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福祉の量的拡大は必然的、階級性はどこを示すのか

[チャムセサン企画]文在寅100日を語る(6)医療・福祉

カン・ドンジン(フォーラム『社会福祉と労働』) 2017.08.27 19:39

自ら認めるように、文在寅(ムン・ジェイン)政府は朴槿恵(パク・クネ)退陣を熱望した「キャンドル」の力で発足した。 では「キャンドル」は何を望んでいたのだろうか? それを「国らしい国」と表現したりもする。 「国らしい国」の具体的な姿はどのようなものなのだろうか? 文在寅(ムン・ジェイン)政府はそれを「医療費の心配ない強固な国」、 「児童が幸せな大韓民国」、 「すべての国民の基本生活が保障され、誰もが共に成長する包容国家」と明言した。 では文在寅(ムン・ジェイン)政府5年が過ぎれば、すべての国民が医療費を心配せず、 子供たちが幸せになり、基本生活が保障されない国民がいない、 老後の生活が保障される「国らしい国」の姿を備えられるのだろうか? 5年ではなく、さらに時間が経っても過ぎても文在寅政府の政策基調と国政課題が完遂されて定着すれば、 すべての国民は「国らしい国」で暮らせるという「夢」が「現実」になるのだろうか?

[出処:資料写真]

低成長不安定労働体制と呼ばれる現時代は、必然的に貧困と不平等が持続的に拡大する。 女性と老人を中心として雇用される労働者が増えているが、青年層の雇用の機会は減り続け、失業者もまた増えている。 低賃金労働者の拡散で「働いても貧しい労働者」も増える。 失業、貧困の拡大は、これと連動する社会福祉の需要も増加させる。 あえて報道機関や支配勢力が騒ぐ「低出産高齢化」の傾向と連動させなくても、 韓国社会の福祉への要求は高まるほかはない。 毎年の政府支出のうち、社会福祉予算に「史上最高」という修飾語がつく理由でもある。 したがって「福祉拡大」は保守・進歩を離れ、すべての勢力が打ち出すほかはない現実でもある。 最近、文在寅政府は健康保険の保障性強化、児童手当ての導入と基礎年金、障害者年金の値上げ、 基礎生活保障総合計画などを相次いで出した。 この中で、児童手当ての導入と基礎年金値上げは、 自由韓国党、正しい政党、国民の党を含む5党の大統領選候補の共通公約だった。 「重負担・重福祉」を基調としていた正しい政党の劉承ミン(ユ・スンミン)大統領選候補の健康保険保障性強化の公約は、 文在寅政府の70%の保障率より高い80%の保障だった。 事実、野党が文在寅政府の福祉政策に対して「無責任な福祉ポピュリズム」と批判の切っ先をむけている姿は二律背反的に「批判のための批判」でしかない。

では文在寅政府が出した福祉政策をどう見るべきか? 無償給食論争のように「普遍的福祉 vs 選別的福祉」の構図で評価すべきだろうか? 実はこのような論争の構図は適切ではない。 「政治工学的」次元で形成されたという側面だけでなく、単に福祉恩恵の「対象」という側面から見ても、 そして「必要な彼らに必要な所得とサービスを提供」するという福祉の原則から見ても、 「普遍」と「選別」は相対的でもあり、不平等を緩和するためにも両者は適切に組み合わせなければならないことだからだ。 福祉における「普遍性」は「誰にでも同じ」であることを意味するのではなく、 「必要な人々にとって何の障壁もない」ことを意味する。

「必要な人々に必要な所得保障とサービスを提供する」という福祉の原則に立脚して、 いくつかの質問を中心に文在寅政府の福祉政策基調が 適切な答を提供できるのかどうかを評価してみよう。

「増税なき福祉」は可能か?

「増税ない福祉」は社会福祉を拡大するために必要な財源をどう作るのかという問題だ。 社会福祉を拡大するには金が必要だ。 これまで、韓国社会の支配勢力が伝家の宝刀として振り回したのは、「先成長・後福祉」だった。 つまり「福祉をするには経済が成長しなければならない」、 「福祉を拡大したくても金がない」というものだった。 しかし果たして韓国社会に金がないのだろうか? 韓国政府の2017年予算は400兆7000億ウォンにのぼる。 このうち、雇用・福祉・労働予算は130兆ウォンで、全予算の32.4%を占める。 ちょっと考えるとずいぶん多く思える。 だが韓国の公共社会福祉支出の割合は、2016年基準でGDPの10.4%で、 OECD国家平均である21.6%と較べると半分程度に過ぎない。 国民所得2万ドル進入当時と較べても同じだ。 韓国が2万ドルに進入した時期は2007年だが、当時の社会福祉への支出の割合はGDPの7.5%だった。 新自由主義経済システムの「低負担-低福祉国家」として、韓国と似ている米国も1人当り国民所得2万ドルの時に社会福祉の支出割合は13.1%で、 フランスの27.7%、ドイツの23.8%と較べて韓国が社会福祉の支出は大差で少ないことが分かる。 すなわち韓国は金がないのではなく、ある金も社会福祉には使っていないということだ。 では福祉財政関連の「福祉財源を新しく用意する」方案以前に、 「今の予算で社会福祉支出の比重を上げる」方案を提示することも重要だということが分かる。

文在寅政府が発表した100大国政課題の遂行に必要な財政は、5年間で178兆ウォンだ。 そして、ここで医療・福祉に関係がある国政目標の「私の人生に責任を持つ国家」に必要な予算は5年間で77兆4千億ウォンと提示している。 就任以後、今までに発表された福祉政策によれば、健康保険の保障性強化に30兆6千億、 基礎年金引き上げ、障害者年金引き上げに23兆1千億、 児童手当て導入に9兆6千億(地方費を入れると13兆4千億)、 基礎生活保障制度の扶養義務者基準の緩和に4兆8千億ウォンが必要になる。 こうした財政を負担するために、文在寅政府が国政改革課題として提示した財源調達方案は 「税収の自然増加分、非課税減免・整備、脱漏税金強化、税外収入拡充」などによる税外収入の拡充、支出構造調整、余裕資金活用などの歳出削減により作ると明らかにし、 所得税・法人税などの値上げは「財源調達の必要性、実効税負担などを総合的に考慮して推進」するという。 さらに具体的に、健康保険の保障性を強化するための財源調達方案を見ると、 これに必要な30兆6千億ウォンを既存の健康保険累積積立金の活用(2016年基準で20兆ウォン)と通常の水準の保険料引き上げ(3%水準)により可能だと明らかにしている。 所得税、法人税値上げなどによる積極的な「増税」の計画は念頭に置いていないことがわかる。 こうした「『増税』を伴わない福祉」により、具体的な政策課題は大統領選挙の公約から後退しており、 朴槿恵政府の福祉支出基調と似た戦略と基調も滲んでいることを発見できる。 具体的に見ると、「文在寅ケア」と呼ばれる健康保険保障性強化対策は、 「すべての非給付を給付化」する方向性を提示するが、 目標保障率は朴槿恵政府が提示した80%にも満たない70%を提示してする。 「本人負担上限100万ウォン」の公約も非給付項目を除くか、現在の所得区間別に適用される本人負担の上限制度を一部改善する水準に止めるところまで後退してしまった。 政府の資料によれば、2022年までの6年ほどで新しく投入される予算は6兆5千億ウォン規模だ。 朴槿恵政府が2014年に発表した中期保障性強化計画は、 2014年から2018年までの5年間に7兆4〜5千億ウォンの財政支出が必要になると発表されていた。 新規だけを見るとれば文在寅ケアよりも大きな財政支出だ。

一方、「第一次基礎生活保障制度総合計画」では扶養義務者基準の「段階別廃止」を明らかにしているが、 実際の内容は、施行時期を従来の2018年から2019年に遅らせた住宅給付での扶養義務者基準廃止だけで扶養義務者基準の適用を「緩和」する水準だ。 国会予算政策処によれば、扶養義務者基準を廃止すると2018年から2022年まで必要になる予算は10兆1500億ウォン程度だ。 文在寅政府が明らかにした「第一次基礎生活保障総合計画」に必要な予算は4兆8千億ウォンだ。 なぜ扶養義務者基準の「廃止」ではなく「緩和」のような内容を基調として明らかにしているのかがわかる部分だ。

文在寅候補の大統領選挙公約集の「国らしい国」では、 財源確保の基調として「増税」ではなく「実効税率の現実化」、 「重複予算の統廃合」等を提示している。 そして「財政の健全性の確保」という財政運用の基調を明言し、老人人口の増加などによる福祉予算の自然増加分を除き、 追加の福祉支出についての予算確保は不確かであることが分かる。 つまり「福祉支出拡大」より、現在の福祉支出基調を維持するという立場というわけだ。 当分、韓国社会の社会福祉の支出割合でも、社会福祉の基調は今までの様相から抜け出さないものと予想される。 これは朴槿恵政府の「増税なき福祉」の基調と違わないことを語る。

所得保障の死角地帯を解決できるか?

韓国の社会福祉制度は形式上は、社会保険、社会サービス、公共扶助などの社会福祉制度の各部分で制度的な形式は備わっているが、 対象を包括できない死角地帯が非常に広い。 こうした制度の問題点は、制度の利用に障壁が存在するということだけでなく、 障壁を越えても保障水準が思わしくないということに起因する。 不安定労働が蔓延する労働市場という構造的限界は、こうした状況をさらに悪化させる。 このような理由ですべての人々に何の条件もなく一定額を支払う「基本所得」が最近になって関心を引いている。 しかし実質的には「青年手当て」など、一部の階層に限定された政策方案に縮小されて議論が進んでいたりもする。

所得保障の死角地帯の問題で最も代表的なのが、基礎生活保障死角地帯の核心原因とされる「扶養義務者基準」だ。 大統領選挙の時に洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補を除き、 文在寅(ムン・ジェイン)、安哲秀(アン・チョルス)、劉承ミン(ユ・スンミン)、沈(シム)サンジョン候補はすべて扶養義務者基準廃止を公約に掲げていた。 そして労働市場に進入できなかったり、自発的に仕事をやめた場合、 労働市場から脱落して長い労働者の場合、 所得を保障する失業扶助制度や病気で所得を失った場合、 所得を保障する「傷病手当ての導入」は唯一サンジョン候補だけが公約に掲げた。 文在寅政府は、 国政課題として青年を対象とする「求職促進手当」を韓国型失業扶助制度に発展させると明らかにしている。 そして2018年7月から0〜5歳児童を対象とする月10万ウォンの児童手当てを支払うという計画を発表したが、 大統領選挙公約にあった「段階的引き上げ」の項目は発表からは脱落した。

基礎生活保障制度での扶養義務者基準廃止、児童手当て、失業不調、傷病手当てなどの導入は、 韓国社会の所得保障制度の死角地帯を解決する核心的な政策手段だ。 しかし大統領選挙の公約よりも、扶養義務者基準は「給与別、対象者別段階的廃止」から「住宅給付だけ廃止」に (保健福祉部長官が障害等級制・扶養義務制廃止光化門座込場を訪問して廃止の道に行くと明言していた)、 失業扶助は青年だけを対象とし、 児童手当ては5歳以上は除外されており、 傷病手当ては議論さえない状況だ。 また基礎生活受給者老人の約40万人は基礎年金25万ウォン(来年上半期)、 30万ウォン(2021年)への引き上げの恩恵を享受することもできない。 貧しくても基礎生活受給の恩恵を享受できない非受給貧困層の規模は、 2015年には93万人と推計されているが、 文在寅政府下での1次基礎生活保障総合計画によれば、 生計給付の場合は3万5千名、医療給付の場合は7万人程度しか減少しないものと予測される。 文在寅政府でも所得保障の死角地帯は解消されずに相変らず維持される展望だ。

「社会サービスの市場化」を越えられるか?

文在寅政府は国政改革課題として 「児童・老人・障害者対象生涯周期別社会サービス拡大および公共インフラ拡充による良質の雇用創出」を宣言し、 そのために22年までにサービス雇用34万創出、社会サービス公団を設立して 「国公立保育園、国公立療養施設、公共病院などの公共保険福祉インフラ拡充による雇用創出」、 「社会サービス提供人員の報酬引き上げ、勤労時間短縮などの処遇改善による社会サービスの安定的提供および品質向上」等を試みると明らかにしている。 盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府以後、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政府を経て 「保育・療養」等のケア社会サービスに関して、 韓国社会は民間中心、市場中心の供給体系が中心で、 政府政策はこれを活性化する基調であった。 社会サービス分野における政府の役割と責任は殆どないといっても過言ではない。 たとえあったとしても社会サービスの利用に必要な費用の一部を支援したり、 民間中心の市場を活性化する方案がほとんどだ。 老人療養保険導入、養育手当ての導入なども、民間社会サービス市場活性化方案として活用されたといえる。 このように、韓国社会における社会サービスの提供は「民間市場」を中心になされてきたし、今後はこれを変えることが重要な課題だ。

文在寅政府は認知症療養の国家責任を明言するとともに 前述の社会サービス公団の設立による公共インフラ拡充を明言し、 社会サービス領域においてこれまでの政府が「市場化の道」を辿ってきたのとは違う 「公共的な道」を闡明しているように見える。 しかしまだこの道ははっきりとは見えない。 国公立保育園の割合を現在の22%から40%まで拡大すると明らかにしたが、 以前の政府が取ってきた「社会的経済活性化で社会サービス革新」を国政課題に採択したり、 核心政策である「社会サービス公団」に関しては、運営の責任と主体はまだ具体的に明らかにしていない。

「公共的な道」を明確にするのなら、国公立保育園のようにさらに具体的に社会サービスの公的供給の目標値を数値で提示し、 これを達成する経路を具体的に提示しなければならない。 そして公立幼稚園の設立に民間の幼稚園院長が反対し、 大学の公共寄宿舎建設に大学周辺のワンルーム賃貸業者が反対するように、 該当の利害勢力の反対に屈服することなく、これを克服する方案を提示すれば、 社会サービスの市場化を越える「公共化の道」はさらに明確になるだろう。

福祉の前に労働市場の不平等と不安定性を克服できるか?

福祉は分配において2次的な領域だ。 1次的な分配は、労働市場での賃金が担当する。 正規職と非正規職の賃金格差は一層広がり史上最大を記録しており、 非正規職の社会保険加入率は国民年金では30%にも至らない。 賃金水準と雇用形態は、労働者の社会福祉の水準と範囲にも直接的に影響する。 そして不安定労働の拡散と賃金水準の低下は労働者と企業が払う保険料を財源とする社会保険の財政の安定性にも否定的な影響を与える。 財政の不安定は社会保険の保障水準の低下を呼ぶ。

文在寅政府がこのような労働市場構造を画期的に変えられるだろうか? 「公共部門の非正規職正規職転換」を推進しているものの、 「無期契約職」という形での不完全な転換に留まっていることがあらわれており、 非正規職量産の法的・制度的根拠である期間制法・派遣制法などの廃止には言及もしていない。 「最低賃金1万ウォン」を任期内に実現するとは言うが、 最低賃金も受け取れない労働者は100万人を越えており、ますます増える現実を正す方案は見つからない。

終わりに

新自由主義政策による不平等の拡大、労働市場柔軟化による低賃金・非正規職労働者の拡大は、 貧困を拡大して福祉に対する需要を伸ばした。 したがって、政権の理念指向とは無関係に、福祉の量的な拡大は誰も逆らえない必然的な傾向だ。 ただし、誰を対象とし、どのような方式(市場方式か国家責任方式か)かの差があるだけで、 福祉拡大の優先順位をめぐる社会的な議論はさらに拡大して行くだろう。 今から「福祉の階級性」について注目しなければならず、 文在寅政府が追求する福祉政策の戦略と基調がいかなる階層を主な対象としているのかについて、 さらに調べる必要がある。

[連載順序]
労働 |キム・ヘジン(撤廃連帯)
朝鮮半島 |ペ・ソンイン(韓神大)
教育 |カン・ドンジン(フォーラム社会福祉と労働)
言論・メディア |クォン・スンテク(言論連帯)
文化 |パク・ソンヨン(文化連帯)
医療、福祉 |イ・ヒョン(全教組正しい教育研究所)
女性 |韓国性暴力相談所
政治 |イ・グァンイル(聖公会大)

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


Created byStaff. Created on 2017-08-28 23:27:58 / Last modified on 2017-08-28 23:27:59 Copyright: Default

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