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自由になろうとした人間、自由になろうとした漫画

[寄稿]検閲と青少年保護

チェ・ヒョッキュ(文化連帯) 2013.09.18 09:38

何が自由に向かおうとした一人の人間の熱望を挫折させたのか? われわれは今もそんな時代を暮らしているのではないか? 〈あるアナーキストの告白〉(絵・文アントニオ・アルタリバ)は、私たちにこんな質問を投げかける。この作品の作家であるアントニオ・アルタリバの父の生涯を扱った漫画で、自殺という多少重い事件でプロローグが開かれるが、その過程を気の利いた滑稽さで描き出しながら、ずっとページを進めさせる。

漫画はスペイン内戦、第二回世界大戦、フランコ独裁政権を身をもって通過し、 自由になろうと努力したが、挫折して自殺を選んだ一人の男の一生が扱われる。 このようにヨーロッパ現代史と、その歴史の中の一個人を真剣に扱った〈ある アナーキストの告白〉は、スペインで10以上の賞を受賞して、多くの国で翻訳 出版されるほど好評を受けた作品だ。

漫画が韓国に入ると、青少年有害メディア物という判定を受けた。青少年有害 メディア物は書店の陳列台では簡単に求めることができない。だから、筆者は この本を求めるために、書店の陳列台ではなくレジで本を要請して購入した。 もちろん、この漫画を出版したキルチャッキ出版社は青少年有害メディア物の 判定を不服として再審を要請し、8月29日、刊行物倫理委員会(以下『刊倫委』)は 結果としてその決定を取り消した。こうして作品は有害物の判定からは抜け出 したものの、その痕はいまも残っている。とにかく〈あるアナーキストの告白〉 は、自由を求める一人の人間の生を扱ったのに、韓国では青少年保護法(以下 『青保法』)の足かせをかけられて、有害物という頚木をかけられ、虚空で羽 ばたく時期を送ったのだ。いったいなぜこんなことになったのだろうか?

実は韓国では、青保法がさまざまな表現物を重く押さえ付けている。青少年保護 のイデオロギーが密かに作動して、表現物そのものに対する国家的な規制と同時 に、創作者の自己検閲も行っている。青保法は1997年、金泳三(キム・ヨンサム) 政権の時に施行されたが、この法は施行されるとすぐ青少年保護という名目で、 各種の表現物を検閲する体制として機能し始めた。代表的にチャン・ソヌ監督の 〈嘘〉のような映画が例としてあげられる。以後、金大中(キム・デジュン)政権、 盧武鉉政権を経て本格化した青少年保護イデオロギーは、李明博政権の露骨な 表現の自由弾圧の局面で、文化保守主義を代弁して広範囲かつ日常的な検閲装置 として活躍した。特に2010年、女性家族部傘下に青保委が移転されると、青保法 は家父長制と母性愛に基づく家族主義、正常家族神話、保守キリスト教の清教徒 主義などと結合し、表現への検閲ばかりか、社会的統制のイデオロギーとして 青少年保護を強化している。

青保法の登場で、各種のメディアは青少年有害メディア物という名による検閲 の危険にさらされている。映画やゲームにような場合は、映像物等級委員会と ゲーム等級委員会による等級分類制が施行されているが、事前審議という審議 の形態により、一種の情報サービスとして機能するべき等級制が、むしろ事前 検閲の機能をしている。表面的に見れば、単に青保法の問題だけに置き換えら れているが、問題の核心は、実は韓国社会に深く位置しながらも隠されている 青少年保護イデオロギーだ。青少年保護イデオロギーは本当に青少年を何かの 社会的な主体と見ているというよりも、青少年を保護するという名目で各種の 表現物やメディアを検閲する形で作動する。したがって青保法による検閲制度 や青少年有害メディア物の判定は、刊行物や放送番組、映画、ビデオ、公演、 ゲーム、レコードなどを直間接的に検閲し、統制することになる。

特に刊行物に対し適用される部分は、青保法第8条にその根拠がある。第8条は、 青少年有害メディア物の審議決定の条項として、各メディア物を審議する機関 が「倫理性」と「健全性」について有害性を判断することになっている。刊行 物を審議する機関は刊倫委だが、出版文化振興法によれば刊倫委は「刊行物の 倫理的・社会的な責任を具現して、刊行物の有害性を審議するための委員会」 だ。また、刊倫委は出版文化振興法第19条「刊行物の有害性審議」を基準とし て有害物を判断する。

要約すれば、体制威嚇性、淫乱性、暴力性という3種類の項目が判断の基準だ。 ここで〈あるアナーキストの告白〉が青少年有害メディア物判定を受けた項目 は、体制威嚇性や暴力性ではなく「淫乱性」だ。〈あるアナーキストの告白〉 が理念的な対立と世界大戦を描いているので体制脅迫的だとか暴力的だという 指摘を受けたのならともかく、いくつかの場面のつまらない部分がわいせつ物 と判定したのは、道を通る犬も笑う。ある人たちは、漫画の題名の『アナーキ スト』という単語が持つ含意により、刊倫委が淫乱性を理由として青少年有害 メディア物判定をしたと推測したりもする。もし、この推測が事実でも、この 漫画を抑圧する対外的な名分が青少年の保護だという点、その判断の基準が 淫乱性だという事実が問題だ。

実は漫画の原題をそのまま翻訳すると「飛行の芸術(El Arte de Volar)」だ。 自由に人生をはいあがろうとした信念を持つある人物の人生が、どのような政治的・ 社会的な状況によって挫折することになったのかを逆説的に示す題名だ。漫画 の構成も、5階のビルから転落するプロローグに始まり、4階は幼年期、3階は 青年期、2階は中年期、地面の老年期へと、順次墜落する構成を取っている。 彼がフランコ政権下のスペインに戻り、こんな話をする場面がある。「生き残り たければ、盲目的に体制に順応しなければならなかった。単に過ぎた日の理想を 捨てれば良いのではなく、熱烈な信奉者にならなければならないということだ」。 彼は激動する社会と抑圧的な体制下で、こうして妥協し、挫折するほかはなかった。

漫画を読めば、今もその時とあまり違わないという点で、妙な悲しみと怒りが 交差する。では少なくとも〈あるアナーキストの告白〉は、そしてわれわれは、 そんな道を繰り返してはならない。〈あるアナーキストの告白〉は青少年有害 メディア物の判定から抜け出して自由になったが、これから出る他の作品も、 青保法のような検閲装置から自由になって、共にはいあがらなければならない からだ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2013-09-20 19:45:56 / Last modified on 2013-09-20 19:46:38 Copyright: Default

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