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基本雇用(Basic Job)、雇用の社会化

[ワーカーズ] 99%の経済

ホン・ソンマン(チャムセサン研究所) 2018.06.04 11:16

雇用風景

2009年以後の米国の失業率は10%から2018年4月3.9%に下落した。 日本はさらに状況が良い。 経済回復に力づけられて、昨年末の日本の失業率は2.8%で、 自然失業率(完全雇用状態の失業率)の3.6%を下回った。 失業率が下がり、労働力の需要が増えると、賃金も上がり物価も上がらなければならない。 [1] だが現実はそうではない。 米国も日本も失業率が下がったが、賃金や物価は上がるどころか停滞状態か、さらに下がっている。 米国のインフレはこれまで連準目標値の2%に満たない低い水準を維持してきた。 日本も同じだ。 インフレ率もそうだが、賃金も2009年から2017年まで年平均0.1%の上昇に終わった。

失業率が改善しても賃金と物価が上がらないとのは、雇用が生じても正規雇用の形態ではなく、 非正規職、臨時職のような不安定労働が拡大しているという意味だ。 それに比例して賃金水準も停滞ないしは下落する。 もうひとつの側面で、こうした賃金上昇のない景気回復は、 労働者に対する超過搾取を通じ資本の収益性を改善させようとするものだ。

さらに問題になるのは時間が経つほど、雇用状況が悪化するという展望だ。 2008年の世界大恐慌と経済のデジタル転換により、労働供給の下方圧力が強まっている。 労働所得の中間層雇用が消え、低所得雇用が増えている。 それにより、労働力再編が現在、全世界的に広範囲に起きている。 新規雇用が縮小されるばかりか、さらに不安定で柔軟な雇用が生じている。 また私企業、民間部門の雇用創出能力も減り続けている。 国際的に独立契約者、自営業者の爆発的な増加は、 企業の雇用創出能力の低下をそのまま見せるもので、 雇用から押し出された人々が生計を維持するための厳しい生活を見せてくれる。

所得主導成長と労働柔軟化

政府の所得主導成長は、賃金所得の向上により総需要を増やし、 これを基盤として生産の拡大と所得の拡大を実現する好循環構造を作ることだ。 しかし賃金所得を向上させるためには企業が成長しなければならず、 企業が成長するためには労働柔軟化をしなければならない。 ここで労働柔軟化は、正規雇用を減らして労働時間と賃金変動性を拡大することだ。 一般的な状況では、労働柔軟化は賃金を下げることになる。 賃金を上げるには、労働力の価値を上げて労働保護を強化しなければならない。 つまり、政府はどんな盾も突き抜ける槍と、どんな槍でも防ぐ盾、 この二つを両手に持って所得主導成長を叫んでいる。 こうした矛盾を解消するには技術革新による高度な生産性の向上が必要だ。 生産性がむちゃくちゃに上がって、さらによく売れる良質の製品をもっと多く生産しなければ、 さらに多い賃金を受けることが可能になる。 政府がいわゆる革新成長(朴槿恵(パク・クネ)政権当時、このスローガンは創造経済だった)にしがみつく理由だ。

去る5月17日の革新成長報告大会で、政府はスマート工場により2022年までに7万5千の雇用を新しく作ると明らかにした。 スマート工場の導入について 「全体的に不良率と生産時間は各々45%、16%短縮し、 企業当たり2.2人の雇用が増える効果があった」と説明する。 これにより2万のスマート工場を作れば合計4万4千人の雇用が増え、 ここにソリューション、装備供給業者まで考慮すれば、合計7万5千が生まれるということだ。 労働時間は減って雇用が増えるので、スマート工場はそれこそ夢の工場だ。 しかし政府のこうしたどんぶり勘定式の計算を検討するまでもなく、 スマート工場と事実上同じ産業団地構造高度化事業を見るだけで実状が分かる。 産業団地の構造高度化事業も高付加価値先端産業育成を目標として行われたが、 雇用はむしろ減少し、その上、既存の雇用も派遣職に代替されて労働の質が低下した。 [2]

また政府は自動車業界での水素自動車開発関連の新規雇用が今年だけで3500人になると強調する。 しかし労働部が5月13日に発表した統計によれば、 自動車業種への就業者は前年同月より8.1%(3万2千余人)減少した。 構造調整と販売不振による影響だ。

現経済状況が回復局面なのか低下が始まる局面なのかについて論争があるが、 少なくとも好景気で雇用状況がこの程度なら、 また沈滞に陥る時点で雇用問題がどんな混乱を引き起こすのかは察することができる。 政府は2022年までに革新成長で30万の雇用を創出するといっているが、 最近、造船業と海運業構造調整で30余万の雇用が消えた。 小売業の増加がこうした雇用を代替したというが、 前の説明と同じように構造調整などで追い出された人々が自営業者になったという話と同じだ。

このような状況が続けば民間企業の雇用は減り続け、 今ある雇用はさらに不安定になる。 企業雇用で押し出された人々はさらに多くの自営業者になり、 家を担保に金融機関から金を借り、チキン店、喫茶店を運営して破産する運命をむかえることになる。

労働市場国有化(labor market nationalization)

だから雇用問題を市場だけに任せることはできなかった。 ほとんどすべての国で障害者と女性などの社会的弱者の雇用義務制、雇用割当制、雇用補助金 および海外移住労働者に対する雇用許可制のような労働市場介入措置を進めている。 最近、こうした形態の国家介入はさらに強化される傾向だ。

サウジアラビアは2009年以後、5%以上の高い経済成長にもかかわらず、 失業率は10.5%から12.2%へとむしろ増加した。 特に青年失業率は非常に高く、30%以上の失業率を示した。 2011年、チュニジアの青年失業者のブアジジの焼身でアラブの春闘争が起き、 サウジは青年と自国民の実質雇用を強化するためにニタカット(Nitaqat)という新しい義務雇用制度を導入した。 既存の義務雇用制度のサウジゼーション(Saudization)からさらに一足踏み込んだニタカットは、 全国のすべての企業を対象として企業規模別業種別にサウジの義務雇用を4種類の水準(Red、Yellow、Green、Blue)に区分し、 違反企業は事業免許の取り消し、外国人労働ビザ更新中断などの処罰を強化している。 その後3段階にかけて、自国人雇用の割合を上げて自国人の賃金水準とサウジ女性労働者の雇用割合といった質的評価も強化していった。 これを労働市場の「国有化」または「現地化」と呼ぶ。

こうしたサウジの労働市場国有化政策は、全生産可能人口の1/3以上が海外に流入した移住労働者で構成され、 民間企業雇用の80%以上がこうした移住労働者による特殊な状況から出た(どこかの国や雇用構造は特殊だ)。 サウジアラビア、バーレーン、オマーンなどのガルフ協力会議(GCC)国家でこれと類似の労働市場の国有化政策を施行している。 [3]

こうした国有化政策は、労働と雇用を市場に任せたり雇用支援に留まる対策では、 現在の雇用状況を改善することができないという点を反証する。 中東国家の特殊性に起因する面もあるが、 統制不可能な形態に駆け上がっている雇用状況で、 これに対する国家の責任と社会化をさらに促進する事例と見られる。

雇用保障(job guaranteeing)

2020年、米国大統領選挙を準備するにあたり、民主党の大統領選挙有力走者はすべて雇用保障を核心政策にした。 彼らは米国連準が失業率墜落を防御できず、10%以上墜落した失業率が正常に戻るのにも10年もかかったとし、 米国の経済成長が止まっている現在の状況では 国家の積極的な雇用保障政策でこれを打開していこうと主張する。 [4]

コリー・ブッカー(Cory booker)連邦上院議員は 連邦雇用保障法(Federal Jobs Guarantee Development Act)を発議した。 連邦政府の雇用保障に先立ち、労働部が15の地域を選定して3年間、 その地域のすべての成人の時間当り賃金を最低15ドルを保障して、 家族の病暇手当てと医療恩恵を保障する試験事業をしようと提案した。 バーニー・サンダース上院議員は全国2500の雇用センター(job center)の設立を含む 雇用保障プログラムを提示する。 キル・リーブランド(Kirsten Gillibrand)、 ウォレン(Elizabeth Warren)連邦上院議員も雇用保障を支持した。

デューク大のウィリアム・ダリティ(William Darity)経済学教授は、 連邦政府が雇用を保障すれば働こうとするすべての人が働けるようになり、 失業率はゼロになると主張する。 雇用保障は政府が単純に雇用数を増やす雇用支援政策とは違うと強調する。 国家による雇用保障は民間の悪い雇用を追い出すが、 誰でもそれより良い条件の仕事場を見つけられるので、 悪い雇用にとどまる必要がないためだ。 また、雇用保障は連邦政府を数百万、数千万人の米国人の雇用主になるようにする。 経済学者は労働部が育児とケア領域、インフラ構築、 コミュニティ雇用銀行(community job banks)といった雇用創出領域に投資しろと勧告している。 [5]

基本所得ではなく基本雇用(basic job)

基本所得は現在の資本主義経済状況では可能でも有意味でもない。 基本所得も市場の状況に縛られるので、不況と危機局面ではむしろ基本所得はさらに縮小するほかはない。 たとえばすべての福祉プログラムを廃止して、基本所得に一元化する右派式の基本所得は基本所得ではなく、所得補助に過ぎない (それでもこれが現実的だ)。 いくらファンタスティックな財源を話しても、 資本が過剰な状態で資本の平均収益率が低下しているのに法人税であれ消費税であれ、 税金で基本所得の必要な財源を用意することはできない。 基本所得の現実的な経路は労働力の価値低下により多くの労働者を貧困線の周辺に留まらせるための一助になるだけでなく、 障害者などの社会福祉の集中的な関心が必要な階層に対しても (必要なだけ基本所得が与えられず、既存の社会福祉は廃止または縮小されるので) 貧困を促進する役割を果たす可能性が高い。

したがって、基本所得ではなく不況と構造調整、不安定労働の中でも雇用が行われる国家責任下の雇用保障と基本雇用を形成しなければならない。 これは単に政府が予算をかけて「公共勤労」を拡大することではない。 中東国家や米国民主党が構想する雇用保障政策は、 市場の労働力受給に対する一種の調節者(automatic stabilizer)役を果たすもので、 これも基本所得と同じように窮極的に市場の状況に縛られるほかはない。 サウジアラビアにおける石油価格の低下は直ちにニタカット政策に影響するほかはなく、 米国の景気が収縮したり連邦政府の歳入が減れば、雇用保障政策の財源に大きいに困ることになる。

基本雇用は民間企業に対する雇用義務をさらに強力に付与する市場調節機能や、 これに連動する雇用保障政策としては非常に制約的にならざるをえない。 結局、産業の核心構造を国家と社会部門が維持運営しなければならない。 最近、経済成長測定に関して国際的に論争になっている家事労働のような (交換価値でなく)使用価値を持つ労働に対する再生産構造で 経済の独占部門と産業の核心構造を国家と社会が維持運営する質的な転換が伴わなければならない。 基本雇用、雇用の社会化は生産と経済の社会化という構造改革の前提で現実的に作動する。[ワーカーズ43号]

[脚注]

[1] を主流経済学ではフィリップス曲線(Phillip』s curve)だと呼ぶ。失業率と賃金上昇率(または物価上昇率)間に反比例関係を説明していて国家の失業率と物価上昇率を決めるのに重要な指標で使われている。

[2] http://www.newscham.net/news/view.php?board=news&nid=99786

[3] Enforcing Nationalization in the GCC:Private sector progress、strategy and policy for sustainable nationalization

[4] https://www.npr.org/2018/05/08/609091985/likely-2020-democraticcandidates-want-to-guarantee-a-job-to-every-american

[5] https://www.vox.com/policy-and-politics/2018/4/20/17260578/corybooker- job-guarantee-bill-full-employment-darity-hamilton

原文(ワーカーズ/チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2018-07-16 11:12:54 / Last modified on 2018-07-16 11:12:56 Copyright: Default

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