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誰のために最低賃金は上がったか

最低賃金委員会の会議構造の閉鎖性

シン・ナリ記者 2016.07.25 11:20

「最低賃金がいくらに決まるのか、毎年いらいらした気持ちで確認する。 最低賃金はコンビニでアルバイトをする母とカフェでアルバイトをする私自身の問題だからだ。 私も母も、最低賃金以上の時給を受け取ったことがない。 ただし今年は少しは期待していた。 政治をする人たちが最低賃金1万ウォンという話をしたりもしたし。 最低賃金の決定が遅れているので、何かもっと上がるのではないかと漠然とした期待をしたが、やはり同じだ。 最低賃金を決めた人たちは、ぜひ最低賃金で暮らしてみてほしい。」 (キム・ソンヒ、22)

あまりにも長くかかった最低賃金の審議が7月16日に終わった。 審議期間は108日で、最近10年以内に開かれた審議の中で一番長かった。 全員会議も14回開かれ、歴代最多を記録した。 労働者委員は全員が退場し、小商工人代表2人が最低賃金引き上げ率が高いとし、採決直前に退場した。 在籍委員27人のうち使用者委員7人と公益委員9人が今年比440ウォン(7.3%)上がった時給6470ウォンの最終案を可決した。 6月末が期間の雇用労働部長官告示日を半月も越えた。

李基権(イ・ギコン)雇用労働部長官は来年度の最低賃金7.3%値上げについて、 社会的弱者に配慮した意味が大きいと肯定的な評価を出した。 最低賃金委員会の労働者委員は最低賃金に抗議して全員辞任した。 労働者委員は7月19日、国会正論館(記者会見場)で記者会見を開き 「現在の最低賃金委員会は、労働者の苦しい現実を反映した最低賃金を決めるのが難しい限界を持っている」とし 「野党国会議員、市民社会とともに制度改善闘争に立ち上がる」と宣言した。

最低賃金委員会無用論…なぜ?

最低賃金は最低賃金委員会が決める。 委員会は合計27人で構成される。 使用者委員9人、労働者委員9人に政府側の公益委員9人だ。 使用者委員と労働者委員が協議案に対してそれぞれ9票ずつで意見がわかれた時の決定権は公益委員9人にある。 彼らが誰の主張を認めるかにより決定される構造なわけだ。 民主労総、韓国労総の二大労総が最低賃金共同声明を出し 「『最低賃金労働者の生活安定』という最低賃金法の趣旨は、 公益委員と使用者委員の談合で放棄された」と反発する理由もここにある。 実際に2007年から2016年の最低賃金審議現況によれば、10回のうち7回が公益委員案に決定された。

公益委員の公平性の問題は提起され続けてきた。 事実上、決定権を握っているが、政府側の人物としては政府のガイドラインに忠実であるしかないという指摘だ。 そのために公益委員制度を根本的に改革して、最低賃金委員会を政府の影響から自由にするべきだという主張が出てくる。 今回の最低賃金委員会に参加したある労働者委員は、 公益委員が政府の政策と数値、統計の専門家だけで、最低賃金で暮らしていかなければならない人々の暮らしを知らないと批判した。

彼は「公益委員の面々を調べれば、大学の経営学部の教授や政府傘下機関の研究員がほとんどだ。 彼らには経済学的な専門性はあるかもしれないが、労働者の人生に合った賃金を理解して、 労使間の意見の相違を調停する能力があるのか疑わしい」と話した。 現在、公益委員9人のうち4人が大学経営学部の教授だ。 その他の人物は韓国開発院、韓国労働研究院、韓国職業能力開発院などの研究員だ。

最低賃金委員会の閉鎖性も問題にされた。 最低賃金が庶民の人生に重要な影響を及ぼすのに、決定の過程を透明に公開していないという指摘だ。 これまで最低賃金委員会の会議は録音記録があっても国会資料要請を通してのみ確認が可能だった。 会議録は速記録の形態ではなく、結果を要約しただけの水準で公開されており、会議の傍聴も容易ではない。

昨年、閉鎖的な運営に対する社会的議論が高まり、 労働者委員の要求で慣行的に認めてきた会議の傍聴者数が増え、会議録がホームページに公開されたりもしたが、 一時的な改善でしかなかった。 最低賃金の社会的影響力を考えれば、責任性が低くて透明性が保障されない運営方式だ。 昨年、共に民主党の張(チャン)ハナ前議員は 「最低賃金委員会の会議と会議速記録を公開して傍聴を認め、 最低賃金決定の公正性と透明性確保を通した国民の知る権利を保障しろ」という趣旨の 最低賃金法改正案を発議したが、通過しなかった。 参与連帯行政監視センターも、去る5月に最低賃金委員会会議速記録の作成と公開を義務化し、 市民の傍聴を保障するなど、透明性を高める方案を用意するよう要請したが、 今回の委員会も変化はなかった。

2年続けて最低賃金委員会に参加した青年ユニオンのキム・ミンス委員長は 「最低賃金は本来の目的が明確だ。 労働者の人間らしい暮らしのために引き上げられる。 それでこれをめぐり労使政間でとても高い水準の協力が必要だ。 だが委員会で確認したのは、会議の構造の苦しさと閉鎖性」と批判した。 彼は市民が放送中継で最低賃金の決定過程を確認できるようにしなければと強調した。 市民の暮らしに直接影響する賃金の決定過程の面々を知らなければならないということだ。

来年度の最低賃金は決まったが、最低賃金と最低賃金委員会をめぐる無用論は現在進行形だ。 「人間らしい暮らし」のために上げられるべきだが、誰の人生も保障できない賃金でしかないという指摘だ。 共に民主党乙支路委員会生活賃金推進団も7月19日、国会正論館で記者会見を開いて最低賃金小幅値上げを強く糾弾し、 生活賃金制度導入に拍車をかけると明らかにした。

最低賃金の昨日と今日…明日は?

韓国では1988年に初めて最低賃金が導入された。 当時、時間当りの給与は487ウォンだった。 朴正煕(パク・チョンヒ)政権の時、世界最長の労働時間、世界最低の賃金という現実を経た労働者の賃金の最低水準を保障して、 労働者が安定的に生活できるようにしたのが最低賃金だ。 だが最低賃金はその適用対象が限定的で水準が過度に低く、 低賃金階層一掃、賃金格差解消、分配構造改善という目的に忠実ではないと批判されてきた。 その後、1993年まで最低賃金は1000ウォンを越えなかった。 1993年になって1005ウォン、それから年1085ウォンに上がった。 時給2000ウォンを越えたのも2001年の後だ。 前の年より12.6%上がった2001年の最低賃金は2100ウォンだ。 2017年に予定されている最低賃金は、1988年に較べれば13.2倍になる。 だがこれは大きく上がったとはいえない。 500ウォンにもならない初期の制定金額が低すぎただけだ。

最低賃金の引上げ率は最低賃金の上昇幅がいかに狭かったかを示す。 10%を越えたのは1989年から1992年と2000年、2001年、2003年、2004年、2006年で、合計7回に終わる。 2010年以後は2016年の8.1%上昇が最大だ。 沸き上がる家の価格と不動産費用、牛肉、野菜など市場バスケット物価幅についていけないという批判を聞くのはこのためだ。 最低賃金では一食の食事代を払うのも難しいという指摘も同じだ。

28年間の最低賃金の歴史がまた試験台に上がった。 最低賃金委員会公益委員のユン・ヒスク韓国開発研究院(KDI)財政福祉政策研究部長は20日に辞任を宣言した。 公益委員が運営改善を要求して辞任を宣言したのは初めてだ。 労働者委員は一日前に全員辞任を宣言し、事実上、最低賃金委員会は瓦解した。 彼らはこれ以上最低賃金委員会には希望がないと声を高めた。 目は国会に向けられた。 実質的な生活が可能な線で、最低賃金よりも高い水準の給与を払えるように法で決める生活賃金制度を導入しようという声も聞こえてくる。 19代国会で法制司法委員会まで通過したが、セヌリ党の反対で本会議の敷居を越えられずに廃棄された法案だ。 労働者の一日の稼ぎはどう変わるだろうか。 最低賃金、あるいは最低賃金も受け取れない労働者たちの人生は今日も続いている。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-07-30 19:12:46 / Last modified on 2016-07-30 19:12:49 Copyright: Default

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