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なぜ社会的対話が可能か?

[連続寄稿]傾いた運動場と社会的対話(1)

キム・ヘジン(全国不安定労働撤廃連帯常任執行委員) 2019.01.11 13:13

スウェーデン駐在のイ・ジョンギュ韓国大使が11月初め、 スウェーデン労総と面談をして 「韓国の労組の態度を変えるためにはスウェーデン労総の助けが必要だ。 韓国の労組は対話を拒否して毎日道路で闘争を叫び、ストライキをする。 サルトショーバーデン協約締結の経験に基づいて韓国でも労使政大妥協が成功するようにしてほしい」と要請したという。 この発言は現在、韓国の経済社会労働委員会に対する政府の認識をそのまま反映している。 政府は韓国の労働者が闘争してストライキすることを正当な権利行使と思っていない。 労働者が闘争する理由にいても理解しようとしない。 政府の認識がこれなので、当初から労使政の構図は傾いた運動場になるほかはない。

こうした認識は経済社会労働委員会(以下経社労委)のムン・ソンヒョン委員長の言葉からも確認される。 ムン・ソンヒョン経社労委委員長は11月9日の中央日報とのインタビューで 「韓国労総は相手を認めて合意して妥協できる社会的対話のDNAを持っている。 韓国労総のキム・ジュヨン委員長は御用という批判さえ『難しい時に勇気を出すこと』だと言って正面から対立するほど責任持って出てきている」と称賛した。 「御用」を「勇気」と語り、それを認めるこの態度にも驚くが、 韓国労総自らが告白したように、ムン・ソンヒョン経社労委委員長は政府与党の立場に従うことを「社会的対話」と認識しているという点を見せたわけだ。

1. 労働者は同等に話せるのか

社会的対話は権利が同等な時に意味がある。 しかし労働者と企業は権利が同等ではない。 スウェーデン労総の副委員長は韓国大使に 「私たちと対話をするだけではない。 1938年にサルトショーバーデン協約が妥結するまで、40年ほど持続的にストライキをして闘争したし、 結局使用者が対話テーブルについて対話の中断と再開を繰り返し、結局合意に至った」と話した。 社会的対話を拒否する使用者を労働者の闘争で対話の席に座らせたということだ。 ところが韓国の企業はなぜ経社労委に積極的に参加するのだろうか? 企業に社会的対話のDNAがあるからでもなく、 労働者たちの闘争によって無理に座らせられたわけでもなく、 企業に利益になると確信しているためだ。 今は企業と政府が一つになって労働者たちを無理に対話の席に引っ張って座らせようとしている状態だ。

なぜ韓国の社会的対話の場が傾いた運動場なのか、 スウェーデン労総の副委員長ははっきりと話す。 「労組する権利が全て保障されていない状況で、 ストライキして闘争するのはあまりにも当然だ」と。 「現場での結社の自由と労組する権利が保障され、 同等な条件で対話が可能な労使関係が構築されることが必要だ」と。 全教組はまだ朴槿恵(パク・クネ)政権から 「労組ではない」という通報を受けた状態そのままだ。 公職社会の不正清算のために戦った公務員たちは、まだ解雇者の身分だ。 特殊雇用労働者は労働組合を選別的に許可され、 故キム・ヨンギュンさんを死に至らせた元請使用者西部発電は責任を認めない。 政府もその責任を要求しない。 ユソン企業の労働者たちは、労組を守るために用役ならず者の暴力に耐えなければならない。 ファインテックの労働者は会社に単に「約束を守れ」と言うために400日を越える煙突座り込みをした。

労使関係がこのように歪んでいるのは政府の認識が相変らず企業の利益中心的で、 報道機関と司法府も企業の立場から問題を見ているからだ。 11月22日にユソン企業の役員が労組員から暴行されたというニュースが流れた後、 労働組合に対してマスコミ各社は「組織暴力労組」と言って非難した。 ユソン企業の労働者が8年間、いかに深刻に使用者側の暴力に苦しんだかについては話さなかった。 使用者の不当労働行為には寛大な裁判所が、 労働者の闘争には苛酷に法を執行し、 大きな金額の損賠仮差押えを行っているのはすでに韓国社会では日常になっている。 不法派遣を犯した使用者は処罰されず、 法の通りにしろと座り込んだ労働者は連行されて拘束される。 こうした現実で対等な対話は可能なのか。

2. 経社労委はどのように傾いているのか

経社労委は韓国社会の労働者たちの地位を反映する。 それは経社労委の構成でも現れる。 現在、経社労委には労使代表を各5人で構成するが、 労働者委員は韓国労総と民主労総、そして青年、女性、非正規職で構成することになっている。 そして政府長官級代表2人と公益委員4人、経社労委委員長と常任委員まで合計18人で構成されている。 韓国労総と青年と女性を代表する人々は、 その組織の推薦で入ってくるが、民主労総は参加せず、 非正規職労組は「非正規職代表」が経社労委に入った過程と内容がわからないので代表と認められないという声明を発表した。 公益委員は事実上政府が任命する。 労使が対話して政府が仲裁するが、実質は政府が決める構造だ。

経社労委で扱う議題も同じだ。 経社労委が発足した後、最初の案件は、弾力的勤労時間制を扱う労働時間制度改善委員会だった。 労働時間を短縮するといっておきながら、事実上週52時間上限制を確定しただけの政府が、 労働時間短縮に備えるとして企業に対する処罰を延期し、 弾力的勤労時間制を受け入れろと圧力をかけたので、 これが最初の案件として上程されたのだ。 これは企業が政府に請願し、労働者が反対した議題だ。 弾力的勤労時間制を議論する労働時間制度改善委員会の公益委員を委嘱する過程で、 韓国労総が推薦した委員に対して他の委員が 「社会的対話をするのを止めようということか」と詰問して反対し、 「国民年金改革と老後所得保障特別委員会」でも 韓国労総が会議の運営方式を問題にして退場したのは、 結局は政府の政策を経社労委で貫徹する構造に過ぎないということを示す。

他の議題も同じだ。 経社労委の「労使関係制度・慣行改善委員会」の核心は、 国際労働機構(以下ILO)基本協約に関する事案だ。 政府はこれらの懸案は論争がある事案なので、 社会的対話によりまず国内法を整備してからILO基本協約を批准するという立場だ。 しかしILO基本協約は解雇者と失業者の労組加入、 公務員の労組加入範囲、特殊雇用労働者の労働組合認定など、 すでに当然に保障すべき憲法上の権利だ。 韓国が韓-EU自由貿易協定でILOの基本協約批准の努力義務を約束しておきながら、 これを充分に履行せず、 ヨーロッパ連合が政府間協議を公式に要請している内容だ。 一日もはやく政府が決断して批准してほしい。

しかしこれについて時間を引き延ばし、 社会的対話というテーブルにあげた理由は 「当然保障されるべき権利」を少しずつ渡して、 労働者の他の権利を奪ったり、 あるいは企業の要求を議論のテーブルに上げるためであった。 現在は労使関係制度と慣行を改善するといいながら、 団体協約有効期間を延長して事業場占拠ストライキを禁じ、 ストライキに代替労働を投入できるようにすべきだという内容を含んでいる。 憲法が保障する権利を制限的に認めて労働権を侵害する企業の要求を受け入れろということだ。 これが経社労委の基本的な議論方式だ。 これが果たして同等なやりとりなのか。

3. 政府の意志を貫徹させる機構としての経社労委

こうした構造では必然的に政府の意志が議題や合意過程に重く反映されるしかない。 そして文在寅(ムン・ジェイン)政府は議題を先行獲得して経社労委を圧迫し、 彼らの意図を貫徹させる方式を選んでいる。 わざわざ労働界を参加させようとするのも民主労総の声を聞くためではなく、 反対闘争ができないようにするためにではないかと思われる。

12月17日午前、青瓦台で開かれた拡大経済長官会の冒頭発言で文在寅大統領は 「最低賃金引き上げ、労働時間短縮といった新しい経済政策は、 経済社会の受容性と利害関係者の立場を調和するように考慮して、 国民の共感の中で進めることが何よりも重要だ」と明らかにし 「必要なら補完措置も共に講じる」と要請した。 それと共に「経済社会発展労使政委員会を中心にとして 社会的対話と妥協を積極的に企図することを希望する」と付け加えた。 この言葉は最低賃金決定構造を改編し、 最低賃金の引き上げ速度を遅らせろという意味だ。 最低賃金算入範囲を改悪し、最低賃金引き上げ速度を遅らせたと思ったら、 今度は最低賃金をさらに改悪するということだ。

青瓦台で開いた拡大経済長官会の直後に政府は「2019年経済政策方向」を発表した。 そこには最低賃金法改正案を用意して、国会での議論を経て2月中に法改正案を作り、 最低賃金法を改正して、2020年の最低賃金は市場受容性と支払能力、 そして経済に与える影響を考慮して合理的水準で決めるという内容が含まれている。 社会的対話が政府が望むままに行われると、 政府が一方的に最低賃金を後退させる改悪の手順を追うから、 経社労委は適当に判断してその内容を「社会的対話で包んでくれ」という話に聞こえる。

これだけではない。 経社労委は前述のように弾力的勤労時間制に対して議論する労働時間制度改善委員会を構成した。 公益委員の問題で議論があったが委員会は構成されている。 しかし政府は2019年経済政策方向を発表して「週52時間制補完のための制度改善方案」を発表した。 1週間52時間労働上限制違反の摘発規定を弾力的勤労時間制立法が完了するまで延期するという計画が含まれている。 これは、たとえ弾力的勤労時間制が通過しなくても使用者を処罰しないことにより長時間労働をさせるようにして、 このような政策を通して労働者が弾力的勤労時間制に合意するように圧迫するという意思を含んでいる。 換言すれば、すでに政府は方向を決めておいて、 社会的対話はこうした方向でやれとガイドを決めたわけだ。 経社労委が結局、政府の意志を貫徹させる機構だという点をあまりにもよく見せている。

4. 社会的対話で苦痛は非正規職に転嫁される

問題は、政府の政策方向が全く非正規職労働者や低賃金労働者に向かっていないという点だ。 「包容国家」という概念の中では所得主導成長論は意味がなくなった。 文在寅政府は労働者に対して経社労委に入れと圧迫し、この案で合意しろと要求する。 合意すべき内容は、当面は弾力的勤労時間制と最低賃金改悪で、 労働組合の活動を遮る団体協約有効期間延長と占拠ストライキ禁止、 そして代替労働投入だ。 これに合意すれば誰が最も苦痛を受けるのか。 労働組合がない労働者、非正規職労働者、低賃金労働者だ。 1998年に労使政委員会が整理解雇と勤労者派遣制を通過させた後、 その被害にあった労働者は主に労働組合がない労働者であり、 それらの労働者が今、非正規職で苦しんでいるように。

政府はしばしば「非正規職」を語る。 だが「非正規職」は民主労総を圧迫する時だけに語られる。 民主労総が非正規職労働者の全体を代表することはできないといいながら、 非正規職当事者を入れるべきだと主張した政府が、 まさに非正規職労働者の声には耳を傾けない。 だから故キム・ヨンギュンさんをはじめとする非正規職は 「大統領様、会いましょう」と訴えたが、 故キム・ヨンギュンさんの死の後も、果たしてその声を聞くのかわからない。 中小企業の社長も会って、財界の人物とも会うが、非正規職労働者とは会わない。 経社労委で非正規職労働者の権利が論じられるという期待は果たして妥当なのか。 たとえ薬味のようにいくつかの保護措置が議論され、貫徹されても、 今、議論されている議題そのものが非正規職労働者に致命的なのに、 どんな意味があるだろうか。

非正規職に労使関係はない。 憲法にも保障されていて労組法もあるのに、今、非正規職労働者は労働組合を通じた交渉と合意が不可能だ。 正規職転換交渉をするにも団体交渉ではなく、労使専門家協議体を作って労働者を少数化し、 企業の立場を一方的に貫徹させ、 元請は使用者責任を負わないか、特殊雇用は労組も認められず、 労働組合が交渉する権利もきちんと保障されずにいる。 だから労働者たちは全てを法によって解決するほかはなく、 そのため多くの不法派遣訴訟と団体交渉応諾仮処分と不当解雇訴訟が乱舞する。 基本的な労組する権利もなく、労働者としての権利を認められないのに、 どんな社会的対話を語れるのか?

労働者が現場から労組する権利を保障され、労使関係が形成され、 交渉して闘争できる権利があってこそ、 その土台の上でさらに大きな社会的議題に関する議論も始めることができる。 そしてそのような社会的議論がどのように形成されるべきなのかは政府が決めるのではなく、 労働者闘争の歴史的な経験に基づいて新しく構成されなければならないのだ。 現場では労組する権利が遮られ、社会的には制度が改悪され、 それを防ぐためにずっと路上で戦わなければならない現実で、 いったい何の社会的対話が可能だということなのか。

  • この文は撤廃連帯機関紙『チララビ』 (2019.01.通巻185号)に掲載された文です。

経社労委発足の過程を見守りながら、 労働問題をめぐる社会主体の対話と妥協、それを通して権利が保障され、 労働政策の方向をまとめて行く程、 韓国社会の労働権が十分に熟したているのかについて悩みます。 また組織率が低い韓国労働運動の状況で、 未組織・非正規職労働者はどのようにすれば主体として姿を表わせるのか、 社会的対話機構で労働者の権利が収斂されたり代弁されるのかについても憂慮します。 海外の制度を援用するにせよ、 主要な一軸である労働が立っている地盤は相変らず脆弱そのものです。 社会的対話と闘争の間で労働の声はどのように発現するべきか、 共に話す場を持とうと思います。

1)社会的対話を歴史と事例で振り返る (海外事例の示唆する点/韓国の社会的対話機構検討など)、 2)社会的対話の責任主体として譲歩と責任を労働に強要する状況だが 労働権保障の実態はそれにふさわしく保障されているのか、 3)そして非正規職を代弁する専門家も経社労委の一軸を占めているのに 非正規職問題を社会的対話で扱うことの含意、争点、批判点は何かなどを問題提起し、 討論で深く扱おうと思います。

  • 討論会に先立ち「韓国社会労働権保障実態に対する労働者/市民認識調査」も行われます。 認識調査リンク

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2019-01-17 04:46:54 / Last modified on 2019-01-17 04:46:55 Copyright: Default

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