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競馬産業の最底辺、故ムン・ジュンウォン騎手はなぜ命を絶ったのか

[ルポ]馬事会昨年用役報告書「組織内差別、不均衡、不通、マッチョ存在」

ユン・ジヨン記者 2020.01.28 12:22

夫が死んで49日になる日。 オ・ウンジュ氏はまだ葬儀もできない夫の四十九日を上げた。 仏教で四十九日は、亡くなった人がこの世を去る日だ。 だがオ氏は夫がまだ自分のそばをぐるぐる回っているようだった。 夫の極楽往生を祈ることも、もうゆっくり休めという言葉も言えなかった。 20日以上光化門、世宗路公園霊柩車に横になっている夫を考えればそうだった。 一日も早く暖かいところに送りたいが、思うようにはいかなかった。

夫の四十九日を上げた日は、生きながら一番苦しい日の一つだった。 普段は涙を流しながらもさまざまな闘争日程を消化していると、 少しずつ悲しみが忘れられたりもした。 だがあの日、遺影の中の夫は普段と違っていた。 本当に夫が死んだという事実が現実として感じられた。 まだ信じたくなくて、つとめてその事実とぶつからないようにしたのに、 誰かがオ氏のそばで「死んだ」、信じなければならない」とささやいているようだった。 彼女は四十九日に多くの涙を流し続けた。

何も変わらなければ悲劇的な連鎖死亡を止めることができない

夫の死を明らかにする時間がこれほど長くなるとは思わなかった。 旧正月連休前日の1月23日、座込場で会ったオ・ウンジュ氏は深いため息をついた。 少なくとも旧正月前には問題が解決できるはずだった。 遺族と労働組合、市民社会は旧正月前の解決を要求して、毎日を熾烈に生きた。 空の棺をかついで青瓦台までデモ行進して、5日間の五体投地もした。 1月13日から韓国馬事会と集中交渉もした。 だが馬事会の立場は変わらなかった。 故ムン・ジュンウォン騎手の真相調査の要求に対しては、 馬事会が主導する研究用役だけに固執し、 遺書で議論された責任者の処罰については警察の捜査の結果だけを繰り返して言った。 真相調査、責任者処罰、制度改善という遺族の要求は、全て受け入れられなかった。

[出処:キム・ハンジュ記者]

結局、オ・ウンジュ氏をはじめ遺族たちは光化門座込場で、 烈士の霊柩車の横で旧正月を過ごした。 旧正月だけは子供たちと共に過ごしたいという希望はかなわなかった。 オ氏は今すぐにでも電車の切符を買って、子供たちがいる所に行きたいといった。 一日にも何十回も襲う懐かしさに耐えるのは容易ではなかった。 それでもオ氏はまだ子供たちのそばに行くことができない。 時間が過ぎて、子供たちがお父さんの死を見る日がきた時、 その死がただ空しさだけで残ってはいけなかった。 何も解決しないまま、個人の死としてだけ記録されることはあってはならなかった。

「いつまで子供たちにお父さんの死を隠せるか、 悩んで結局、子供たちにも知らせました。 お父さんが馬に乗って事故がおきて天国に行ったと。 最初は病院に行って手術すれば良いのに、なぜ病院に連れていかなかったかと言います。 二番目の子はお父さんが本当に天にいると思って、 幼稚園バスからおりながら天を見て挨拶します。 『お父さん、来たよ』と。 お父さんがなぜ死んだのか、一生隠せないことということは分かります。 もう少し大きければ私が話さなくてもわかるでしょう。 その時、その死がどんな死だったのか、 お父さんが何をいおうとしたのか、 お父さんがどんな人なのか、知らなければならないでしょう。 それを知らせるためにも私は戦いを放棄できません。」

彼女は最近、一回も想像できなかった生活を送っている。 昨年11月29日、夫の死亡の消息を聞いた時も、 馬事会の不正と暴露した夫の遺書を見た時も、 自分が韓国馬事会を相手に闘争に立ち上がるなどとは考えることができなかった。 すでに釜山慶南競馬場だけで6人の騎手と馬匹管理士が自ら命を絶った状況だった。 夫は七人目の犠牲者だった。 それで当然夫を死に追いやった人たちが来るだろうと考えた。 頭を下げて遺族に謝罪することができた。 だが誰も弔問をこなかった。 謝罪もなかった。 夫の死もこれまでの死のように、忘れられそうだった。 ただくやしい死として残りそうだった。 何も変わらなければ悲劇的な連鎖死亡は止まらないようだった。 死の真相を明らかにして、責任者を処罰して、 制度を改善するのは馬事会を変えるための最低限の措置と考えた。

通算戦績3404回の騎手はなぜ命を絶ったか

3404回。故ムン・ジュンウォン騎手が残した15年間の通算戦績記録だった。 彼が死亡した後、韓国馬事会釜山慶南競馬場は彼の名前を退役騎手リストに載せた。 彼は合計85人の退役騎手の中で二番目に多くの通算戦績を残した。 そして七番目に多くの1位記録を残した。 それでも彼はたびたび調教師に不当な指示を受けた。 オ・ウンジュ氏は「結婚前、調教師が夫に何等以内に入るなと不当な指示をした。 だが馬は速力調節が難しいので夫が入賞した」とし 「調教師はなぜ自分の指示に従わないかと怒り、 夫は悪かったと調教師の家の前まで行ったのに、門前払いされた」と説明した。

[出処:キム・ハンジュ記者]

その時までは我慢して耐えることができた。 それでも努力すれば良い成績をおさめたりもしたから。 結婚直前の2007年、故ムン・ジュンウォン騎手は294回出場し、 各々29回、33回に1位と2位を記録した。 2011年は出場回数だけ302回で最も多く馬に乗った年だった。 2014年までも294回出場し、11回の優勝を記録した。

だが騎手としての人生は容易ではなかった。 彼が遺書で残したように、15年間、騎手として生きてきた体はぼろぼろだった。 騎手の労災率は他産業平均災害率の50倍を越える。 それも何回も馬から落ちる事故に遭い、鼻骨が折れ、股を縫い、 首椎間板ヘルニアに苦しんだ。 何よりも馬事会と調教師の不当なカプチル(パワハラ)は、もう我慢できなかった。 それで彼は2015年、やっと調教師の免許を取った。

だが彼は死亡する前まで、調教師としての生活を送ることができなかった。 免許を取得しても、馬事会が主管する「馬事貸付審査」を通過して馬房を受けられなければ無用の物だった。 馬事貸付審査委員は馬事会内部の5人、外部の2人で構成された。 評価は定量評価80点と定性評価20点でなされた。 定量評価は馬主から受けた管理委託意向書を受け、勤続期間を満たせば良かった。 問題は定性評価だった。 面接で事業計画や競馬産業の理解度、労務管理方案および性格などを評価する項目だった。 主観的な評価項目なので、親密さによって当落が決定した。

[出処:キム・ハンジュ記者]

故人は調教師免許を取っても5年間馬事貸付審査に落ちた。 彼は遺書で「免許を取って7年になった人にも与えない馬房を今免許を取ったばかりの人に先に出すような気分の悪いこともあるのに、 ただ偉い人たちと親密でなくてはいけないから...(中略)... 私が少し知っている馬事会の職員は、遠慮なく私に話す。 はやく馬房を受けたければ偉い先生とちょっとご飯も食べろと」と書いた。

労組によれば、調教師免許取得後にも馬事貸付審査を通過できない人員は17人。 そして彼らが馬事貸付に抜擢されずにいる期間は平均3年6月。 だが最近2年間、釜山競馬公園で馬事貸付審査を通過した人の平均抜擢期間は1年6月だった。 馬事会は調教師免許証を発給しても、 馬事貸付審査というもうひとつの不必要な審査をして騎手を管理した。 客観的でも公正でもない審査は、いつも公正ではない結果を作り出した。

『馬事会-馬主-調教師-騎手および馬匹管理士』
腐敗と不条理を可能にした多段階下請構造

故ムン・ジュンウォン騎手は、調教師免許を取得してもまた5年間を騎手として暮らさなければならなかった。 そして調教師免許を取得した後、彼の人生はむしろさらに悪くなった。 馬に乗る機会も減った。 オ・ウンジュ氏は「2015年に調教師免許を取得した後、 騎手としても騎乗回数が顕著に減り始めた」とし 「調教師免許証を持っている騎手は調教師の立場としては競争相手なので、 あまり夫を馬に乗せなかった」と説明した。 実際に故ムン・ジュンウォン騎手の騎乗回数は、 2018年に140回、2019年には123回に終わった。

こうした馬事会の不正と不条理は「多段階下請構造」の中で隠蔽され再生産された。 公企業である馬事会は1993年、 直接雇用されていた騎手と調教師、調教師との雇用関係を解約し、彼らを外注化した。 同時に馬事会-馬主-調教師-騎手そして馬管理士とつながる 多段階下請構造を強固にした。 馬事会は強大な権限を持つ「元請」の役割を果たした。

▲韓国馬事会が昨年2月に作成した「競馬産業従事者安全管理および生活の質改善に対する研究最終報告書」

馬事会は馬主から馬主登録を受け、騎手には騎手免許と調教師免許を発給し、 調教師免許を取得した後も馬事貸付審査を主管した。 調教師も調教師になるためには馬事会が主管する助手承認試験と助手補試験、 調教師試験、馬事貸付審査を経なければならなかった。 明らかに彼らの生死与奪権を握る側は韓国馬事会だった。

多段階下請構造は馬主-調教師-騎手および馬管理士間の甲乙構造を作った。 馬事会は馬主に競走賞金を支給し、 馬主は調教師と馬匹委託管理契約を結び、管理費と賞金を支給した。 調教師はまた騎手と騎乗契約を、馬匹管理士と雇用契約を結び、 彼らにそれぞれ賞金を支給した。 出場賞金のほとんどは馬主が取った。 調教師は馬房を運営し、馬主から受け取る賞金を騎手に支払う 事実上の「小社長」役割を果たした。 釜山慶南騎手労組のオ・ギョンファン委員長は 「賞金の60〜70%は馬主が持っていき、 調教師が8%、騎手と馬匹管理士がそれぞれ4〜4.5%を持っていくと理解している」と説明した。

多段階下請構造の底辺に置かれた騎手は調教師の不当指示とカプチル(パワハラ)に苦しんだ。 騎手は特殊雇用労働者の身分になって、労働権の死角地帯に置かれた。 そればかりか、釜山慶南競馬公園は2004年の開場と同時に 「先進競馬システム」という競争体制を導入した。 非競争性賞金を減らし競争性賞金を拡大し、 1位の騎手が賞金の57%を持っていく勝者一人占め構造を強固にした。 5位以内に入れない騎手は賞金を受け取ることができなかった。 無限競争体制の中で、 釜山慶南競馬公園だけで現在までに7人の騎手と馬管理士が命を絶った。

昨年、馬事会も用役報告書作成
「組織内部に差別と不均衡、不通、マッチョなどの問題が存在」

故ムン・ジュンウォン騎手の死亡後、 公共運輸労組は全体騎手125人(ソウル、釜山、済州)のうち75人を対象として 労働健康実態調査を行った。 調査の結果、58.57%が調教師から不当な指示を受けたことがあると答えた。 そして60.3%は不当な指示を拒否できないと答えた。 不当な指示を拒否した時に発生する問題としては、 騎乗の機会を剥奪されるという応答が最も多かった。 馬事会が騎手と調教師、厩舎運営にどの程度影響力を行使するかを聞く質問(1点〜10点)では 10点満点を選択した割合が54.9%だった。

一方で騎手と調教師が締結する騎乗契約もどんぶり勘定式だった。 回答者の41.4%は騎乗契約書を読んでおらず、署名したこともないと答えた。 通常、騎手は調教師から騎乗料と賞金を受ける。 ここから固定的に出てくる収入は、騎乗料の半分程度だ。 騎乗料の半分を固定給として受け、残りの半分は実際の訓練時間により支給される。 騎乗契約書にはこのような給与を含み、 勤労時間、騎手の義務、解約要件などが明示されている。 事実上の勤労契約であるわけだ。

[出処:キム・ハンジュ記者]

だが、まさに騎手は騎乗契約の存在をよく知らない。 釜山慶南騎手労組のオ・ギョンファン委員長は 「騎乗契約書を読んだことがない騎手が95%はいると見る。 概して騎乗契約を口頭で締結する場合が多い」と説明した。 続いて「騎乗契約自体、調教師と騎手間の甲乙関係が明確だ。 調教師が解約したければ解約することができる」とし 「騎乗契約をしても、調教師が契約した騎手に騎乗機会をすべて与えるわけでもない。 (契約しない)多くの騎手にも訓練をさせたり馬を配分する」と付け加えた。

労働組合が実態調査結果を発表してから一か月ほど後、 韓国馬事会は実態調査に参加した騎手に出席通知書を送った。 調教師の不当な指示に対する事実関係を確認するという理由だった。 その上、出席しなければ制裁処分をすることもあるという警告のメッセージも伝えた。 一種の実態調査の参加者に対する問責性の措置だった。 だが馬事会もこのような不合理な構造を知らなかったわけではない。 騎手と馬匹管理士が連続して死亡し、関連用役報告書も作成した。

昨年2月、韓国馬事会は民間に依頼して 「競馬産業従事者の安全管理および生活の質改善に対する研究」最終報告書を作成した。 報告書では組織内部の差別と不均衡、不通などの問題が存在し、 韓国馬事会がこれに対する中長期的計画を用意しろと指摘した。 該当用役報告書によれば、 職務ストレスの部分で競馬産業従事者の平均は51.72点だ。 13の標準産業別職務ストレス平均の49.05点より高い。 特に職務不安定と職場文化部門で13の産業平均より高かった。 騎手の場合、管理システムや職場生活の質、組織文化で他の職務より困難を訴え、 公正性と尊重されないという割合が高かった。

▲韓国馬事会が昨年2月に作成した『競馬産業従事者安全管理および生活の質改善に対する研究最終報告書』

報告書では 「競馬産業従事者組織分野調査結果を総合すると、 差別、不均衡、不通、過多、マッチョ、形式の6種類の主要要因に整理して見ることができる」とし 「競馬産業従事者の安全管理および生活の質改善のために、 中長期的な推進システム構築が必要だ」と提言した。 1月20日に労組を結成したオ・ギョンファン委員長は 「労組を結成した理由はこれまで馬事会から騎手らが尊重されなかったため」とし 「馬事会は故ムン・ジュンウォン騎手の問題を解決し、 無限競争体制を改善し、騎手が尊重される構造を作らなければならない」と強調した。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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