正規職が悪くなれば非正規職が良くなるのか?

［連続寄稿］(4)企業に対する統制と労働者の連帯

キム・ヘジン(全国不安定労働撤廃連帯常任活動家) 2014.12.14 23:08

韓国で労働者として生きていくのはとても大変だ。労働者に対する社会的な偏見、労働組合の活動を不穏視する警察と司法府、労働者たちが権利を得ようとすれば「経済危機」を喚き出す言論に囲まれて、正規職も非正規職も何とか一日一日を生きていく。

簡単に整理解雇される労働者たち

コオロン整理解雇粉砕闘争委員会のチェ・イルベ委員長は、 12月13日でハンスト39日目になる。財界序列23位のコオロンは、金がないから78人を整理解雇したというが、裁判所はこの整理解雇を認めた。コオロンはタンウェイに巨額の広告料を支払う金はあっても、整理解雇者をまた呼び戻そうとはしない。双竜自動車の解雇労働者二人がまた工場の煙突に上がった日、また1人の整理解雇者が世を去った。わかっている人だけで26人だ。

韓国は整理解雇がとてもやさしい。 OECDの統計を見ても2013年の韓国の正規職解雇に対する雇用保護指数は34の会員国のうち22位だった。整理解雇での安全性は34か国中30位、それだけ簡単に整理解雇されるという事実を見せる。双竜自動車の場合、会計操作が明らかなのに大法院は会社の経営権だとして整理解雇を認めた。コルト-コルテックは「将来の経営上の危機」という抽象的な主張を受け入れて整理解雇を認めた。韓国雇用情報院が出した「離職理由別被保険者格喪失者推移」によれば、2013年に整理解雇や希望退職などで職場を失った人は何と87万人にもなる。

しかし問題はこうした構造調整の原因が経済悪化のためではないという点だ。 2010年から解雇される労働者の数が毎年増加し、経済成長率は少しずつ鈍化しているのに持続的に成長はしている。これから推察する時、企業はこれ以上維持できないから整理解雇など構造調整をするのではないということだ。結局コルト-コルテックのように工場を海外に移転するために整理解雇をしたり、高等法院で整理解雇無効判決を受けたプンサンのように土地商売をするため整理解雇をしたり、コオロンのように労働組合をなくすために整理解雇をしたりもする。整理解雇があまりにもやさしい構造調整の手段だからだ。こうした状況で正規職の雇用は決して安定的でない。

人格無視と高い労働強度、低賃金があたりまえの国

韓国では正規職も職場では尊重されない。大韓航空のチョ・ヒョナ副社長が飛行機を引き返させた事件でわかるように、安全業務を担当して客室全般の責任についての権限を持つ事務長でも、会社の役員に悪く思われれば暴行される社会だ。起亜自動車はベルトコンベアから物が落ちる事故でラインを止めた労働者を懲戒するという。危険な時にラインを止めるのは当然なのに、死んでもそのまま働けと脅迫しているのだ。労組の力が一番強いと言われる起亜自動車でも、労働者たちはこうして基本的な権利もない。これが韓国で一番恵まれているという正規職労働者たちの姿だ。

正規職労働者の賃金は上がり続けているのだろうか? 労働者の実質賃金成長率はこの6年間0％台だった。経済成長率は3％台だが実質賃金成長率が0％台だということは、実際には賃金が上がらなかったということだ。韓国銀行と雇用労働部の統計によれば、今年の1月から9月の累積上昇率は0.7%だが、第3分期は常用職労働者たちは-0.2%であり、臨時職は-2.8%であった。正規職も非正規職も関係なく、すべて賃金が事実上減少するか上がっていないということだ。

本当に正規職労働者の賃金は高いのだろうか? 雇用労働部統計によれば、正規職労働者の平均賃金は312万1213ウォンだ。しかしほとんどの正規職がこの程度受け取っているという意味ではない。最近発表された東国大のキム・ナンニョン教授の「韓国の個人所得分布:所得税資料による接近」の論文によれば、年所得4000万ウォン以下の労働者は86%だ。ほとんどの労働者は333万ウォンが賃金の最大値だということだ。それ以上を受け取る15%の最上位層、つまり医師や弁護士、一部金融界の労働者など、最上層が平均賃金を押し上げているだけで、大多数の一般労働者たちは低賃金に苦しんでいる。それなのにいったい誰が正規職労働者は高賃金だと言うのか。

それでも「正規職過保護」が問題だという政府

政府は「正規職過保護」が問題だと話す。 11月25日、崔炅煥(チェ・ギョンファン)経済副総理は出入記者団の政策セミナーで「正規職過保護で企業が怖くなって人員を採用できない」とし、正規職のために非正規職が増えていると発言した。金武星(キム・ムソン)セヌリ党代表も11月27日「企業投資拡大のために雇用市場の柔軟化などの労働市場改革が必要だ」と話した。これに加えて12月1日の首席秘書官会議で大統領は「非正規職と正規職間の賃金格差、労働市場の硬直性、一部大企業労組の利己主義などは、労使、労労間の対立を引き起こし、社会統合を妨害する代表的障害」と主張して正規職労働者を叱った。

すぐこれに続いて「正規職の過保護」を解消する対策があふれ出した。整理解雇要件を緩和する政策を導入するという。これに加え、給与体系を廃止して成果と職能職務給に転換しようと言う。そして入社初期には給与体系、中間には成果連動職務給制度、長期勤続時賃金ピーク制とする複合賃金体系を作れという政策も出す。李基権(イ・ギコン)雇用労働部長官は「業務成果が低い労働者は、職業訓練や転換配置が可能にする就業規則などの社内ルールを作るべきだ」として労働柔軟性を強調した。

これらの対策は、非正規職のためではなく、企業の利益を忠実に代弁するものだ。朴槿恵政府は「規制はガンの塊り」という激しい表現で企業の利益を遮るすべての規制を撤廃するといった。そして規制改革委員会に絶対的な権限を与えた。そして企業を代表する大韓商工会議所の「規制改革推進団」には、規制緩和を担当する公務員が直接入り、共同で議論をしている。 10月にその内容に基づいて大韓商工会議所は「経済の足を引っ張る5大規制改革課題」という名前で政府に建議文を提出した。この内容には「聖域規制」という名前で「派遣業種の制限とストライキ時の事業場占拠許容問題、代替労働禁止」を撤廃すべきだという要求が含まれている。また「大企業への過度な保護制度の手入れ」を要求する内容が含まれている。政府はこうした企業の要求に歩調をあわせ、対策を出しているのだ。

正規職の権利を奪えば非正規職の権利が増えるのか?

今でも韓国では整理解雇がとても簡単だが、整理解雇の要件を緩和すれば少しでも収益が悪化した瞬間、企業は他の代案を考えるより整理解雇を代案で打ち出すだけだろう。そして、こうした整理解雇は容易な労組弾圧の手段として使われるだろう。整理解雇で労働市場から追い出された労働者たちは、また非正規職として働くほかはないので非正規職が量産される。派遣法と期間制の改悪が非正規職を増やす方案であるように、整理解雇の要件緩和も非正規職を保護するのではなく、非正規職を増やす改悪である。

「正規職の過保護」を理由に政府が強調しているのは、正規職の賃金体系改編だ。政府は勤続年数が短い入社初期には給与体系にして、年を取れば賃金ピーク制にしようという。青年と高齢者の賃金を下げようと本当に騒がしく話す。そして中間時期には「成果連動職務・職能給制」に転換しようという。これは個人別の成果により賃金に差を付けるということだが、成果の判断は会社の固有権限なので個人は自分の成果を客観的に測定する権利がない。そして職務給制度を通じ、任意に労働者の仕事を区分けし、階層化し、労働者を差別する構造を作ろうとしている。結局、この賃金体系は「賃金は会社が判断して払うから、払っただけ受け取れ」ということだ。賃金は個別化され、差別が正当化され、会社が払うだけ受けるようになれば、賃金がさらに下がるのは明らかだ。

そうして下がった賃金は非正規職には回らない。企業はいくら金があっても、自発的に非正規職の権利を保障しないからだ。 2008年に李明博(イ・ミョンバク)政権が法人税率を3％も下げた時、企業は投資を活性化せず、その金を企業留保金に積んだ。大企業は158兆ウォンの現金性資産を持っているが、全く投資をしない。世界経済の不安定が続き、韓国の企業は短期利益だけを狙う経営に転換した。結局、企業所得分配率は上がり、労働所得分配率は減り続ける。企業はすべての利益を一人占めして、さらに貪欲を働かせている。正規職の賃金も削り、派遣許容業種も拡大しろと要求する大韓商工会議所の建議文を読めば、企業が削った正規職の賃金を非正規職に戻すはずがない。

極限に至った非正規職の不満を正規職に向かわせようとする政府

正規職の「過保護」あるいは「正規職利己主義」という政界の発言があがるとすぐ、保守言論は社説や企画記事で正規職を攻撃している。朝鮮日報は「非正規職の犠牲の上に、高賃金・高福祉恩恵を正規職に提供しているのが私たちの現実」と書き、中央日報は「亡国的正規職・非正規職格差は放置できない」と書く。毎日経済新聞は企画記事で力が強い正規職労組のおかげで新規採用できず、非正規職が苦しんでいるという記事を送りだしている。非正規職を心配するようなこうした記事を読むと本当にあきれる。非正規職闘争のことをまともに報道したこともなく、報道しても非難一色だった新聞と放送が、正規職を攻撃するために非正規職を活用しているからだ。

「正規職の過保護」云々というのは実際には正規職の権利を奪うためだが、正規職への社会的公憤を呼び起こそうとする目的もある。韓国の非正規職の状況は極限に達している。生活苦による自殺も増えている。それでも政府は庶民にタバコ税を上げ、不動産活性化のために投機を助長している。怒りが溢れないとすれば、そちらの方がおかしな状況だ。政府もこの怒りの危険をよく知っている。ところが政府はこうした苦痛には耳を傾けず、企業の側に立つ一方、この不満が政府に向かわないようにと、むしろ別の被害者である正規職労働者に向かわせようと誘導しているのだ。

「従北」フレームで市民の敵対感をあおることで自分を維持してきたこの政府は、従北フレームさえも揺らぐ程に労働者の怒りが高まり、もうひとつの犠牲を作ろうとしている。それに従って保守言論はオウムのように「正規職利己主義」を合唱する。もちろんそのフレームは市民にはまだよく組み込まれていない。大企業の横暴と労働者の権利不在を体で体験しているためだ。しかし「従北」フレームが理性的なことがあっただろうか。同じように、未来への希望がない人々の怒りを誘導して行く巧妙な報道機関と政府と企業の扇動の中で、正規職に対する怒りが広がらないという保障はない。

企業に対する統制と労働者の連帯が正しい道

問題は、大企業の「過保護」だ。 12月12日、裁判所はイーマートとロッテスーパーが「大型スーパーではない」と判断し、営業制限処分は違法だと判決した。中小自営業者を生かすためのとても小さな規制さえ、大型スーパーの味方をしてなくす判決だ。裁判所が公正性を失い大企業の肩を持つのは日常的な現象だ。この5年間の減税恩恵の1/3が財閥に傾いているのも、政府がまず大企業の便益を考慮したためだ。大企業の誤った行為に対する処罰も非常に粗末だ。唐津現代製鉄では2013年5月に労働者5人が死亡する事故が発生した。ところが罰金5000万ウォンの刑を受けただけだ。

企業は報道機関と政府と司法府がすべて自分の味方だということを知っているから、その力を利用して政府の政策に影響を行使する。稼いだ金は投資せずに大株主への配当や企業留保金にする。権限が強大なので自由に整理解雇をして、危険な作業は安全施設を設置する代わりに下請に押し付け、部品を供給する下請企業には単価引き下げの圧力を加え、地域路地商圏を侵害し、学校の前にホテルを作るようにロビーをして、フッ酸漏出などの大惨事につながる化学物質を扱いながらも情報公開を要求する地域の住民に「営業機密」を理由に資料も出さない。大企業は絶対的な権限を使い、社会的な略奪行為を行っている。そしてその費用はそのまま社会と労働者が抱え込んでいる。企業を統制しない社会は誰もが不幸な社会だ。

本当に皆が生きることを望むのなら、正規職労働者を攻撃するのではなく、大企業に対する社会的統制を要求しなければならない。大企業の財閥総師の専横を放っておいてはいけない。そして労働者の権利がさらに多く保障されなければならない。労働者が権利を持つことで、財閥総師一家が企業に勝手な行動を取らせ、企業が政権にロビーをして、不正腐敗を行い、社会共同体を破壊することを防げる。そして労働者に権利があれば、非正規職の拡散を防ぎ、安定した雇用で新規採用を増やせと要求できる。非正規職を減らし、非正規職の権利を保障することは、全ての労働者の労働権が保障される時に可能だ。

ところが正規職労働者が攻撃されるのは、政権と企業が誘導するからでもあるが、正規職労働者が企業が作った階層に順応した結果でもある。企業は労働者を正規職と非正規職に分けて統制し、正規職労働者の闘争が非正規職の権利の伸張につながらないようにする。だから「連帯の観点」、「全労働者」の観点を持てなければ、正規職は自分の権利だけのために戦うようになる。

自分の賃上げだけでなく、全労働者の最低賃金引き上げのために共に戦い、公務員年金を守るためにだけでなく、国民年金をきちんと上げるために戦って、自分の雇用安定のために整理解雇に反対するだけでなく、非正規職を量産する非正規職法改悪を防ぐために戦って、自分の労働条件の保障だけでなく、非正規職労働者の正規職化と権利保障要求を掲げて共に戦わなければならない。

組織された労働者たちがまだ組織されていない非正規職と零細事業場労働者を組織するために努め、それらの労働者とともに全労働者の権利のために戦わなければならない。そうする時、政府と企業が分断した階層を押し倒すことができ、このように労働者を分断して正規職を攻撃する政府と企業に対抗し、すべての労働者の権利を勝ち取ることができる。〈連載終わり〉

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可（仮訳）に従います。

Created byStaff. Created on 2014-12-20 01:09:43 / Last modified on 2014-12-20 01:09:44 Copyright: Default