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ギネスブックに載ったサムスンの無災害時計は今日も回る[連続企画]サムスンが捨てたもう一つの家族(8)
ヒジョン(ルポ作家) 2010.11.30 14:25
サムスン電子には、無災害時計がある。目標時間と達成時間が並んでいる時計 は、無災害記録達成を誇っている。 サムスンの無災害の歴史は長い。サムスン電子器興工場は、1991年11月から 1998年8月まで、104か月間たった一件の災害も発生せず、世界で最高の安全 事業場として1999年にギネスブックに載った。 2000年にはサムスン電子半導体全事業場が海外の再保険社から無災害を記録し た補償として保険料10億ウォンの払い戻しを受けた。2002年、器興工場は世界 のどこの事業場も達成できない無災害記録60倍(2億8960万人時)を達成した。 2010年、サムスン電子に通うあるエンジニアは無災害時計を示して話す。 「明らかに事故に遭う人がいるのに、なぜ時計が止まらないのかわかりません」。 労働の過程で作業環境や業務により発生する事故を「労働災害」という。だが 無災害時計は作業中の事故で人が怪我をしても止まらない。 ソン・チャンホ、ハン・ヘギョン、キム・ギヨン、キム・オギ… 故ファン・ユミ、 ヨン・チェウク、イ・スギョン、ファン・ミヌン…彼らはサムスン電子半導体で 働いて病気にかかったり命を失った。しかし労災被害者ではない。彼らは 労災を認められなかった。 サムスンは、有害物質を使ったことがないという。12時間二交代勤務が労働者 の免疫力を下げることはなく、半導体の工程は人体に無害だという。勤労福祉 公団はサムスンの主張に味方した。労働者に労災不承認判定をしたのだ。 サムスンに積極的に介入を要請します10月19日、ファン・サンギ氏は勤労福祉公団を訪ねた。公団の代表ブランド 〈希望ドリーム〉の看板の下にひざまずいて、彼は何かを書いた。器興工場で 働いて2007年白血病で亡くなったファン・ユミ氏が彼の末娘だ。 〈公団、希望ドリームは口先でない実践で!〉白い紙にマジックで書いた文を彼は勤労福祉公団のガラス扉に貼った。自分が 考えても文句がおもしろかったのか、笑う。その笑いが終わる前に、彼は勤労 福祉公団のロビーに横たわる。勤労福祉公団理事長との面談要請が受け入れら れないのだ。
[出処:チャムセサン資料写真] サムスンで働いて病気にかかったとして労災申請をした13人全員が不承認判定 を受けた。被害者の家族は勤労福祉公団を訪ねて抗議し、理事長との面談を要 請した。勤労福祉公団の職員は、面談の代わりに理事長室に行く通路を塞ぎ、 エレベーターを止めた。職員にファン・サンギ氏が叫んだ。 「私の娘だけが労災を認定されないのなら、私はここから出て行ってもいい。 だがお前らがこうしている間に李健煕(イ・ゴニ)は人を殺し続けている!」 薄暗いエレベーターの中には、ユ・ヨンジョン氏がいる。彼は重症再生不良性 貧血で9年間闘病しているユ・ミョンファ氏のお父さんだ。 「出てきて下さい。こんなことをしてエレベーターから落ちたらどうするのですか」。 職員の言葉に彼は手を出して遮った。 「私は大丈夫。私の娘は9年間家の外に出られない。あの子は今からだが悪くて、 骨髄があっても受けられない。あの子は骨髄移植を受けられなければ…。子供 が父母より先に行くのは罪だが、父母が先に行くのは当然だ。大丈夫」。 一方では、白血病で亡くなったファン・ミヌン氏の妻、チョン・エジョン氏が 勤労福祉公団保険局長を捕まえて涙声で話した。彼女もまた、夫と同じ半導体 工場で10年働いた。 「私が局長さんに十年働いたことを、その中であったいろんな話を細かく何時 間も話したのに、私たちの前では分かりました、と言ってそれでこんなことを するのですか」。 勤労福祉公団がしたことは、労災不承認の判定だけではない。その前の17日の 国政監査でイ・ミギョン議員が勤労福祉公団の内部文書を明らかにした。 〈訴訟の結果によっては社会的な波紋が大きいと判断される事件であることを 考慮して、訴訟の遂行に万全を期すように... サムスン電子が補助参加人として 訴訟に積極的に参加できるように措置しろ。〉 労災不承認と判定された被害者による労災再審査請求行政訴訟の前だった。 その文書はサムスンが行政訴訟に積極的に介入するよう要請する内容だった。 行政訴訟に参加したサムスンは、国内屈指のローファームの弁護士6人を 代理人団に立てた。 脳のガンで時限付き宣告を受けたイ・ユンジョン氏の夫、チョン・ヒス氏が 保険局長に尋ねた。 「公団は本当に清潔ですか? サムスンと何も関連がないのは確実ですか? 責任を取れますか?」 保険局長は、責任を取れると言い「そうでなければ私の腹を切れ」と言った。 疫学調査の結果のとおりに不承認にしたのであって、公団に責任はないといっ た。積極的にサムスンの介入を要請する内部文書について聞くと、自分の所管 ではないからわからないといった。彼は勤労福祉公団は公正で、不承認の判定 は疫学調査の結果によるものでしかないという話を繰り返すだけだった。 「疫学調査の結果です」勤労福祉公団が労災不承認の根拠にしているのは疫学調査の結果だ。サムスン 電子器興工場で働いたハン・ヘギョン氏の労災審査決定書によれば、不承認の 理由は次の通りだ。 〈産業安全保健研究院の疫学調査チームは、鉛と有機溶剤などに露出すること は認めるが、過去に勤務していた時に施行された作業環境測定でその露出量が 少なく…工程は局所排気装置が稼動している密閉装置であったことが確認され ており…作業環境とガンの発病の相当な因果関係は認められない。〉 ハン・ヘギョン氏は、鉛が33%含まれるソルダークリームを6年間使った。彼女 は脳腫瘍にかかり、腫瘍除去手術の後、1級障害と判定される。彼女はいつも 作業場にはにおいがしたという。しかし疫学調査は局所排気装置が問題なく作動 していたと判断する。 局所排気装置が稼動していたのか、鉛への露出量がわずかだったのか直接確認 できるものはない。ハン・ヘギョン氏が仕事をしたLCD工程はなくなった。 2001年に退社した後、彼女が病気にかかって手術をして、パノルリムを知るま でに9年かかった。1年ごとにチップの密度が2倍になるという法則が支配する 半導体産業で、9年という歳月は設備が変わりラインがなくなるには十分な時間だ。 ハン・ヘギョン氏だけではない。ファン・ユミ、イ・スギョンなどの白血病患者 を輩出した器興工場の1〜3ラインは、すでに変更された。リンパ腫患者のソン・ チャンホ氏が働いていた温陽工場のメッキ工業程も外注化された。 彼らが働いていた作業場はなくなった。では何を根拠に疫学調査をするのか? 病気と作業環境が無関係だという結論はどうして出てきたのか? こうした状況 では、過去の作業環境記録、類似業種での研究文献、被害当事者や同僚の陳述 から結論を得るしかない。 疫学調査を担当した産業安全保健研究院は、この中で作業環境測定の記録を 証拠に採択した。作業環境測定は当時、サムスンが自主的に施行した調査だ。 作業環境測定の内容が実際の作業環境と違うという被害者の主張は 受け入れられなかった。
[出処:チャムセサン資料写真] 病気になった人が証明しろ11月25日に労災被害者の行政訴訟での初弁論が開かれた。労災不承認と判定さ れた被害者とサムスン電子がそれぞれ弁論を行った。サムスン側の弁護人は、 映像を準備してきた。 サムスン器興工場の作業環境の映像だ。自動開閉装置と排気施設を映した映像で、 彼らはサムスン半導体の作業環境が無害であることを主張した。作業場内で行った いくつかの実験も見せた。 サムスン代理人団が工場で映像を映し、実験をしている間、被害者は工場の中に 一歩も入れなかった。今年の4月、サムスンが労災問題について釈明をするとし、 器興工場をマスコミに公開した時も、被害当事者と家族は排除された。一緒に 行くと言ってバスに乗ったチョン・エジョン氏をひとりで残し、記者がバスから おりてタクシーで工場に入るというハプニングもあった。公開されていないのは 半導体工場だけではない。疫学調査と半導体事業場有害要因資料も「営業秘密」だ。 被害者は自分たちの工程で使われていた化学物質の成分もわからない。ただ、 彼らが知っていることは、作業場にはいつもにおいがしたし(イ・ユンジョン)、 製品を素手で触って発疹ができ(ユ・ミョンファ)、生理がなくなり(ハン・ヘギョン)、 頻繁な嘔吐(シン・ソンヒ)などの健康上の問題があり、12時間交代勤務で仕事は 多く、安全教育と安全装備が不備だったという事実だけだ。 サムスンが雇ったローファームが弁論のために工場の中の映像を映している間、 被害当事者たちは自分の記憶のしか言えることがない。大企業のように著名な 研究機関を呼び、環境測定をすることもできない。 しかし勤労福祉公団とサムスンは話す。「証拠を持ってこい。働いて病気にか かったという相当な因果関係を立証する証拠を持ってこい」。証拠が不足だと いう理由で彼らの病気と作業環境は無関係だという。 パノルリムのコンユ・ジョンオク産業医学専門医は話す。サムスンと政府が 「証拠を出せ」と要求する理由は、「証拠を見つけたくても見つけられない状況」 だと知っているからだと。 すでに消えた工程、労働者の陳述よりも会社の記録を証拠に採択する勤労福祉 公団の前で、サムスンより貧しく病気の労働者に、明確で明らかな因果関係を 示す証拠を差し出せるだろうか。 彼らは豊かではない家に生まれた。高等学校を卒業して、金を稼ぐために サムスンに入った。働いて病気にかかり、何千万ウォンもの金を治療費に使った。 健康を失った。挙動も自由ではない。しかし証拠を探さなければならない。 自分が働いて病気にかかったという証拠をだ。 「死んでいく人たちより確実な証拠が必要だというのでしょうか」。 国政監査の日、政府庁舎前で開かれたパノルリム記者会見で、チョン・エジョン氏が 言った話が記憶に長く残る。 止まらない無災害時計労災申請は容易なものではない。会社の顔色を見なければならず、まだサムスンで 働く家族と友人は不利益を考えなければならない。生活費も治療費も足りない。 労災申請に使う時間も余裕もない。 サムスンは労災ではないと言う。慰労金を払い、労災申請を撤回しろと要求する。 大企業を相手に勝てるかと言う。作業環境を証言できる同僚は連絡ができない。 それでも労災申請をした。しかし彼らを待っているのは勤労福祉公団の高い敷居だ。 これは、サムスン白血病の被害者だけの話ではない。2009年に労災不承認が出 た割合は60%を越えた。2007年の54.6%より何と7%近く増加した。勤労福祉公団 の労災認定の割合はますます下がっている。事故以外のガンや神経系疾患が 労災と認められるのはさらに難しい。2009年の脳心血疾患の労災不承認率は 84.8%だ。10人の申請のうち2人が労災を認められない現実だ。 彼らは働いた。怪我をして病気にかかった。しかし労災ではない。だから今日も 無災害時計は止まることなく回り続ける。
[出処:チャムセサン資料写真] 翻訳/文責:安田(ゆ)
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