的な問題で積もった不満の矢を 移民問題に回そうとした。 保守党の内外で自分の右翼競争者を統制し、主導権を強めようとすることでもあった。 しかし一度蓋が開かれたブレクジットというブラックホールは、 キャメロンの意図のとおりには動かなかった。 英国独立党(UKIP)のナイゼル・ファラージ(Nigel Farage)と ボリス・ジョンソン(Boris Johnson)のような保守党の右派が 人種主義の扇動をしてブレクジットを主導し始めた。 彼らの主張はこういうものだった。 「EUの過度な労働・環境規制と分担金が英国経済を亡ぼす」、 「国境統制権を確保して、あふれる移民を防がなければならない」、 「移民が多すぎて、福祉の負担が高まる」、 「EUの超国家的性格が英国のアイデンティティを威嚇する」。 特に人種主義右派は、白人低所得層の中で 「既成政党とエリートが誤った政策ですべてを亡ぼした」 というポピュリズム的主張をし、それを反移民扇動と連結させた。 「われわれは多国籍企業と大型商業銀行と政治家の嘘と腐敗とトリックと戦った」、 「主流政党はこれまで移民者によって病院の予約が取られ、 学校に席がなく、所得が低い大衆の苦痛を無視した」。 これがまさに英国独立党の指導者のナイゼル・ファラージが大衆の怒りをあおって言った言葉だ。 移民者をまるで集まってきた獣のように描写したポスターは、 この人種主義的選挙運動の象徴だった。 絶頂はブレクジット投票の数日前に出てきた労働党の ジョー・コックス((Jo Cox)議員殺害事件だった。 反移民人種主義者のテロ犯、トーマス・メイヤーは難民と連帯してきた ジョー・コックス議員を殺害し、 「英国が優先」と叫んだ。 「英国が優先だ」は、まさにブレクジット賛成派の核心スローガンであった。 数日後にブレクジットは過半をかろうじて越えて可決され、 人種主義的右派は歓声をあげた。 フランスのルペン、米国のトランプもこの結果を歓迎した。 結局、「新自由主義と緊縮が生んだ不満が、人種主義右派が主導する投票を通じ、 ねじれた方式で表出された」のがブレクジット投票仮決議の本質だった。

今、テレサ・メイの保守党は分裂し、弱まっているが、 概してハードブレクジットを追求している。 ソフトであれハードであれ、保守党が出したブレクジット方案は すべて移民者に対する攻撃、国境統制強化と連結している。 しかも5月末のヨーロッパ議会選挙を控えて行われた世論調査の結果によれば、 英国独立党の支持率は13%、分離したナイゼル・ファラージによるブレクジット新党の支持率は12%だ。 人種主義政党がさらに成長している証拠だ。 今日、英国だけでなく、ヨーロッパで人種主義右派とナチの危険は決して過小評価できない。 フランスではナチのルペンの国民戦線が次期大統領選挙支持率1位を記録している。 オーストリア、ドイツなどで極右が急成長している。 2008年に始まり、解決の兆しを見せない経済危機、 中東を地獄にした戦争、犠牲を作って労働者を仲違いさせるイスラムフォビア、 左派の失敗と分裂などがその背景になっている。 この中で極右は失業者、貧民、疎外された人々の既成体制に対する 不満と怒りを突いて基盤を広げている。

歴史を遡って、1930年代のヨーロッパでは似たような要因がさらに深刻な状況だった。 経済危機は1929年の大恐慌として爆発し、 人種主義はユダヤ人を犠牲にした。 当時、ドイツではヒットラーとナチも失業者、貧民、疎外された人々の 既成体制に対する不満と怒りを利用して急成長した。 30年代初めにナチは与党だった社会民主党州政府への不信任投票を提起した。 当時、ドイツ共産党はこの投票に賛成票を投じて、それを「赤色国民投票」と呼んだ。 ドイツ共産党が執権社民党に反対する理由は、 今日、左派がEUに反対する理由よりさらに多かった。 社民党はローザ・ルクセンブルグのような革命家を殺害して発砲までして、 労働者のストライキを踏みにじっていた。 ドイツ共産党は社民党の危機とナチの台頭を 「体制の危機で左派の機会」だと歓迎した。 だがその結果は災難だった。 これは今日のブレクジットで「左派的脱退」を主張した一部の左派が、 その結果を「労働階級の前進」として歓迎したことをまた振り返らせる。

ねじれたEU賛否戦線は解体しろ

今、英国でブレクジット賛成なのか反対なのか、まったく分からないという 「労働党の謎」は相変わらずだ。 ブレクジットに賛成すれば人種主義右派に同調するように見られ、 反対すればEUが推進する新自由主義と緊縮を支持するように見られる状況で、 労働党は困惑している。 労働党内外のブレアの後裔たちはこうした難点を利用してブレクジット反対運動の主導権を握り、 労働党を分裂させて第3党を作る機会に利用しようとしている。 労働党の指導者ジェレミー・コービンは 「脱退か残留かの区分が核心ではない。 労働する多数と、富を独占する少数の区分が本当の対立」だといったが、 もちろんその通りだ。 だがご存知の通り、 「われわれは労働者側だという勢力と、われわれは資本家側だという勢力が 並んで向き合って戦う」ような純粋な階級闘争は現実にはない。 階級敵対と対立は、あらゆるよじれた形態で現れるようになっており、 今、英国ではブレクジットを通じて表れている。 当然、双方ともに支配者と労働大衆が混じっている。 だが3年前、残留に投票した側には 有色人種、ムスリム、移民者、青年、労組員之方が多く、 彼らは概して親移民、親フェミニズム、親エコロジーの傾向を示した。[2] 昨年10月と今年3月に100万近くの人々がロンドンの通りに出たのは、 彼らが行動する意志があるということも見せた。

直ちに彼らと共に行動し、その中で基盤を用意して広げることが、 英国の左派にとって重要な課題であろう。 新自由主義的なEUが代案ではないという主張でから、 直ちにブレクジット賛成という結論を出してはいけない。 ごみ箱から抜け出そうとして肥壺を選択することはできないのだ。 すなわち、EUから抜けて英国の国民国家の強化に進むことは、より良いことにはならない。 ブレクジットを主導する右翼はサッチャリズム時代の英国を懐かしみ、 ヨーロッパ内でビザと旅券なく移動できる自由もなくそうとする。 それでも、ブレクジット賛成に引きずられた 低所得白人労働者、失業者、貧しい年金生活者などを投げ出そうということではない。 むしろ、左派が反右派・親移民労働大衆と青年たちの中に基盤を広げ、 団結と闘争を建設し、緊縮を中断する力を見せる時、 さらに効果的に彼らを左に牽引する機会になるだろう。

そして、そのような闘争の中で将来「EUを支持すのか、反対するのか」というねじれた戦線を解体しなければならない。 「移民を歓迎するのか、反対するのか、緊縮を反対するのか、支持するのか」という、 さらにはっきりした戦線を形成し、闘争を建設しなければならない。 そのような闘争がさらに強力に広がる時、 左派が危機と分裂を克服し、労働階級多数の信頼を得る時、 新自由主義的EUを投げ捨てるだけでなく、 世界の資本主義を根本的に変革する可能性も高まるだろう。 3年前、ジョー・コックス議員テロ犯の「英国優先」という叫びに対する左派の答は明らかだ。 「英国優先」ではなく、最も抑圧される移民と連帯し、 奪われたすべての人々の団結と闘争を建設することが常に「最優先」だ。[ワーカーズ54号]

[脚注]

[1] http://www.europe-solidaire.org/spip.php?article38304

[2] http://leftunity.org/trumps-victory-hitlers-shadow-a-clear-and-present-danger-time-to-act/

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-05-18 19:45:06 / Last modified on 2019-05-20 14:35:10 Copyright: Default

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