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君と私の階級意識

[ワーカーズ6号-青年コラム]

オ・スンウン 2016.05.02 15:15

インターネットのスラングから始まり、最近巷間に広がった「箸と匙階級論」をよく見ると、いくつか眼につく場面が見つかる。 今では成功した事業家や芸能人は、大衆の好感を得るために自分が金持ちの子どもではないことを立証しなければならない。 財閥2世、3世の厚顔無恥はやるかたない公憤を生むが、音源の成績がいいヒップホップ歌手が金を自慢をしても若い層は軽蔑ではなく「リスペクト」で応える。 こんな場面から見れば、今の箸と匙の階級論は不公平な経済構造に対する悲観、ないしは怒りを含んでいる一方で、 その裏には自手成家型の金持ちに対する肯定的な評価があるという感想がわく。

持って生まれた資産なしで裸一貫で富を築いた人を指して、しばしば自手成家をなしたという。 個人の力だけで富を築くという判断には、異論の余地も多いが、一応相続の反対語として容認してみよう。 実際に韓国が箸と匙の階級社会だという診断は、相続型が自手成家型金持ちを圧倒するという項目を重く含む。 これを裏付ける資料も続々と提出されている。 韓国の10億ドル(約1千億円)以上の資産家の中で、相続者の割合は世界平均の二倍を超えるというある報告書の内容がそうで、 世界上位400人の金持ちリストに上がった韓国人5人は全員相続で資産を増殖させたという、別の発表がそうだ。 街路樹の道沿いのビルの1/3以上が相続・贈与されたことを伝える放送の画面は、 3年間、画像ファイルになってインターネットをさまよう。 処方は違ってもこうした資料が韓国社会の憂鬱な自画像であることには意見の差がないだろう。

資産の不平等が問題だという認識が生まれたのは最近のことでもなく、韓国だけのことでもない。 前の大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)民主統合党候補が掲げた「機会は平等だ。過程は公正だ。結果は正しい」というスローガンは、大ざっぱだが今の箸と匙の階級論に敷かれた感性を狙っていた。 2014年、「21世紀の資本論」で一躍スターになったフランスの経済学者ピケティは、 世界的に少数の資産家に富が集中する今日の経済体制を実証し、 これを「世襲資本主義」と呼んだ。 彼は資産収益率を下げなければ資本主義が終わると暗示したが、そんな状況で租税・分配の正義を要求するのは非常に自然な反応だった。 あるいはこの時だけでも、資産不平等に対する不満の底辺は広がり、そのエネルギーの行方も未知数であった。

だから箸と匙の階級論のエネルギーをめぐって路線整理をしようとする声が上がってきたこともおかしなことではない。 例えば「新興の金持ちが生まれて成長できるように…箸と匙の階級論にしばられず、 階層間の移動の可能性を一層高めよう」とか (「自手成家型億万長者が登場する土壌を育てよ」、〈ソウル新聞〉、2016.3.15.)、 「『金の箸と匙』を逆転できない資本主義は封建主義と違わない。 …若者たちに情熱と覇気がないと舌を打つ前に恐れることなく挑戦できる環境を作ってやらなければならない」(「米国の青年自手成家」、朝鮮日報、2016.1.11.)という 保守言論の言葉は、 箸と匙の階級論を階層移動の可能性の問題とし、新興金持ちの登場を念願する巫女祭りにしている。

ところで自手成家型の金持ちが多い社会は、果たして公正な社会なのか? 自手成家が多いという米国を見よう。 1990年代末のドットコムバブルを経て、米国は今や創業型の億万長者の時代を迎えた。 今では米国の金持ちリストはただの自手成家でもなく、30代以下の自手成家IT創業者だけでも一組になる。 FaceBookの創業者ザッカーバーグが最も有名だが、新興強者は「共有経済」の双頭馬車であるAirBnBとウーバーの創業者だ。 ウーバー(『車両共有』仲介業者)とAirBnB(『空き家共有』仲介業者)は、 生産基地が不必要なソフトウェア運営の特性上、事業計画が投資家の目に入るとすぐに世界の大都市に進出し、急速に拡張した。 不法の議論が起きれば創業者と投資家が固く団結して、共有経済が地域社会の安全、便宜、雇用を新しい水準に押し上げると強弁した。 AirBnBがニューヨークの貧しい地域だけで950の雇用を創り出したとか、 ニューヨークのウーバー運転手が年間収入9万ドルだという広報が代表的だ。 問題は、共有経済がプレゼントするというこうした贈り物には特に根拠がないということだ。 正確には確認が不可能だ。なぜか?

ウーバーとAirBnBは株式上場をしていない。 いわゆる公開された企業ではない。 そのため収益報告も公認会計監査もない。 公益に寄与するという主張にもかかわらず、 彼らのアルゴリズムとデータも非公開だったり、きわめて選別的・排他的にしか提供されていない。 彼らの自画自賛が独断的な主張で埋まっていると疑われる理由だ。

それでも今まで彼らの投資ラウンドは成功一色だった。 現在、評価されているウーバーとAirBnBの企業価値はそれぞれ650億と250億ドルだという。 これは何と主要自動車メーカーなどと同等で、ホテルチェーン業者のメリットを越える水準だ (もちろんベンチャー企業の価値評価法は上場企業よりはるかに主観的だ。 たとえばあるベンチャー資本家が10%の株式所有に合意して10億ドルを投資したとすれば、 あとの90%に対する投資が実現されなくてもその企業の価値は100億ドルと評価される)。

二つの企業に投資が集まる根拠は何だろうか? 実績? 非公開であるばかりか、AirBnBは昨年1億ドル以上の営業損失を記録したという疑惑も受けている。 これに関連して「君のものは私のもの:共有経済に対する反論」の著者、トム・スーリーは共有経済の投資家が規制環境を緩和することで株式公募で大きな収益を期待でき、その緩和は 「新技術に親和的な水準ではなく、ウーバーとAirBnBの特定の事業モデルを支える水準」でなければならないと話す。 では共有経済への投資は革新的な技術自体より、規制緩和に対する期待への掛け金に近い。 その掛け金が現在、創業者の自手成家神話を支えているようなものでもある。

こんな状況なので、二つの企業の重要な人物の招聘と支出はすべてロビーと広報分野で目立つ。 昨年だけでもウーバーは再び車両数を制限しようとするニューヨーク市の計画を無に、 AirBnBはサンフランシスコの短期住宅賃貸制限法案を否決させるために広告物量戦を繰り広げた。 共有経済の成功が規制緩和に依存する状況について、米国のネーション紙のダグ・ヘンウッドは 「このようなブームにも哲学があるとすれば、それはまさに『撹乱』」と皮肉る。 もちろんこの撹乱に対して、われわれは2014年のソウル市のウーバー営業禁止の決定についていろいろな専門家という者らが訓戒したように、 シュンペーターの「創造的破壊」を思い出すことを強要された。

韓国でも創造的破壊の旗手を育成しなければならないという声も高まり続ける。 例えばデジタル社会研究所のカン・ジョンス所長は、米国の主軸産業がデジタル経済に移動し、 この部門では「エンジニアが労働生産性を主導」するとよどみなく宣言した (「『デジタル経済』グローバル角逐戦、韓国の選択は」、〈京郷ビズ〉、2016.1.9.)。 このように、本社に直接雇用されたエンジニアだけで労働生産性を語ることは、 現代自動車の労働生産性がR&D分野だけから出てくるという主張と同じぐらいにおかしい。 iPhoneの組み立て工場やウーバーの運転手の運輸労働は、それに重要ではないことを示唆する部分だ。

新技術を開発した資本家が労働条件の問題を無視しながらも、労働生産性についてたわごとを言うのは、もちろんおなじみの光景だ。 1990年代末、米国のインターネット企業ブームの時にもデジタル新技術のおかげで労働生産性が上がり、その上、景気の循環が消えるという楽観が専門家たちの間に広がった。 この楽観がすぐに終わったと非難するのではない。 大恐慌の直前にもそうだったように、資本家とその同盟勢力は、永遠の膨張を夢見て、 このように雲をつかむような話をしなければならない宿命にあるということだ。

デジタル経済のバラ色の展望よりも注目すべきことは、まさに低賃金と不安定労働の罠に陥った米国のウーバー運転手の姿だ。 ウーバーの運転手は個人所有の自動車をウーバー本社に「共有」させられ、 車両の維持・注油・保険などの費用をひとりで負担しつつ、 点数評価アルゴリズムによっていつでも解雇される。 本社は彼らの営業に決定的な同時間帯の営業車両の数も、運賃の基準もきちんと管理・公示しない。 同時に、本社の実質的収入はタクシー運転手と同じようにハンドルを握って運転するウーバー運転手からの「手数料」商売からあがる。 手数料商売は革新的どころか、資本家の伝統的な生存法ではなかったか。

ここらで私たちにとって必要な姿勢は、革新の闘士を自任するIT創業者を、そのまま資本家として見ることだ。 時代と部門を問わず、労働統制を強化して雇用を柔軟化し、収益を上げようと熱を上げる、まさにその資本家だ。 出発点は若いIT創業者を自手成家や革新のような言葉にくっついている幻想の中に閉じ込めないことだ。

産業革命の黎明期、英国のラッダイトは作業の主導権を取り戻すために、あの有名な機械破壊行動を組織した。 200年経った今、共有経済についてもそれに近い反逆がうごめいていている。 ウーバーの運転手はストライキと労組結成を試みて「本当の」データを共有するフォーラム空間を創設した。 住居問題の活動家は、AirBnBが勧める短期住宅賃貸に対抗して制度の強化を進めており、 研究者たちはアルゴリズムの虚像に接近してウーバーとAirBnBの自画自賛を攻撃し始めた。 規制緩和に対する資本家の夢が相変わらずだが、その反対側は労働条件、公共性、透明性を問い、結構伝統的な方式で結集しているわけだ。 いわゆる資本家の手から革新の意味を取り戻すための戦線だ。 この戦線を理解して、私たちの戦いを作れるようになる時、 韓国の「箸と匙の階級論」も新興資本家を呼び出す巫女祭りに利用されることなく、 さらに深層的な不平等の論争に進めるのではないだろうか?

付記
オ・スンウン/ 《資本論》勉強の会とパレスチナ連帯運動に参加している。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2016-05-05 16:42:59 / Last modified on 2016-05-05 16:43:01 Copyright: Default

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