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独立映画まで欲しがるCJ・CGV

CGVの「恩恵」で揺れる独立映画の独立

ソン・ジフン記者/ジョンウン写真記者 2016.05.18 17:37

普段、狎鴎亭CGVアートハウスに行くというカン某(27)氏は、 大規模な商業映画より独立映画の方を好んで見るという。 多様な形式美と新人俳優の新鮮さを独立映画の魅力にあげた。 カン氏はこの日〈4等〉を見るために狎鴎亭のCGVアートハウスに行った。 大学路のCGVで会った大学生のパク某(22)氏も、独立映画を好んで見ると話した。 〈ビートルズ:ハード デイズ ナイト〉を見るために大学路のCGVアートハウスに来たパク氏は 「アートハウスで封切られる独立映画は、ほとんど見逃さない」と話した。

CGVアートハウスは2004年に「インディ映画館」という名前で始まった。 規模は小さいものの、ウェルメイド映画を発掘して上映の機会を拡大することが当時、CGVが発表した目標だった。 その後、「インディ映画館」は「ムービーコラージュ」という名前を経て、今の「アートハウス」22館で落ち着いた。 カン氏もパク氏もアートハウスを代表的な「独立映画館」と認識していた。

CJの威力

文化的多様性を確保して、低予算の独立映画に上映の機会を拡大するというアートハウスの主張とは違い、当の独立映画界はCGVアートハウスが独立映画の多様性を阻害していると主張する。 CJはCJ E&Mというコンテンツ製作会社とCGVという国内最大劇場チェーンを所有している。 CGVはアートハウスという多様性映画専門の映画館を持ち、同じ名前で多様性映画を輸入、配給する配給社も運営している。 CJという巨大資本が一般的な商業映画だけでなく、独立低予算映画の製作・配給・上映を網羅するすべての窓口を保有しているわけだ。 実際に独立低予算映画を見に来る観客のほとんどは、CGVアートハウスを独立映画を見られる唯一の窓口と認識している。 そこにインディスペースなどの独立映画専門映画館に対する政府の支援が削減され、芸術映画専門映画館が続々と閉館する状況で、 CGVアートハウスで映画の上映ができなければ低予算独立映画はまったく観客に会えないのが実情だ。 独立映画陣営のこうした不満は最近の独立映画の興行地図を見れば理解できる。

2014年に封切られた「あなたその川を渡らないで」は、独立映画としては例のない興行を記録した。 2014年だけで380万の観客を動員したこの映画は、2014年の多様性映画部門観客動員1位になった。 この映画が2015年の初めに動員した95万の観客も、2015年の多様性映画の中で一番多くの観客数だ。 2014年の多様性映画のうち二番目に多かった42万の観客を動員した「神が送った人」の10倍を超える数値だ。 このように圧倒的な前例の差は、封切りスクリーン数からもわかる。 「あなたその川を渡らないで」のスクリーン数は806スクリーン。 「神が送った人」の配給会社のCITTAマウンテン・ピクチャーズが確保した286スクリーンの3倍にのぼる。 「あなたその川を渡らないで」の配給会社はCGVアートハウスだ。 「あなたその川を渡らないで」は低予算で製作された独立映画だが、アートハウスが配給を担当して一般の商業映画以上のスクリーンを得た。 CGVはアートハウスだけでなく、一般の上映館でも映画をかけた。 マーケティングでもCGVの全面的な支援を受けた。 その結果、「あなたその川を渡らないで」は独立映画史上最多の観客動員という栄誉を得ることができた。 問題は、CGVアートハウスの「恩恵」を受けられない数百本独立映画だ。

2015年に封切られた独立映画「犬どろぼう完全計画」の配給会社、リトルビッグ・ピクチャーズの代表は興行り失敗の責任を取って辞任した。 「犬どろぼう完全計画」は、キム・ヘジャやチェ・ミンスなどの有名俳優が出演し、それに力づけられてメディアでもよく紹介された。 評壇の反応も悪くなかった。 封切り初期の客席占有率も非常に高かった。 それでも上映館数は減り続けた。 メディアで映画を知った観客が劇場に行っても映画を見られないことが増えた。 前売りシステムも興行を助けることができなかった。 普通2週間前には開かれる前売窓口が「犬どろぼう完全計画」では封切り前日に開かれた。 結局、映画は期待に至らない興行成績をおさめた。 すべてCGVアートハウスが配給した「あなたその川を渡らないで」ではなかった事だ。 「あなたその川を渡らないで」とほぼ同じ時期に封切られた「巨人」も、 アートハウスの恩恵を受けられずに興行に失敗した。 「巨人」は評壇からも好評を受けて、国内外の映画祭で作品賞や俳優賞などを受賞したが、観客2万人の動員に終わった。 配給社のフィラメントピクチャーズが全国77スクリーンでおさめた興行成績だ。

こうしたCGVアートハウスの「自社映画押し」は、「あなたその川を渡らないで」に限らない。 「チャイナタウン(コインロッカーの女)」、「無頼漢」、「ソーシャル・フォビア」、「優しい嘘」など2014年から2015年にCGVアートハウスで上映された多様性映画のうち、 興行作はほとんどアートハウスが配給した映画だ。 アートハウスが配給しなかった映画はアートハウス映画館で上映しても、観客が動員できないとしてすぐに下されたり、 一日に一回、深夜の時間にやっと上映されることも珍しくない。 独立映画の窓口がアートハウスの他にはあまりない現実も、アートハウスの威力を強くする。 アートハウスで見られなければ、観客の目には見えない。 こんな状況なので、独立映画陣営は独立的に製作しても、配給はアートハウスに任せなければならないという状況に置かれた。 アートハウスの「恩恵」を受けられなければ、映画を観客に紹介することもできないままで幕を下ろす状況である。 ある独立映画製作会社の関係者は「映画の企画が出てくれば、まずアートハウスに意志を打診して議論するほかはない」と話す。 アートハウスが配給に熱意が見せなければ、映画は興行どころか封切りも難しくなるのが常だからだ。

独立映画専門映画館、インディスペースのウォン・スンファン副館長は 「アートハウスが配給する映画は、CGVアートハウスのスクリーンをはじめ、独立映画を上映する窓口を塞いでいる」と話した。 「CGVが垂直系列化をして、自社が配給する映画だけにスクリーンを与える不公正な取り引きが行われている」ということだ。 垂直系列化とは、映画産業において製作と配給、上映のあらゆる分野をした業者が網羅することを意味する。 米国ではこれを独占・寡占と規定し、1940年以来禁止されている。 韓国でも公正取引委員会が垂直系列化は不公正な取り引きだとし、 CGVとロッテシネマにそれぞれ32億、23億ウォンの課徴金を賦課している。 ウォン副館長は、CGVが自社の映画にスクリーンを提供し、他の独立映画はスクリーンを確保できない状況を指摘して 「独立映画に関心を示す観客も、見たい映画を見られる劇場がないのが実情」と話した。 底辺の拡大は、関心がある観客に観覧の機会を保障することから始まるということだ。 ウォン副館長は「国内の全スクリーンの40%以上を占めるCGVが配給にまで関与する不公正な取り引きを規制しなければならない」とし、 CGVが映画配給事業から手を引けと強調した。

しかしCGV側は、垂直系列化の批判に対し、むしろこうしたシステムによって韓国映画の生態系を形成する先頭に立っていると主張する。 商業映画が中心の韓国映画の生態系に、新人監督の発掘による低予算映画の投資配給マーケティングを強化しており、映画市場の活性化に寄与しているというのだ。 CGVの関係者は「アートハウス事業は収益をあげることを目的にしているのではなく、 事実上、社会貢献に近い事業」だとし 「観客に接近することが難しい低予算独立映画を収益を度外視して発掘して紹介するアートハウスに、なぜすべての独立映画を紹介しないかと言うようなもの」だと話した。

頭からつま先まで、CJが順序付ける映画界

CJアートハウスの垂直系列化は、映画の配給で終わらない。 独立映画界をはじめとする映画界全体が、製作段階から配給と上映を思うままにするCGVの下で垂直系列化されている形だ。 商業映画だけでなく、独立映画さえCGVの好みに合わなければ、まともにスクリーンを確保することができない現実が、映画の企画段階から自己検閲を強要するだろう。 匿名を要求する独立映画製作会社の関係者は 「CGVの配給を受けられなければ、製作費も回収できないので、初めに映画を作る時からこれを考えるしかないのが事実」だと明らかにした。 続いて彼は「資本から独立した映画というが、劇映画の場合は少なからぬ製作費がかかるので、 製作費の回収もできなければ映画を作り続けることができないので仕方ない」と話した。 ウォン・スンファン副館長も、独立映画の興行の可否がCGVアートハウスの配給にかかっている現実が続けば、 今後は独立映画の制作編集そのものが減少しかねないと憂慮した。

さらに大きな憂慮は、CJとCGVの影響力が映画人を志望する学生にまで及んでいる点だ。 CJ E&Mは、2011年から韓国映画アカデミーと産学協力の業務提携を結んでいる。 CJが金を出して映画アカデミー卒業生の作品の封切りと広報を支援する。 「あなたその川を渡らないで」以後は、CGVアートハウスが映画アカデミーで作られた映画を配給している。 映画アカデミーは映振委の直営だが、自分たちが作った映画を独占・寡占の批判を受ける大企業に任せている状況だ。 新進監督の映画の製作と封切りを支援する「バタフライ・プロジェクト」もCGVが行っている代表的なプロジェクトだ。 韓国芸術総合学校でもCJ E&Mはシナリオの公募や映画製作共同開発事業を行っている。 2013年に封切られた映画「ドヒ(私の少女)」がこの共同開発事業の結果だ。 この映画もCGVアートハウスを通じて配給された。 問題は、既存の独立映画の製作配給方式では、製作と封切りが難しいという現実で、 映画学徒もCGVの好みに合う映画を作ることに集中するという点だ。 映画界進出の始まりから「CGV用映画」ばかりが作られ、映画界全体の幅が狭まっているわけだ。

京畿道の某大学で映画の演出を専攻するある学生は、 「映画科で一期が卒業すると、半分は映画とは関係のない仕事をして、 残る半分のほとんどは映画界の技術職になり、監督になれるのは一期にに1人いるかどうかという状況」とし 「どうしようもない事ではないか」と話した。 続いて彼は「教授も映画祭に出品して賞を受ける映画を作れと教えるのと同じ文脈」と話した。 独立映画を製作して配給するインディストーリーのキム・ファボム理事は 「学生の立場としては映画を作る機会が与えられるのだから良いことかもしれないが、 一種の蜜月関係が形成され、そうして作られた映画をCGVが先行獲得して行けば、 多様な映画を供給したい他の独立配給社が困難な状況に置かれかねない」と指摘した。 製作現場だけでなく、根元までCJとCGVの影響力の下で「CGV用」映画を作るように統制されているわけだ。

CGVは本当に独立映画を支援しているのか

CGVアートハウス側は、低予算の独立映画を支援する努力を色眼鏡をかけずに見てほしいという立場だ。 毎年数十億ウォンの赤字を出しながら、アートハウスの運営を続けているのは、多様な映画を発掘して支援するという社会貢献の努力だという主張だ。 CGVの関係者は「機械的にすべての独立映画を上映することと、観客が集まる映画にもっと上映の機会をあたえる方式の中から選択する問題」と話した。 この関係者は「多様性映画は難しいという観客の先入観を破り、商業的にも成功できるという事例を作る仕事をアートハウスがしている」とし、 アートハウスの社会的な役割を強調した。 彼は「劇場の収益の3%を振興基金に持っていく映振委がするべきことをアートハウスが代わりにしている」と付け加えた。 実際にアートハウスが独立映画の上映と配給を始めた後、観客動員の総量が増加していることは事実だ。 独立映画のパイ自体が大きくなっているのだ。 しかし、ウォン・スンファン副館長は、この「大きくなったパイ」が「独立映画陣営全体のことではない」と反論する。 「わが国の映画市場にはなかった中規模の映画市場をニッチ市場と判断したCJの進出によるものでしかない」という主張だ。 ウォン副館長はその根拠として、「インディ映画館」の時から独立映画の上映館数をもっと増やし、 観客と出会う機会を求めて要請した時は知らんふりをしていたのに、 自社が配給事業に飛び込んで映画館の規模を順次拡大しているという態度をあげた。 アートハウスの独立映画配給と支援は、自社の利益創出のため新しい市場進出でしかなく、 CGV側が主張するように映画の多様性を確保するための社会貢献事業ではないということだ。 狎鴎亭CGVアートハウスの観客カン氏が観覧した「4等」も、CGVアートハウスが配給する映画だ。 独立映画とは言えない映画をアートハウス上映館でかけて恩を売る場合もある。 ミン・ギュドン監督の「終わりと始まり」、イ・ジェヨン監督の「裏話:監督が狂いました」といった映画は独立映画ではないが、アートハウスで上映された。 ある程度興行が保障された商業映画を独立映画だと言って上映本数を水増しして恩を売ろうとしていると指摘される理由だ。

ウォン・スンファン副館長は、独立映画の基準を 「映画の製作と配給に投与される資本の出処とは別に、 映画を作る人が資本に雇用されているか、自発的なのかだ」と話した。 その基準なら、今のような現実が続いてCGVの影響力がさらに大きくなれば、独立映画は消えることになる。 インディストーリーのキム・ファボム理事は現在、独立映画陣営で働いている人々は、 映画を作るより運動の立場の方に近いと話した。 独立映画の生存方式自体が画期的な方向に改善されなければ、巨大企業の影響で揺らぐしかないという主張だ。(ワーカーズ10号)

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-05-24 02:42:07 / Last modified on 2016-05-24 02:42:08 Copyright: Default

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