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全国に伸びる「文在寅型雇用」

[ワーカーズ・イシュー(2)]光州から群山、亀尾へ…『雇用』をやるから『労働三権』を渡せ

キム・ハンジュ記者 2019.05.03 10:34

[出処:青瓦台]

「光州型雇用」が「共生型地域雇用モデル」という名で全国的な流行だ。 文在寅(ムン・ジェイン)政府はこれを核心政策として法・制度化を進めている。 「国家均衡発展特別法」を改正し、 企業の税制・立地支援を助けるということだ。 全羅北道群山市、慶尚北道亀尾市などの地方自治体の動きも忙しくなった。 地方自治体は企業を誘致することで雇用問題を解決でき、 企業は政府の支援を受けるのでそれなりに興味をそそる事業でもある。 では果たして「共生型地域雇用」で労働者が得るものは何だろうか? 全国へと伸びていく「文在寅型雇用モデル」を調べた。

企業には『総合ギフトセット』、労働者には『鎖』

文在寅政府は去る2月 「共生型地域雇用モデル拡散方案」を発表した。 政府は「難しい雇用状況を打開して、 持続可能な雇用創出基盤を作るためには、 経済主体間の譲歩と妥協を通じた共生協力が重要だ」という推進背景を明らかにした。 これと共に各経済主体に役割を提示した。 労働者の役割は、 適正勤労条件合意(持続可能な雇用のための合理的勤労条件)の受け入れ、 合理的労使関係構築(安定的勤労環境のための協力体系維持積極的に協力)、 生産性向上(熟練向上のための訓練プログラム適応参加など)だ。 安定した雇用を保障されたければ、多少低い賃金でもこれを受け入れて、 どんな労働権の侵害が行われても使用者側と「協力体系を維持」しろという意味だ。 地域型雇用モデルが労働三権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を侵害するという憂慮は すでに光州型雇用で現実になった。 去る1月、現代自動車と光州市、韓国労総は光州型雇用の妥結の過程で 「新設法人の労使協議会決定事項の有効期間は、累積生産目標台数35万台が達成するまでとする」という条項に合意した。 これは事実上、賃金の団体協約を延期させるもので、論議がおきた。 韓国労総側は付属合意書で防御装置を用意したというが、 付属合意書の具体的な内容はまだ知らされていない。

「共生型雇用」という趣旨による労働者福利厚生方案も低い水準だ。 光州市は4月17日、雇用労働部事業公募選定によって拠点型(産団内)公共保育園を建設すると明らかにした。 定員は150人規模だ。 今回の光州型雇用の妥結により予想される新規雇用人員は1万人を越える。 まだとても不足だ。 これと共に光州市側は体育館公募事業も確定して進めていると伝えられた。 この外に推進される事業は目に見えない。 光州市の関係者は光州型雇用全体事業の予算うち、福祉事業の割合についての質問に 「(福祉事業が)確定していないので話すのは難しい」と答えた。 政府次元での福利厚生計画も明らかにされた。 賃貸住宅を供給して、周辺アパートとオフィスホテルを寄宿舎で利用する時、 家賃は月30万ウォンを上限として「3年間」支援するという方案だ。 また職場保育園などの施設建設費設置費の支援規模限度をさらに2億ウォン増やすという水準の計画だった。

だが企業支援においては「特典」といえるような方案を吐き出した。 地方自治体は企業の投資額の一部に対して補助金を支払い、 公有地を借りる場合の貸付料率を引き下げて、 長期賃貸および随意契約を認めることにした。 また産団内に取得した不動産に対する地方税(取得税・財産税)の減免措置も実施する計画だ。 中央政府でも地方投資促進補助金の補助率を加算することにした。 こうなると大企業は3ポイント、中小企業は5ポイント、中小企業は10ポイントの補助金をさらに受け取れることになる。 同時に補助金限度も現行の100億ウォンから150億ウォンに上方修正した。 また、ファンド支援、投資税額控除優待などの法人税減免、 賃貸専用産団優先提供および低賃貸料の適用などを出して「全幅的な支援」を予告した。 そのため政府は上半期までに「国有財産特例制限法」を、 下半期までに「租税特例制限法」を改正すると明らかにした。 「国家均衡発展特別法」はすでに国会に発議されている。

▲工事中の光州ピッグリーン産業団地[出処:キム・ハンジュ記者]

「全北型雇用」に乗り出したMSグループコンソーシアムの実体

政府の支援方案の発表以後、 各地方自治体は地域雇用モデル事業の誘致に全力を傾けている。 すでに妥結した光州市以外で最も先導的に動いている所は全羅北道群山市だ。 群山市は韓国GM群山工場の閉鎖で「産業危機対応特別地域」と指定されるなど、 地域次元の雇用対策が急がれている地域だ。 全羅北道も3月から「共生型雇用作業チーム」の運営を始めた。

こうした背景と共に3月29日、MSオートテック、(株)ミョンシンなどのMSグループコンソーシアムが韓国GM群山工場を買収することにした。 全羅北道によれば、MSグループコンソーシアムは委託生産により、 2021年までに年間5万台の電気自動車生産を目標に捉えた。 また2025年に15万台まで生産量を増やす計画だ。 雇用の規模は直接雇用900人、間接雇用は2千人にのぼると見通している。 適正賃金は年4千万ウォン程度で議論されているという。 全羅北道は4月21日の報道資料で 「MSグループコンソーシアムが売却代金総額1130億ウォンのうち、 契約金10%をすでに納付したのに続き、 残金は6月28日に払う」と明らかにした。 全羅北道と群山市はこれに基づいて6月中に地域雇用事業を申請する予定だ。

果たしてMSグループコンソーシアムの買収でできる群山工場の労働者たちは 「良質の雇用」が得られるのだろうか。 事実、地域ではすでに憂慮の声があがっている。 最大の問題は委託生産だ。 民主労総全北地域本部によれば、 MSグループは(株)MSオートテックを支配企業とし、 国内8社、海外5社の法人を従属会社に置いている。 これらの法人は現代自動車1次協力社だ。 昨年のMSグループ売り上げの70.3%が現代車で発生した。 MSオートテックの売り上げの66.3%も現代車から出た。 現代車の従属度が高いという意味だ。 MSオートテック設立者のイ・ヤンソプ会長は、現代自動車社長出身だ。 そのためMSグループの群山工場買収は、 事実上、現代車の電気・水素自動車外注化(委託生産)方案ではないかと問題が提起されている。 実際に2025年までに現代車の定年退職を前にして労働者は1万7500人にのぼる。 労組では現代車が新規採用をせず、 電気・水素自動車生産を委託する工場を作ったものと判断している。

民主労総全北地域本部は 「光州型雇用を全国に拡大する政府の政策と共に見れば、 韓国GM群山工場が光州ピッグリーン産団のように、 現代車グループの委託生産工場として活用される可能せがある」と説明した。 続いて「これは次世代電気、水素自動車生産ラインをアウトソーシングする構造調整の試みだと見られる」とし 「委託生産を奨励する雇用政策は多段階下請け、 間接雇用を支援する結果をもたらすかもしれない」と強調した。

事業推進での実現の可能性の問題もある。 MSグループは、群山工場の買収と稼動などに必要な4千億ウォンほどの予算に耐えられるかどうかだ。 MSオートテック連結財務諸表によれば、 MSグループの現金性資産は319億ウォンだ。 MSオートテックの現金性資産は9億ウォンに過ぎない。 ほとんどの事業資金を外部から確保しなければならない境遇だ。 企業の支払い能力が低いため、 中央政府と地方自治体でも大きな負担になるほかはない。 事業実績も良い方ではない。 MSグループの昨年の営業利益率は3.1%(製造業平均営業利益率7.6%)、 MSオートテックは-0.2%に終わった。 労組はMSオートテックが韓国GM群山工場買収による施設関連の資金をすべて借入金に依存すれば、 借入金の依存度が2018年の54.6%から、今後は68.2%へと大幅に増加すると予測した。

特にMSオートテックは2次協力業者のカジンテックに対して納品単価切り下げ、 手形支払い拒絶、一方的取り引き中断などのカプチル問題を起こした。 この事件で昨年5月にカジンテックのナム・チャンシク社長が自ら命を絶つ事件が発生した。 当時、ナム社長は公正取引調整院に紛争調整を申請したが、 結局カジンテックは廃業手続きを踏んだ。 これと共にMSオートテックが多段階下請構造を拡大したという事実がハンギョレの報道で知られたが、 ハンギョレはMSオートテックがカジンテックに知らせず部品製作に必要な金型の製作を業者ポエムに任せ、 ポエムはタドに、タドはSHメタル・エンジニアリングに下請を与えたと報道した。 SHメタル・エンジニアリングのチャ・スンフィ社長はハンギョレとのインタビューで 「MSオートテックはポエムに納品代金の85%を払い、 ポエムはタドに60%を支払ったが、 タドはSHに4億ウォンの代金を一銭も払わなかった」と話した。 多段階下請構造と下請社カプチルで社会的な物議をかもした企業に 「共生型」地域雇用事業がすっかり任せられたわけだ。

「下からの全北労働連帯」は、 「コンソーシアムの主体であるMSオートテックとセジョン工業は、現代車の部品メーカーだ。 経験と規模は完成車業者を買収したり運営する条件にならない」とし 「委託生産は多段階下請けという構造的な限界と不振になった時の構造調整の反復が憂慮されるので、持続可能な雇用は担保できない。 また群山工場買収が電気自動車を下請けで生産する現代車の計画が反映されたのであれば、 現代車は利益を最大化するのに対し、労働者は基本権の低下と勤労条件の低下という結果を招く」と明らかにした。 一方群山型雇用が労働者に提供する福利厚生は現在まで、具体的に伝えられていない。

亀尾型雇用、企業にとっては「金祭り」?

亀尾でも地域型雇用が急流に乗っている。 亀尾市は2月24日に「亀尾市地域共生雇用協議会」を構成した。 協議会には亀尾市と雇用労働部、韓国労総などが参加している。 民主労総慶北本部亀尾支部は組織方針によって不参加を決定した。 亀尾市は3月8日「亀尾型雇用」国会討論会を開くなどして雰囲気を盛り上げている。 共に民主党のキム・ヒョングォン議員(比例、亀尾乙地域委員長)が亀尾型雇用事業推進に一肌脱いだ。 彼らが亀尾型雇用に総力を傾けるのには理由がある。 193万平方メートルに達する亀尾5国家産業団地の基盤造成工事が終わったが、 入居する企業がないからだ。 4月基準、5産団の産業用地分譲率は22%に終わった。 低調な企業誘致実績を解決するために亀尾市が打ち出したのがまさに 「投資特別インセンティブ」だ。

ワーカーズが入手した「亀尾市地域共生雇用創出推進計画」によれば、 亀尾型雇用モデルは合弁投資型、企業誘致型、人員サービス型の大きく3種類に分類できる。 このうち企業誘致型を適用される企業は特別インセンティブが提供されている。 特別支援金(最大1千億ウォン)、 協力企業誘致補助金拡大支援(最大200億ウォン)、 立地補助金・移転補助金・管内の既存企業投資などの拡大支援(最大100億ウォン)だ。 政府と地方自治体がこれを負担できるのかと疑問になるほど莫大な支援規模だ。 しかし企業誘致型で労働者が受ける支援は、 産業団地内福祉館、体育施設、保育園、テーマ公園などの福祉施設の提供、 賃貸住宅供給およびオフィスホテル型寄宿舎支援、 移住定着費・給食・生活経済・金融控除などの厚生福祉だ。 企業支援は金額まで提示したが、福祉事業の具体的内容と予算規模は確定していない。

▲2019年3月8日国会で開かれた大企業誘致と亀尾型雇用創出方案討論会[出処:亀尾市]

金烏工科大学校のイ・スンヒ教授は3月の亀尾型雇用討論会で 「大企業亀尾誘致と亀尾型雇用創出方案」を出した。 亀尾型雇用1〜2社の対象企業が5産団で委託生産をして、 1万〜1万5千人の直接・間接雇用雇用を創出するという方案だ。 これによれば、地方自治体と対象企業、市民ファンドなどが総額1〜2兆ウォンを投資して独立法人を運営することになる。 このようなモデルを提案する企業はすべて財閥大企業だ。 バッテリー業種としてはサムスンSDI、LG化学、SKイノベーションが、 自動車電装部品業種としてはLGイノテク、現代モービスが、 5G基盤モバイル産業としてはサムスン電子が対象企業に選ばれた。 これと共にイ教授は労働者の適正賃金規模として3800万ウォン台を設定した。

問題は、亀尾型雇用の成功条件として「賃金交渉猶予期間合意導出」を掲げた点だ。 光州型雇用事例のように、亀尾でも労働者の団体交渉権を制限して賃金を凍結することができるということだ。 民主労総慶北地域本部のペ・テソン教育局長は 「今年の初めに行われた労使民政協議会の資料で賃金凍結に関する内容を見た。 亀尾型雇用では委託生産計画も出てきたが、 亀尾市が(企業誘致のために)あらゆる手段を動員していると見られる」と伝えた。

一方、民主労総をはじめとする労働運動陣営は、 光州型雇用をはじめとする地域雇用モデルが労働三権を制限すると反発している。 金属労組研究院のキム・ギョングン研究委員は 「光州型雇用が提示する新しいメカニズムは(労働条件に対する)決定を労使関係の外部で行われるようにすること」とし 「これは、今まで労働三権を部分的ながら保障していた法制度から抜け出そうとする試みであり、 既存の秩序を拒否して新しい労使関係を作ろうとする試みだ。 このために提示されたのが(地域型雇用の)独立法人だ。 既存の労組がなくなった現場で、 低賃金、労働時間の柔軟化、労働強化、労働三権不在が地方自治体の保証の下で可能になる」と指摘した。

続いて「賃金を減少させれば企業は投資して雇用が増えるという光州型雇用の大前提そのものに誤りがある。 これはIMF危機以後に新自由主義的政策を展開した韓国の歴史的経験から十分に証明されている」とし 「光州型雇用は元からある雇用をさらに良くない雇用に変えたと見なければならない。 光州型雇用は地方自治体の『どん底に向けた競争』を触発する危険性を持つ」と強調した。(ワーカーズ54号)

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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