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韓国:サムスンが捨てたもう一つの家族(3)イ・ユンジョン、ユ・ミョンファ
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「私たちは同じラインで働いて病気にかかりました」

[連続企画]サムスンが捨てたもう一つの家族(3)イ・ユンジョン、ユ・ミョンファ

ヒジョン(執筆労働者) 2010.10.26 09:12

イ・ユンジョン氏とパノルリムの人々が初めて会った席だった。作業環境を調 べるためのいくつかの質問をしている間、ユンジョン氏が話した。

「一緒にサムスンに入社した私の友だち2人も脳に腫ようができました。そして 私たちのラインでも私が退社する頃、病気の子がいました。苦しくて会社にも 出てこられなかったのですが……」

「もしかしてユ・ミョンファ氏ですか?」

「はい、そのとおりです。」

「ミョンファ氏は重症の再生不良性貧血にかかりました。血液の疾患でしょう。」

イ・ユンジョン氏とユ・ミョンファ氏は同じラインの先輩と後輩だ。彼女たち は、サムスン半導体温陽工場のテスト工程で働いていた。イ・ユンジョン氏は 6年、ユ・ミョンファ氏は1年働いた。

イ・ユンジョン氏の夫、チョン・ヒス氏は病院でサムスン半導体白血病問題の 時事番組を見た。脳ガンにかかった妻を看護している時だった。看護師に「私 の妻も職業病の可能性があるでしょうか」と尋ねた。看護師は「あの人たちは 白血病の血液のガンで、ユンジョン氏は脳だから無関係です」と答えた。

果たして無関係だろうか。彼女たちはみんな元気だった。ユ・ミョンファ氏は 入社前の教育で健康診断の結果、貧血指数が高かった職員の採用が取り消され た事件を思い出した。それほどサムスンは健康な人しか採用しなかった。

しかし彼女たちは会社で働いた後、病気の身になった。

▲子供を抱くイ・ユンジョン氏の姿[出処:パノルリム(http://cafe.daum.net/samsunglabor)]

イ・ユンジョン氏は脳に腫ようができた。サムスン半導体を退社した後、結婚 をした彼女は息子と娘を生んだ。発病して病院に運ばれた日は、なぜか5月5日 子供の日だった。幼い息子と娘がお父さんについて遊びに行った日だった。手 術の後も脳の腫ようは大きくなり続けた。彼女は時限付き1年の命を宣告された。

ユ・ミョンファ氏の病名は重症再生不良性貧血だ。聞いたことのないような名 前のこの病気は、骨髄のすべての機能が減少する血液疾患だ。大学の学費を稼 ぐためにサムスンに就職して1年のことだった。彼女は他人の血を受ける輸血に 頼り、9年間闘病生活をしている。

彼女たちだけでない。同じラインの同僚は肺に障害がある子供を出産した。イ・ ユンジョン氏と一緒にサムスンに入社した友人二人は脳に腫ようができた。ユ・ ミョンファ氏の友人もまた流産した。

彼女たちはみんなサムスン半導体に通っていた。

彼女たちはどんな仕事をしていたのだろうか?

イ・ユンジョン氏とユ・ミョンファ氏はどんな仕事をしていたのだろうか。

電子製品は熱を出す機器なので、電子製品に入れる半導体チップは製造の過程 で高温テスト過程を経る。半導体チップを高温チャンバーに入れて一定の熱に 耐えられるかどうかをテストする。この時、高温チャンバーから出てきたボー ドを取り出して、ボード上の半導体チップのうち、焼けた不良品を肉眼で選ぶ のがユンジョン氏とミョンファ氏の主な仕事だった。

当時の仕事について聞くと、イ・ユンジョン氏は首を横に振った。

「働きたくなかったことだけ覚えています。」

「仕事はつらかったようですね。」

「修習期間が終わった後からはほとんど12時間勤務しました。」

1997年に入社した彼女は、IMFの時に価格低下による損失を物量で補充するサム スンの方針によって過度な業務に苦しんだ。

「はやく物量をさばけという雰囲気でした。半導体を整列する(用役業者)おじ さんも、ハイニックスの同じようなところよりサムスンの方がとてもきつい、 作業者は座っていられないと言っていました。物量でやるので仕事が多くなる のでしょう。」

イ・ユンジョン氏は一人で30個の高温チャンバー機械を担当した。数百のチッ プが刺さっているところを直接持って移し、30ほどの機械の中に入れた。腕と 腰に無理がきた。勤続年数がせいぜ2-4年ということで有名な程、仕事は大変だっ た。

ユ・ミョンファ氏は『不良』が彼女を一番困らせたという。

「不良を見落とすかと思って寄宿舎に帰っても寝られませんでした。」

忙しい工程だが、ミスは容認しなかった。不良を発見できなければ、怒られる のはもちろん、人事考課に反映された。廊下には組別生産量が成績表のように 貼り出されていた。早く働いても正確でなければならなかった。その方法はさ らに体を酷使することだけだった。

高温チャンバーを開くと煙が上がってきた。爪ほどの半導体チップの不良を見 分けるためには、ボードにできるだけ顔を近づけて見なければならなかった。 いやな臭いがした。

半導体チップは手で直接触れば皮膚がむけるほどだった。その手で顔に触ると 赤い発疹が出た。これについて作業場ではデバイス(製品)の毒が上ってきたと 話したりした。

「どんな保護装備がありましたか?」

「綿の手袋をくれました。でも皆ちゃんとはめません。チップを触ると手袋が すぐ汚くなって、また手袋をはめているとチップが小さいので、締める時に時 間がかかります。」

「ゴーグルやマスクは?」

「ありませんでした。」

彼女たちに与えられた半導体チップは鉛がメッキされていた可能性が高かった。 パノルリムの情報提供者のソン・チャンホ氏の陳述によれば、彼は鉛メッキを していて悪性リンパ腫にかかった。彼は温陽工場で働き、鉛メッキの過程は工 程の序盤にあったという。鉛は発ガン物質の一つだ。また硫酸、フッ酸、IPA、 トリクロロエチレン、トルエンなどの化学薬品も半導体チップについている場 所だった(ここに書かれた化学薬品は、1997年にサムスン半導体のエンジニアに 支給された環境手帳と、最近ソウル大が発表した『サムスン半導体事業場危険 性評価諮問報告書』に基づく。環境手帳には前述の有機溶剤が『毒性』と表示 されている)。

イ・ユンジョン氏に安全教育を受けたかと尋ねた。

「1か月に一度、安全教育がありました。」

「どんな内容でしたか?」

「今度もうひとつ機械が入ってくる。新製品が市場に発表された。どこそこの 生産量が上がらない、そんなことです。」

「それが安全教育だったのですか?」

聞き直すしかなかった。今回は保護装備について聞いた。

「防塵服は着ました。静電気のために着るのですが、デバイス(製品)に静電気 は最悪ですから」。製品のために白い防塵服で労働者のからだをグルグル巻き にしても、工場に蔓延する化学薬品と放射線を防ぐ装備は提供されなかった。 マスクさえなかった。綿手袋一つが与えられたが使用は義務ではなかった。

成果給とバーターした健康

ここでイ・ユンジョン氏は6年働いた。

「やめたいとは思いませんでしたか?」

「思いました。後になると、仕事がとてもつらくてノイローゼになりそうで、 そう思いました。しかし仕事は多くても、たくさんお金もくれるので続けてい した。」

『サムスン』は高いボーナスで有名だ。1000%もの年末のボーナスが出ることも ある。基本給は多くはなかった。サムスン半導体で働いて白血病にかかった故 ファン・ユミ氏の通帳を見ると、1年目の基本給は100万ウォンにもならない。 しかし低い基本給を埋める成果給があり、彼女たちは成果を上げようと、さら にたくさん働かなければならなかった。

ユンジョン氏はサムスンで稼いだ金で実家の暮らしを補い、結婚資金も貯めた。 今の夫と会い、結婚して会社を止めた。彼女が嫁入り道具に持ってきた家具と 食器は、家のあちこちに残っている。しかし彼女の結婚生活は終わろうとして いる。サムスンで働いた歳月は、わずかな金を担保に彼女の未来を奪い取った。 そして彼女の家族にも手を伸ばした。夫チョン・ヒス氏には、妻に打ち明けら れない心配がある。

「労災と明らかになっても、問題は子供への影響ですよ。もしサムスンに通っ ていた時、だから妊娠する前に妻が病気にかかったのなら……。子供たちまで そうなったら……。私は本当に出かけて行って誰か一人殺すかもしれません。 妻がそうなって、子供に影響したら……。深刻ですよ。」

彼女が実現した全てが崩れるかもしれない。金を稼ぐためにサムスン半導体に 入り、何も疑わず我慢して働いたことで、である。

1年をどう過ごすか

イ・ユンジョン氏は淡々として見えた。しかしぽつんと投げる言葉に焦りが感 じられる。

「顔がはやく戻ればいい。少し元に戻れば自由に外に出かけて、楽に動けるの ですが。」

脳の痛みを減らすという薬品の治療を受けているが、顔とからだがはれ上がっ た彼女は、それでもからだが許す限り外に出かけようとする。何かを経験する 時間が多くないことを彼女も知っている。

「医師が1年だと言うので『1年をどう過ごすか』と考えます。ただ頑張って 生きるんです。」

彼女がある日、ユ・ミョンファ氏のことを話しはじめた。

「どうして9年も家にいられたのでしょう。私はあれこれ考えて、じっとしてい られません。」

重症再生不良性貧血にかかったユ・ミョンファ氏は、9年間、ほとんど外出がで きない。

そんなミョンファ氏がこの前、済州島に行ってきた。回りの人はずいぶん心配 した。彼女は少し無理をしただけでも血管が裂けて赤い斑点が浮かぶ。彼女に とって『無理』とは、薄い座布団を敷いて部屋の床に座ること、軽く歩くこと などだ。大学の学費まで自分で稼ぐ程しっかりしたミョンファ氏だったが、今 は近くのスーパーにも一人では行けない境遇になった。そんな彼女が済州島に 行くと言う。

「高校も卒業できずサムスンに入って働いたせいで、修学旅行に一度も行けま せんでした。それでこんな体になって、旅行は夢にも見られなかったんです。」

修学旅行に一度も行ったことがないという言葉が彼女のお父さんを動かした。 彼女は輸血を受け、車椅子を準備して済州島に発った。長い間待ち望んだ初め ての旅行だった。

ユ・ミョンファ氏は今2週間に一回輸血を受ける。輸血の頻度がますます増えて いる。長い間、輸血を続けたため体内に鉄分のカスが蓄積し、骨髄移植をしな ければ、今までの生活さえ危険だ。彼女と合致する骨髄はまだ現れない。

彼女の罪もまた、若いというよりも幼い年齢で働いたということだけだ。

▲ユ・ミョンファ氏のお父さん[出処:パノルリム(http://cafe.daum.net/samsunglabor)]

[パノルリム]半導体労働者の健康と人権守備
(http://cafe.daum.net/samsunglabor)
サムスン半導体などの電子産業に従事し、予期せぬ疾病にかかった人々の情報提供を受けつけています。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2010-10-27 07:28:54 / Last modified on 2010-10-27 07:29:00 Copyright: Default

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