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「鉄鉢」叩きの標的は?

ソン・ミョングァン 2016.05.18 11:53

また始まった「鉄鉢」叩き

「公共機関の鉄鉢を壊せ vs 野党と共に闘争」。 ある保守新聞の記事の題名だ。 そして小題目を「朴大統領が直接かかわる成果年俸制」と付けた。 非正規職労働者たちの犠牲で造船産業の構造調整を押し通している所に突然、大統領が親しく公企業労働者の年俸を取りまとめて下さるという。 ところがその年俸は生産性に合わせてインセンティブを与えるという成果年俸制だ。 朴槿恵(パク・クネ)大統領は6月9日、直接公共機関長ワークショップを主宰して、成果年俸制の推進状況を点検する計画だという。 突然、過多負債公企業の「非正常の正常化」という2014年の思い出が新たになる。 とんでもないこの一言で当時、朴槿恵大統領はかなりよい政治的な利益を得た。 当時、負債問題で社会的な標的になった公企業は、公共性という彼らの存在根拠を守るよりも資産売却と事業調整などの資産健全性強化だけに懸命になった。

これからまた「鉄鉢」たたきが始まるのだ。 これは4.13総選挙の直後に大統領が突然、国家財政健全性を提起して怒りはじめた時から予想されていたことだ。 政治的対称点に仮想の敵を作り、自分の勢力を結集する方式をまた使っている。 恐らくその対象が既得権層で、言い訳が楽で、弱い勢力であるほど、朴槿恵大統領が持っていける政治的利益はさらに大きくなるだろう。 「能力と業績により報酬を変えるほかはない」という企財部高位関係者の話は当然な話のように聞こえる。 事実、何とも反論するのは難しい。

だが収益性を追求する私企業と違い、公共性を基本とする公共機関の業務において、個人の実績と生産性を評価するのは容易ではない。 しかも、政府が規制緩和を積極的に押し通しており、その評価基準は市場的マインドに基づいているため、特定の目的に偏った恣意的な評価に帰結する可能性が高い。 実際、中上位職と違い裁量権が少なく、単純業務が多い下位職は、自身の成果の評価に対する不安と不信が大きい。 現在までは全職員の7%の幹部級だけが成果年俸制を適用されているが、政府はこれを全職員の70%程度まで拡大しようとしている。

しかし皮肉なのは、この「鉄鉢」になるために韓国の多くの若者が昼夜を通して公務員試験に必死になっているという点だ。 「鉄鉢」は小学生の未来選好職業になって既に永い。 社会的非難と羨望を同時に受ける側の状況をどう理解すべきなのか。

負債比率は7300%

一方、連日、大宇造船海洋への攻撃が激しい。 すでに社内下請非正規職労働者の犠牲で構造調整の第一幕が整理されているのにである。 今、議論されている「3000人減員説」は正規職に当たるもので、 数万人にのぼる社内下請非正規職労働者は含まれもしていない数字だ。

事実、もう構造調整の日程は、満期になる債権を防ぐことが残っているだけだ。 財務的な状態を管理する水準に入ったのだ。 ところがこの時点で、大宇造船海洋の負債比率は7300%だという新聞記事が大衆の頭を強打した。 普通、財務の健全性を問う負債比率の基準は200%だが、7300%だとは、簡単に理解できない数値だ。 隠してきた不良事態が昨年爆発し、負債比率が6800ポイントほど上がったという。 この数字の意味は単純ではない。 これから続く構造調整の情勢で何を最優先の基準にすべきなのかを大衆に刻印している。 その基準は財務の健全性だ。 これを達成するためには他の問題を副次的に作ることもある。なにおかいわんや。 この途方もない数字に圧倒された人々が書き込んだコメントのほとんどは 「税金を食いものにするゾンビ企業を退出させろ」だった。 構造調整による労働者の失職はやむを得ない事として置き換えられる。 そして既存の合意にはなかった追加の人員削減に抗議する労働組合の主張は愚かだと信頼されなくなる。

財務健全性を高めろという主張に対して簡単に反論できる人はいるだろうか? しかも国民の税金が投入される公的資金の対象企業に対してだ。 しかし解雇で生活の基盤が崩れる労働者の立場としては、 自分の雇用を犠牲にして財務健全性を強化するという主張をそのまま受け入れるわけにはいかない。 「底が抜けた瓶に水を注ぐ」ことを中断するのも賢明な方法だが、 漏れないように底を塞ぎ、また水を注ぐ方が賢明だろう。 とにかく、誰もが暮らせる水が必要ではないか。 私たちに今必要なことは、財務健全性強化のように、誰にでも話せる簡単な話ではない。 この苦難を共に勝ち抜く社会的な失業対策と新しい産業政策が必要だ。 しかし今提起されている論理は、新自由主義者が喜んで使う企業評価方式だけに埋没している。

「損失の社会化」に対応する姿勢

前述の成果年俸制の拡大と「ゾンビ企業」の構造調整の主張には、どちらも「損失の社会化」という論理が含まれている。 この言葉は非効率的な行政と事業の失敗による財務的な損失を社会が抱え込むという意味だ。 そのためしばしば納税者の負担で、あるいは未来世代の負担で社会的費用を埋めると指摘される。 ところでこの損失というものをもう一度、十分に考えてみる必要がある。 たとえば自然災害により途方もない財産の損失が出た状況で、われわれはこうした損失を個人化することはない。 自分の家の前の街路樹を復旧するために、個人が直接リフト車を持ち込むようなおかしなことはしない。 われわれは社会的な復旧費用を用意して、集団で対処する。 なぜならこれの方がはるかに効果的な解決方法であることを知っているからだ。 そして、そのような復旧で再建された基盤施設を特定の誰かが独占所有したり、利益を専有することはない。 文字通り、これは社会基盤施設だからだ。

この論理を「損失の社会化」に拡張してみよう。 もし公共機関の効率性の問題と大規模基幹産業の経営不良の問題が個人的な領域の事であれば、 われわれはこの問題であれこれ言う理由はない。 しかしこれが非常に公的な領域で、この領域の失敗による社会的損失はすべての人に影響する。 そのため、この失敗を個人がリフト車を引っ張って来るような水準では解決できないため、その損失を社会化する必要が提起されるのだ。

まさに重要な問題は、ここではない。 そうして社会的費用で復旧した機関と企業が私たちすべてにきちんと利益を返す役割を果たせないという点だ。 最も大きな負債を負う公企業のLH(韓国土地住宅公社)に対する大衆の不満は、住宅バブルの時期に土地投機を行い、あのようになったことだ。 もし庶民の住居福祉のために国民の賃貸住宅を大幅に増やし、今の家賃高騰を解消していたとすれば、むしろ拍手されただろう。 大宇造船の場合も同じだ。 大宇造船はすでに公的資金が必要な国有企業だ。 うまく行っている時は市価総額が12兆ウォンに達するほどであった。 しかし当時、大宇造船が取った経営戦略は収益の極大化であり、 新しい餌を探すために海洋プラント事業に飛び込んだ。 そしてここに90%以上の非正規職労働者を投入し、産業安全は後まわしにしたまま、速度戦を繰り広げた。 ここで造船3社間の出血競争が行われ、今は原油価格低迷の直撃弾を受けて、すべて共倒れの危機に陥ったのだ。 もし政府が動いて過当競争を止め、効率的な船種の分類をして、民間の造船会社と生産領域を分割して引き受けるようにしていれば、 むしろ今のような深刻な共倒れ事態は未然に防げただろう。 また、国有企業として公益的な目的に忠実だったとすれば、 奇形的な非正規職の増大ではなく、雇用の安定と大規模装置産業に蔓延する産業安全問題を解決する先導的な国有企業として発展できただろう。

今、「損失の社会化」だけに留まって仏壇のお供えをかすめ取るような論争は止めなければならない。 利益は私有化して、なぜ損失は社会化するのかと問い詰めることは憂さ晴らしでしかない。 怒りを収めて背を向ければ終わりではないからだ。 今、われわれはこの論理を逆に拡張しなければならない。 損失を社会化したのだから、そこから得られる利益も社会化しようということだ。

だが、今のように「鉄鉢」たたきの思い出が繰り返される限り、われわれは今後も「損失の社会化」に留まるほかはないだろう。 そして政府は財務健全性の強化を名分として公共機関を私企業のようにして、規制緩和とからめて公益事業を縮小する根拠を作り出すだろう。 また現在、押し通している労働改革(?)アジェンダを公共機関から施行するように強制するだろう。 「鉄鉢」たたきが狙う標的は、これではないのか? なぜなら4.13総選挙の敗北で政治的危機に陥った朴槿恵(パク・クネ)政権が、所期の成果に執着することは十分に予想されるためだ。 これに対抗するためにも「損失の社会化」だけに留まっている今の論争局面を前向きに変えなければならない。 直前に書いた「利益と利益の社会化」へということだ。(ワーカーズ10号)

付記
ソン・ミョングァン:チャムセサン研究所(準). 《負債戦争》を共に作り、チャムセサン週例討論会を企画している。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-05-23 20:41:23 / Last modified on 2016-05-23 20:41:23 Copyright: Default

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