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韓国:『サムスン白血病』法廷で大攻防
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『サムスン白血病』法廷で大攻防

白血病労働者、サムスン側代理人団と攻防戦

ユン・ジヨン記者 2010.11.26 10:52

サムスン半導体で働き、白血病、リンパ腫などの血液ガンにかかった白血病 被害者の労災処理の可否が法廷で判断されることになった。

『半導体労働者の健康と人権守備、パノルリム』は、勤労福祉公団の続く労災 不承認処理に対し、1月11日、勤労福祉公団を相手に『遺族給与および葬儀費 不支給処分取り消し』等の行政訴訟を提出した。原告側5人の遺族と当事者は 10か月で5回の弁論準備期日を終え、25日午後3時30分、ソウル行政法院203号 法廷で初めての裁判を開いた。

今回の裁判では、原告側パノルリムの訴訟代理人団をはじめ、被告側の勤労福 祉公団の代わりに、被告補助参加人としてサムスン電子株式会社の代理人団が 参加した。彼らは白血病労働者の疾病が業務過程と関連があるかどうか、工場 の作業環境、有害物質使用の有無などをめぐり相異なる意見を表明した。

『サムスン』で白血病になった人々

[出処:チャムセサン資料写真]

原告側のファン・サンギ氏は、2007年3月、サムスン半導体器興工場で働いてい た娘、ファン・ユミ氏を失った。2003年10月に入社したファン・ユミ氏は、 3ラインの拡散工程などで作業していたが、入社2年後の2005年6月、急性骨髄性 白血病と診断された。

ファン・ユミ氏と3ライン3ベイで2人1組で作業した故イ・スギョン氏も、急性 骨髄性白血病と診断され、2006年8月、30歳の年齢で亡くなった。1995年にサム スン半導体器興工場に入社して11年後の2006年7月、急性骨髄性白血病と診断さ れたのだ。同じラインで同じ作業をしていた二人の女性労働者は、同じ病気に かかり亡くなった。

現在、急性前骨髄球性白血病で闘病中の原告側キム・オギ氏は、1991年入社後、 5年間サムスン半導体温陽工場で働いた。彼は退社後7年間、専業主婦として過 ごしたが、去る2005年1月、急性前骨髄球性白血病という診断を受けた。

原告チョン・エジョン氏の夫、故ファン・ミヌン氏は1997年にサムスン半導体 器興工場に設備エンジニアとして入社した後、7年間、設備維持および保守業務 を遂行した。その過程で2004年10月、急性リンパ腺白血病と診断され、2005年 7月、31歳の年齢で死亡した。温陽工場の設備エンジニアだったソン・チャンホ 氏も、1993年の入社後約6年間働き、2008年10月頃に悪性B細胞リンパ腫という 診断を受けて闘病している。

彼ら5人は2007年6月と2008年4月に、勤労福祉公団に労災を申請したが、2009年 5月、全員が不承認の通知を受けた。審査、再審査請求をしても結果は同じだっ た。現在まで労災を申請した10人の白血病被害者に対し、公団は全員に不承認 処理を行い、現在審議を待っている6人の被害者も労災承認の可能性は薄いと見 られる。

白血病労働者は有害物質に露出していたか

今回の裁判で一番争点になったのは、白血病の労働者たちが直接有害物質に露 出していたかどうかだった。原告側代理人団はファン・ユミ、イ・スギョン氏 が働いていた器興工場の6つのウェハー加工工程を提示して、有害物質に露出し ていた可能性を提起した。工程過程の一つである感光工程の感光剤にはベンゼ ンが含まれ、エッチング工程でも酸化エチレンが発生するという。

問題は6つの工程は順に進められるが、ウェハーは前の工程で反復、循環するこ とがあり、他の工程の有害物質が他の工程の勤労者に影響するという点だ。原 告側は「工程の反復によって、感光、エッチングの工程で発生したベンゼンと 酸化エチレンに拡散工程などの他の工程で作業する勤労者も露出する」と説明 した。ベンゼンは白血病やリンパ腫を誘発し、酸化エチレンは白血病、リンパ腫、 肝臓ガン、腎臓ガンなどを誘発する物質だと言われる。

だがサムスン側の代理人団は、ウェハー加工の過程での有害物質が、他の工程 にまで影響しないと主張した。感光工程は『感光-感光剤除去-ドライエッチング』 の過程を経るが、この過程はセットのように進められるので、感光剤は除去されて 他の工程に渡されるという。サムスン側は「特に原告側勤労者のうち感光工程と インプラント工程で働いていた人はいなかった」と説明した。

[出処:チャムセサン資料写真]

また温陽工場で半導体の組み立て工程に参加していたキム・オギ氏は半導体の 異物を取り除くために、トリクロロエチレン(TCE)を使ってきたという。TCEは 白血病、リンパ腫、肝臓ガンを起こす有害物質といわれる。だがサムスン側は 「使用頻度や量が少なかったので、直接の発病の原因とは見られない」と主張 した。TCEは200mlの密閉容器に入っており、使用するときには極めて少量を綿 棒につけて使ったので、露出の憂慮はないという。使用頻度もまた一日に4-5回 程度で、きわめて少なかったと説明した。

一方、白血病で亡くなったファン・ミヌン氏は、器興半導体でオペレーターと して働き、維持と保守の作業をしてきた。そのためやはり感光、エッチング、 蒸着、インプラントの過程で各々ベンゼンと酸化エチレン、TCE、ヒ素化合物に 露出したという。温陽半導体でメッキ作業をしていたソン・チャンホ氏も汚染 除去と洗浄、そしてメッキの過程で各々TCE、鉛、ホルムアルデヒドに露出した と主張している。これに対してサムスン側の代理人団は、「彼らはモニター、 設備と保守、指標管理が主な業務で、ラインの外でモニターし、問題が起きた 時にラインに入り、設備と保守作業を遂行した」とし「発ガン物質や白血病に 関連する化学物質を扱っていない」と主張した。

ベンゼン、酸化エチレンなどの発ガン物質が扱われたか

原告側弁護団は9月に参与連帯が発表したソウル大学校産学協力団の作業環境 疫学調査を提示して、ベンゼンなどの発ガン物質が工場で使われていると主張 した。

ソウル大学校の疫学調査によれば、40〜50種類の感光剤のうち6件を分析した結 果、すべてベンゼンが検出されたという。また感光剤としてはベンゼンだけで なく、エチレングリコール類の化合物も検出された。これは2007年にエッチング 工程でも検出された。器興工場で使われる99種類の化学製品のうち10種類は成分が 未確認で、温陽工場で使われる33種類の化学製品のうち3種類も成分が未確認だ。

これに対してサムスン側の代理人団は、「参加人の半導体事業場にはベンゼン を含み酸化エチレン、フォルム、ヒ素、TCEなどを使用禁止物質と指定している」 とし「原告側の主張する感光剤にベンゼンが含まれているというのも事実無根」 と否定した。ベンゼンが検出されたというソウル大の疫学調査は、バルク溶液 自体を分析したもので、空気中のベンゼンを調べた産業安全保健研究院の疫学 調査と較べ限界を持つと主張することもした。

[出処:チャムセサン資料写真]

また被告側は、ソウル大の疫学調査について「ソウル大が独自に測定したので はなく、2007年に実施した作業環境測定結果の書類を提出させて再分類、集計 した」とし「また、ラインごとに使用物質が異なり、勤務者も違うが、事業場 のライン全体の測定結果を集計した」と反論した。

だが、原告側は労働部告示の露出基準だけを絶対的と信じる基準は問題がある と対抗した。現在、産業安全管理公団などの疫学調査は、露出基準以下の水準 では、ほとんどすべての勤労者に健康上の悪影響を与えないと信じているが、 △短時間の集中露出が可能、△2種類以上を同時に使用する場合の相乗作用、 △個人差があるため露出基準以下でも発病可能だという判断も必要だということだ。

一方、原告側は工場作業環境に対するソウル大の疫学調査を提示して「慢性的 な低濃度汚染と、排気時間を守らない問題など、日常的な作業環境での有害物質 に労働者が露出していた」という可能性を提起した。だがサムスン側は「原告側の 労働者たちは発ガン有害物質を扱わず、参考人の半導体会社はトップダウン 排気装置、局所排気装置等によりきちんと有害物質を管理している」と主張した。

「サムスンは嘘をついている」

今回の裁判は、2時間を越える長時間進められた。双方は各々40分ずつの発言の 機会が与えられ、特にサムスン側の代理人団はこの日、プレゼンテーションを 通じて、器興、温陽半導体工場での工程を詳しく明らかにした。工程作業に対 する簡略な映像で業務上の疾病の関連性を否定することもした。映像では勤労 者が防塵服とマスク、手袋、ゴーグル、腕カバー、エプロンなどの安全保護装具を 着用し、安全装置もまた完全に作動していた。

だが、サムスン側が提示した工程は、すでに原告が働いていた環境とは大いに 変わっている。裁判所もこれを認知し、被告側が要請した現場訪問を要請して いる。そのため新しい設備が取り付けられた現工程の説明は、『工程の理解を 助けるため』というサムスン側の説明にも、その事実性は低下せざるを得ない。

故ファン・ユミ氏の父親ファン・サンギ氏は法廷で、「サムスンは嘘をついて いる」とし「事故が発生したラインはすでになくなったのに、彼らは新型ライ ンを見せて事実を歪曲、糊塗している」と抗議した。

またサムスン側の代理人団が提示した教科書的な工程マニュアルは、実は現場 で守られないという問題もある。故ファン・ミヌン氏の夫人チョン・エジョン 氏は、「あのように働いていれば、被害者は死ななかった」と残念な気持ちを 表わした。実際に白血病被害者の当事者と遺族は、工程での安全教育が不十分 だったし、手袋などの安全保護装具の未着用が多かったと証言してきた。 マニュアルを守れば、物量を期待されるほどに生産できず、これは直ちに実績に 反映されるためだ。

工程で着用する防塵服などの安全装具もまた勤労者を有害物質から保護するこ とができないという。原告側は「防塵服は薄いナイロン材質で、防塵マスクは 布製」とし「これらはホコリに敏感なウェハーを保護するためで、化学物質や ガスから人体を保護することはできない」と説明した。続いて「また化学物質 が飛ぶと、すぐ防塵服に染み込んで皮膚につく」と付け加えた。

チョン・エジョン氏は続いて「エンジニアもサムスン側はラインの外でコン ピュータのモニターと指標管理をして、問題が起きたら設備と保守を遂行する といったが、これは事実ではない」とし「エンジニアは一日中ラインで設備と 保守を担当し、指標管理などの仕事は勤務以外のことと扱われた」と主張した。

「業務と災害の因果関係の推測が判断されれば労災を認めるべき」

また原告側は、現在の労災保険審査委員会の判断の根拠が、業務起因性の法理 を誤認していると主張した。1997年の大法院の判決では、業務と災害死時の相 当な因果関係は必ず直接的な証拠により、自然科学的に明確に証明されなけれ ばならないのではなく、間接的な事実により業務と災害の相当な因果関係が推 測判断されれば足りると見たためだ。

[出処:パノルリム]

また最近、ソウル高等法院で副鼻洞癌についての業務関連性を認めた判例によ れば、「その疾病が発病原因物質によるものでなく、全く違う原因によったと いう『立証』をしない以上...(中略)因果関係を認める方向で立証責任を緩和す るべきだ」と出ている。

だから原告側は、各種の白血病関連判例を提示して「業務と災害間の相当因果 関係は、個人的な要因や他の原因による発病という立証をしない以上,業務上 の災害が発生したと見なければならない」と主張した。原告側が提示した判例 には、△許容基準未満の露出でも個人の免疫力の差によって疾病が発生するこ とがある、△勤務期間が1年にならなくても、有害物質などに露出したとすれば 発病することがある、△直接の資料がなくても間接的な事実や医学的な疑いで 有害物質を推定し、業務起因性を認めるというなどの決定文が含まれている。

だがこれに対して被告側の代理人団は、「特別な理由がないという事情だけで 業務上の災害を認めるのは妥当でない」とし「何よりも合理的、客観的な判断 で因果関係を明らかにするべきで、勤労福祉公団の決定と同じように該当勤労 者の疾病と半導体工場の業務とは関連がない」と反論した。

一方、白血病労働者とサムスン側の激しい法廷攻防が予想されているなかで、 12月27日午後2時、ソウル行政法院201号法廷で開かれる2次弁論には、原告側が 要求した証人が出席する予定だ。この日は始興工場のソン・ジュンチョル氏と 温陽工場のキム・ソンシク氏がそれぞれ事実関係を述べる予定で、1月には原告 側の専門家証人としてペク・トミョン、コン・ジョンオク、キム・ヒョンジュ 博士が各々出席し、疾病と業務の因果関係を説明する予定だ。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2010-11-27 05:03:23 / Last modified on 2010-11-27 05:03:24 Copyright: Default

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