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朴槿恵の女性性に対する攻撃はなぜ失敗したのか

[大統領選挙を語る](4)「女性大統領」に対する歪んだ期待を破る

ナヨン(地球地域行動ネットワーク事務局長) 2013.01.07 11:11

2012年12月19日の夜、TVの画面にいっそ目を閉じてしまいたい場面が現れた。 それも開票をまだずいぶん残っている時点で。真っ赤な服を着た彼女が明るく 笑っていた。そしてすぐ続いて「最初の婦女大統領」、「最初の女性大統領」 という修飾語が派手に彼女の前を飾った。ああ、信じたくなかったが結局現実 になってしまった。「最初の女性大統領、朴槿恵(パク・クネ)」。

[出処:朴槿恵キャンプ]

大統領選挙が本格化する前から一番聞きたくない言葉があった。「フェミニスト は朴槿恵(パク・クネ)をどう思うか」、「女だから女を支持するのか」という 質問。「女だから女を支持するのか」という質問は男性だけが政治的な主体だと 前提にする今の現実をそのまま表わす質問で、同時に政治の場で女性がどんな 対象と思われているのかを示す質問だ。あえて比較する対象がない以上、どの 男性も「男だから男の候補を支持するのか」という質問はされない。男性の 代表者は当然、普遍的な政治的な主体と見なされるからだ。

しかし女性候補と、これに対する女性の支持は完全に異なる象徴性を持つ。 男たちの投票行為は、男だから男の候補を選ぶのではなく、一人の政治的主体 として代表者を選択する行為だが、女たちの女性候補支持は、普遍的代表者で はなく、女性の代表者としての選択になってしまうのだ。これはその上、女性 たちの政治意識を卑下する根拠になりさえする。これは男性中心的な政治構図 の中で、男性は特定のアイデンティティとしては現れないが、女性は何かの 「アイデンティティ」の象徴として位置付けられることにより現れる現象だ。

そしてまさにこうした構図のために、ある女性候補が自ら女性アイデンティティ を自分の象徴として出てきた時、この象徴はさらに極大化されるほかはない。 女性代表者が「女性」になった瞬間、彼女は自分の政治的な立場や動きではなく 象徴的なアイデンティティとして評価される。

ところであるいは自らに決定的な毒になりかねないこの象徴性を、朴槿恵は早 くから自分のものとして専有してしまった。恐らく、これは政治的な成果や具 体的な政策の代わりに、朴正煕の娘であり、正統保守のアイコンのような色々 な象徴に勝負をかけるほかはない朴槿恵とセヌリ党の必然的な選択の結果だろ う。当然、朴槿恵の当選は単に「女性」としての象徴性を専有した結果だけで はない。彼女が持つすべての象徴が彼女に統合されてあらわれた結果である。

彼女はいつの間にか「困難な時代に貧しい韓国を急速に成長させた父と、困難 な人々を一生懸命訪ね歩き、慰労した母と不幸にも死別し、若い年齢で重い荷 を背負ったまま、自ら政治的経験を積んで成長してきた立派で誇らしい女性」 になっていた。そして、こうしたイメージによって「お父さんのように、国の 責任を持って、お母さんのように細やかに国民を世話する」代表者として認識 されるに至った。重要なことは、こうした朴槿恵のイメージに40代、50代以上 の年令の多くの女性が自分の経験と期待を同一視したという事実だ。

中壮年層の女性たちの朴槿恵支持が意味するもの

「女が大統領に立候補するというのは、韓国が、私の考えは、そうですね.... 韓国がこんなに大きいんだな、男を押し退けて女が大統領に出てきたというこ とが、これからを見なければいけませんが今、現在としてはとても誇らしいで す...女にもできて、女や男でも同等な時代がきたんだなあ、女だからと疎外さ れず、女もこうして国の仕事ができる。私はそれで女性として見れば、嬉しい ということです」。(面接者A)

これは、朴槿恵の女性代表性に対するある研究1)で、研究者が某大学清掃用役 分会の組合員を対象に行ったインタビュー面接で出てきた言葉だ。

60、70年代の貧しく苦しい時期を通ってきた中壮年層の女性たちは、女性とし ての自分の人生に矛盾した考えを持っている。彼らは自分の娘たちに「お前は 能力さえあれば、結婚せずに一人で暮らせ」と言いながら、「それでも女は良 い男と出会って、結婚して、子供を生んで暮らすことが幸せだよ」と話す。女 だから学業を諦め、誰にも認められない家事労働とケア労働で一生苦しんで、 賃金労働をしても、結婚、妊娠、出産、養育など女としての人生に関する他の 条件によって雇用不安と低賃金に苦しんだこれらの女性に朴槿恵は自分たちと 同じように苦しい時期を味わいながらも、女性として自分の能力を育てた「夢 の代理人」だ。

家族と社会からいつも疎外される位置にあった多くの中壮年層の女性にとって、 朴槿恵は自分が『女性だから』できなかった期待と夢を実現させる存在である。 たとえ朴槿恵がこれらの女性の女性としての苦しい経験をどれ一つ直接体験し なかったとしても、彼女は『同じ女性』だから同じように何も経験しない男性 よりはるかに彼女たちの立場を代理できると期待される。

したがって私たちが注目すべき事実は、こうした背景を見る時、中壮年層女性 の朴槿恵支持をただ「女性だから女性を選択したこと」とだけ解釈してはいけ ないという点だ。結局、朴槿恵の象徴性に対する中壮年層の女性有権者の期待 は―それがたとえ外れた期待だとしても―、厳格に存在する社会的差別と性別 階級により女性たちが経験した現実に基づいているからだ。結局、女性たちの こうした現実に対する代案を語らないまま、朴槿恵が女性かどうかを問題にし たり、彼女を『独裁者の娘』、『お姫様』でしかないと批判するのは、完全に 焦点が外れていて、むしろ女性としての彼女を引き立たせるだけなのだ。

外れた期待と誤った攻撃

ところで朴槿恵がこうして象徴を専有している間、野党圏は何をしていたのか。 文在寅(ムン・ジェイン)候補は情けなくも「女性大統領」を打ち出した朴槿恵 に対抗して「大韓民国の男」を打ち出すのに忙しかった。非難が起きると、 「大韓民国の男」は公式に出てくることはなくなったが、選挙期間中、ずっと 文在寅キャンプは大韓民国の男としての国への愛、家族への愛、妻への愛を見 せるイメージに力を注いだ。文在寅候補の写真で文在寅はいつも前を見ていて、 彼の夫人は文在寅を見ていた。どこでもそのイメージは同じだったし選挙公報 でもこれはそのまま再現された。愛で結ばれた安定した家庭、まっすぐな家長 で、多少無愛想に見えても愛が多い男と、彼のそばでいつも彼を尊敬し愛する 目つきでながめる妻。TVの広告ではこうしたイメージが一番象徴的に極大化さ れた。彼は演説を準備し、疲労で椅子の上で眠り、妻はそんな夫のために小走 りで水を汲んでやって、もしや夫が起きないかと用心深く後で彼のワイシャツ にアイロンがけをする。

恐らくこうしたイメージは、多くの男性と安定した家庭を夢見るような女性に はアピールしたかもしれない。しかしそのイメージを一生自分の日常の中で遂 行してきた女性にとって、これは決して共感を呼ばないものだった。彼らは、 安定した家庭の中で夫を真心からにじみでる尊敬と愛で見守る文在寅の夫人を 見て、羨んだり彼女に同一視をするのではなく、文在寅を見て一生自分が面倒 を見なければならなかったうんざりする夫の姿を思い出しただろう。文在寅に とって、一生の運命であり、パートナーだったのは、長年彼の横で共にしてき た夫人ではなく、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前大統領だった。男性の間の連帯と深い きずなの間で、女性としての文在寅の夫人は、ただその横で彼をながめるだけだ。

こうしたイメージの中で描かれる文在寅の女性政策は、女性の現実を理解して 反映するのではなく、ただもう少し責任感ある男性として女性たちの「面倒を 見る」政策としか見えなかった。そしてこれは単に彼のイメージの限界ではなく 文在寅キャンプの家父長的な認識の限界だ。

▲ホン・ソンダム作〈ゴールデンタイム-ドクターチェ・イニョク、生まれたばかりの閣下に挙手敬礼する〉、194×265cm、カンバス油彩[出処:平和博物館ホームページ]

この渦中にさらに情けなかったのは、多分、男性中心的見解に基づいた野党圏 支持者の朴槿恵の女性性に対する嘲弄だった。これを代表的に示すのが問題に なったホン・ソンダム画伯の絵だ。彼の絵で朴槿恵は、産婦人科のベッドで 朴正煕を出産し、医者は朴正煕に対して、挙手敬礼をしている。この絵で作家は 出産の経験がない朴槿恵に意図的に出産させ、父の権力を継承した彼女が父を 生ませている。医師は彼女に敬礼せず、彼女からまた誕生した父に敬礼をする。

もちろん、作家の意図は朴槿恵を通じ、維新が再び誕生することになったこと を象徴的に示そうとしたのかもしれないが、彼の実際の意図がどうであれ、 これは単に朴槿恵に対する嘲弄であるばかりか、女性権力と女性的象徴に対する 総体的な蔑視と見られる。女性は出産する存在でしかなく、本当の権力は彼女 にない。こうした認識と態度が、果たして単にその対象が朴槿恵だから出たのだ と言えるだろうか?

その上、この作品をめぐる批判に対する男性支持者の擁護はさらに理解に苦し んだ。一例として文化評論家チェ・ヨンイルの擁護は、彼がこの作品に対する 批判の脈絡を全く理解できずにいて、女性主義的な認識もないことをはっきり 示している。彼はホン・ソンダムの作品と比較して、フリーダ・カーロの作品 「私の誕生」に言及し「この作品もある女性の子宮から赤ん坊の頭が出てくる 場面を含んでいるが、やや嫌な姿に見えるが子供を流産し、子供を持てなかっ た作家の内面世界を描いた作品と評価されたりもする」と話したのだ。2)

▲フリーダ・カーロ作〈My Birth〉、30x35cm、1932

フリーダ・カーロの作品とホン・ソンダムの作品を較べてほしい。ホン・ソン ダムの作品に対する批判は、単に「出産する姿が嫌だから」ではなく、出産を 再現する方式の問題であり、出産場面で、女性をどう表わしているのかの問題 だ。フリーダ・カーロの作品では、出産は戯画化された対象ではない。彼女の 作品は苦痛だ。その上、彼女の作品は彼が誤解するように、女性としての流産 の経験に対するものではなく、男性中心の世の中で苦しみの中で生まれた自分 自身、女性の存在に対するものだ。子供を生んだ女性は死んで、その体から生 まれた子供も苦痛だ。これを見守るベッド上の聖母マリアも苦しい表情をして いる。フリーダ・カーロは子供を生んだ女性も自分自身であり、生まれた子供 も自分自身だと話した。

したがって、チェ・ヨンイルが彼女の作品を、単に女性として子供を流産した 経験を表現したと解釈したことからも、ホン・ソンダムの作品に対しても女性 の出産に対するこうした断片的かつ道具的な認識をそのまま反映しているとい う点を全く認知していないという事実が徹底的に男性中心的な見解で女性性を 再現して解釈する人々の限界を示すものだ。

結局、朴槿恵が「初の女性大統領」を専有している間、相変らず男性中心の政 治と認識に閉じ込められていた野党圏は、どんなものについても朴槿恵が専有 した象徴を越えられなかった。この点をはっきりさせて評価しなければ、今後 5年間、朴槿恵は彼女に対する女性の外れた期待の中で、さらに自分の歪んだ 女性代表性の象徴を強化するだろう。

「初の女性大統領」の歪んだ象徴を打ち破るために

一方、選挙期間中に形成された朴槿恵の女性性に対するもうひとつの攻撃は、 主に女性としての彼女の経験に焦点が合わられていた。結婚も、出産もしたこ とがなく、女性労働者として暮らしたこともない彼女は、女性としての経験が 全くないということだ。それなら果たして女性としての経験が全くない男性は どうすれば女性を包括する政治ができるのか、結婚や出産の経験がない女性、 男性を愛さない女性は女性としての経験がないといえるのだろうか。

このような言葉は女性が女性として、同時にこの社会を生きる普遍的な存在だ という事実を見過ごしている。すべての女性は女性としてのアイデンティティ と共に、この社会で構成される多くのアイデンティティらで生きていっており、 またすべての女性たちが女性としてのアイデンティティを認識して生きていっ ているものでもない。女性代表者に対する錯覚と歪曲は直ちにこのような事実 を見過ごすことで始まる。

当然、朴槿恵は女性を代表する女性の代表者ではない。しかしその根拠は彼女 が普遍的な女性の経験を持っていないからという理由からでなく、彼女が女性 の歴史とこの社会での女性の経験や位置をどう認識しているか、彼女がしよう とする政治が果たして女性にどんな結果を持たらすのかを基準として評価され なければならない。さらに、この徹底した家父長体制が、男性と女性の間での ジェンダー差別だけでなく、私たちの労働と身体、あらゆる生命にいかに差別 的に暴力的な根を張っているのかについて、彼女がいったいどれほどの関心を 持っているのかを痛烈に評価して示さなければならない。そして、その評価と 批判は朴槿恵だけでなく、韓国の社会全体に対する洞察につながらなければな らない。

朴槿恵が女かどうかは、もはや重要ではない。重要なことは「女性大統領」に 対する歪んだ期待を打ち破り、今後、私たちがどんな政治を作り、何を代案と して見せるかだ。朴槿恵政権の5年はその重要な試験台になるだろう。

1) イ・ジノク、『朴槿恵、女性政治勢力化の閉門か関門か?』、〈女性、大統領選挙政治を語る〉討論会、2012.10.25

2) 〈メディアオヌル〉11月21日付、「チン・ジュングォン、維新出産、セヌリ法的対応方針は幼稚だ」

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2013-01-08 00:50:21 / Last modified on 2013-01-08 00:50:22 Copyright: Default

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