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女性殺害に沈黙する社会

[企画連載](1)女性殺害、女性の死を政治化するもの

ファン・ジュヨン(ソウル市立大) 2013.04.08 17:55

[編集者注] 「女性殺害(Femicide)」が世界各地で時々刻々さまざまな形態で 強行されています。男子選好による幼い女子殺害や女性性器切除から名誉殺人、 塩酸テロ、家庭暴力や性暴力による殺害、持参金殺害、戦争状況での女性集団 殺害、移住女性殺害、性労働者殺害、そして暴力的な状況での女性自殺まで、 多くの女性殺害が行われており、家父長体制の影響で男性だけでなく、女性も 女性殺害の加害者になることもあります。

また、女性殺害は家父長体制を維持するための男性中心的で、性別両極端的で、 異性愛中心的な構造の中で行われるため、多くのレズビアンやトランスジェン ダーに対する暴力と殺害も続いています。

「地球地域行動ネットワーク」は2013年共同行動の日に、地球的な女性殺害に 対抗すると同時に、韓国でも多様な形で強行される女性殺害の脈絡と意味を共 に分析し議題化するために「女性殺害に関する企画連載」を行います。

今ここに

この数年、マスコミはいつよりも熱情的に女性が殺害された事件を報道しまくっ た。特に障害女性と児童、青少年を対象とする性暴力事件や殺人事件が大きな 注目を浴び、政治家は異例にも口を揃えて性急な提案を出した。刑量の強化は もちろん、電子足輪や化学的去勢についての慎重な接近はほとんどなく、社会 的な合意も公的の討論も不要と思われるほどであった。しかし政府も言論も、 大衆世論まで、まさにどんな女性が、どの空間で、誰により、何を理由として 殺されるのか、きちんと説明したことはない。一国家の主要言論のメディアが 伝えるのは、せいぜい露出が激しい姿の酔った女性が夜遅く、暗い路地で不遇 な成長の背景を持つサイコパスに運悪くやられるということだ。

このように、女性を対象とする暴力、性暴力、殺害犯罪は、他の犯罪と較べて 個人的な問題に置き換えられるだけの傾向がある。水原で起きた刃傷事件のよ うな、いわゆる通り魔犯罪の場合、貧困、現代社会の共同体崩壊、社会的弱者 の疎外などを原因として説明する努力がある。そればかりか、最近では障害者 火災死事件、解雇労働者の自殺など、直接の他殺ではない場合も社会的次元の 殺人と命名したりもする。こうしたことを考えると、女性が殺された事件はな ぜ個人的な次元だけで説明されるのかを問わざるをえない。

「韓国女性の電話」の資料によれば、2012年の一年間に少なくとも(言論に報道 されたケースだけの調査)120人の女性が夫や恋人などの密な関係にある男性の 手で殺害された。3日に1人の割合だ。また、ある研究(カン・ウンギョン、パク・ ヒョンミン、2008)によれば、1997年から2006年の間の女性被害者の37.5%が(現 /元)配偶者や恋人により殺害された(男性被害者の場合25.9%)。女性が殺された 事件では、知らない人が加害者の割合は26.1%で、親密な関係の場合よりも10% 以上低かった。闇夜に厳しい外界から女性を守り保護すると思われている家庭 や保護者としての男性の方が女性にとって危険だということだ。特に密な関係 での女性被害者の49%が40-50台で、これは「継続的な家庭暴力が結局殺害とい う極端な状況」に続いたことを示す(〈韓国女性の電話〉資料)。こうした点を 見ると、夫や恋人に殺された女性たちの「生きた」声は、これらの事件が偶発 的な事故ではなく、家父長制や性差別主義、あるいは男性中心主義と無関係 ではないことを教えてくれる。

女性に対する家父長制の処罰

殺害による女性の死に社会的・政治的な意味を付与するために、フェミニスト らは「女性殺害 femicide」という用語を提案している。ダイアナ・ラッセルが 1976年にベルギーのブリュッセルで開かれた1次「女性対象犯罪国際裁判」で、 初めてこの用語を公式化した。ここでラッセルは、フェミサイドを「男たちに より強行される女たちへの嫌悪殺人」と定義した。その後、多くのフェミニス トたちの概念提案を検討し、最終的に(2001年)女性殺害を「女性であるという 理由で男性たちが女性たちを殺害すること」と定義する。

ラッセルは、女性殺害が女性に対する性差別主義的かつ家父長制的な暴力と、 テロの連続体の最も極端な形態と規定することにより、女性殺害を性政治学の 場に持ち込む。男性が女性に暴力を加え、結局死なせることは、男性の権力が 被支配者の女性により威嚇されると感じる時、権力を維持するために強制力を 使ってもいいと考えるためだ。したがって、女性への性差別主義的かつ家父長 制的な暴力と、その暴力の最も極端な形態の女性殺害は、男性と女性の性的 関係という面から理解しなければならない。こうした意味で、ジル・レッド フォードは女性殺害が「一種の死刑として... 性階級としての女性を統制する 手段として機能し、... 家父長制的な現状維持の核心にある」と主張する (1992)。男性は女性に対して家父長的権力を持つ支配者として、女性を保護する という名分で女性を統制するために暴力を使い、また、女性が統制から抜け 出した時の処罰にも暴力を使う。

したがって、ある時にはある社会の性的不平等の程度が高いほど、女性殺害が 増加するが、別の時には不平等が緩和される時、女性への男性の暴力が増加す る。言わば、男性たちが自分の権力の管轄区域が狭まることをどこまで容認す るかということが、反女性的暴力の増減を決めるのだ。こうして見れば、女性 殺害がなぜ、どんな状況で、誰により、どんな女性を対象に強行されるかを 追跡し、細かく分析する作業が重要だ。

女性殺害の事例と範囲

女性殺害は普通、インドやアラブ圏の国家で、家父長制的な伝統や慣習、儀礼、 迷信、宗教的規範により、女性の命を絶つ事であると比較的制限的に理解され てきた。だが女性殺害は、いわゆる「未開」な社会で現れる特有の慣習ではな く、それぞれの国家と社会の文化的、経済的、社会的条件の差によりその形態 が異なるだけで、どの社会にも現れる普遍的現象だ。中世の魔女狩りのような 集団的な虐殺、現在や過去の夫、および恋人による殺人、男子選好による幼い 女子の殺害(直接の殺害および遺棄や放置による死)、女性の妊娠出産に対する 決定権が与えられない社会での非専門的な堕胎による死、連続殺人、家庭暴力 の結果による死、女性性器切除による死、強姦や意図的にコンドームの使用を 拒否する男性からエイズに感染して死亡する場合、少数人種の女性の殺害、結 婚持参金の問題による殺害、夫と死別した女性を家族が殺す場合、強姦被害者 の女性に対する名誉殺人など、世界的に女性たちは各種の理由で殺されている。

また、家父長的な社会構造の中での女性殺害は、男性ではなく女性によって行 われたり、構造そのものにより行われたりもする。以下の事例はそうしたケース での女性殺害についての争点だ。

女性による女性殺害: もちろん殺人事件の場合、加害者はほとんど男性で あり、女性が加害者の場合は概して男性の虐待や性暴力からの自己防御がその 目的だ。だが、ある場合には女性が女性殺害の加害者になることもある。ここ には息子ではないという理由で母が幼い女の子を無関心の中に放置することに より死なせたり、結婚持参金の問題で姑が嫁を殺害する場合が含まれる。女性 が自分自身の直接の利益により女性を殺害する場合は多くないため、フェミニ ストたちは女性加害者を男性の利益のための代理行為者、共謀者や幇助者、あ るいは家父長制の維持と強化のための代理行為者程度と見ている。

男子選好による女児の堕胎: 妊娠・出産・妊娠中止に対する女性の決定権 は、フェミニストたちが長い間、勝ち取ろうとしている女性の権利の一つだ。 ところで性鑑定の識別後に女児の堕胎を女性殺害と認めると、胎児を独立した 人格体と認めることなので、妊娠中絶についての女性の決定権が制限される。 問題は、中国のように女児の堕胎が男児選好思想と人口政策が結びつき、非常 に大規模に、そして露骨に行われる場合だ。この時は女児の堕胎が女性殺害の 核心になりうるためだ。したがって男子選好による女児堕胎を女性殺害に入れ るかどうかについて、もう少し慎重に考慮する必要がある。

レズビアンやトランスジェンダー殺害: レズビアンとトランスジェンダー は、異性愛という規範とジェンダー・アイデンティティという規範に違反した 罪で、非難、暴力、死の威嚇にさらされている集団だ。一般的に密なパートナー 関係での殺害が女性殺害の力学を最もよく示すといわれるが、レズビアンやト ランスジェンダーの場合は違うこともある。レズビアンに対するいわゆるキャ ンパス強姦および暴力と殺害の加害者は、異性愛の男性だからだ。したがって 女性の性少数者の殺害はその特殊性をよく捕捉できる別途の研究と調査が必要だ。

女/性労働者の死: よく知られるように性売買に従事する女性は多様な危険 に直面している。「売春行為」という烙印により嫌悪殺人の対象でもあり、性 購買者からの殴打・強姦・殺害およびエイズ感染による死亡、抱主による暴力、 集団居住地の安全問題による焼死などだ。一方、このように明確な女性殺害の 場合ではなくても、性別分業による女性の労働の結果として死亡する場合にも 考えることができる。サムスン半導体で働いていた女性たちが白血病で死亡す る場合がこれにあたる。世界的に半導体工場では概して女性を雇用してるとい う点を考慮すれば、こうした労働災害も広い意味の女性殺害と見る余地がある。

性暴力と虐待から脱するための自殺: 性暴力や虐待を経験した女性たちが ほとんど助けを受けられない社会的な条件で、自分が死んだり加害者を殺すこ とで問題状況を終わらせる暴力的な二者択一に追い込まれる。この時の自殺を 単に個人の非倫理的な選択と見ることはできない。これは最近相次いで発生す る労働者の自殺や障害者の焼死事件を「社会的殺人」や「社会的他殺」と命名 し始めたことと関連して考えてみる価値がある。

広く見ることと焦点合わせ

まだ扱われていない人種、国家、階級、宗教、障害の有無などによる差と特殊 性も、女性殺害の概念定立と類型化および事件発生に影響する要素だ。例えば 一般的には女性たちの所得が低いほど、女性殺害の割合が高まると見られるが、 米国における黒人女性の場合、所得の高低は意味ある変化の要素としては作用 しない。黒人コミュニティでは女性の労働が家族と黒人集団を扶養する重要な 役割を果たすため、女性の所得増加が黒人男性にとっての威嚇よりも、むしろ 保護と助けを提供するものと見なされるためだろう。こうしたさまざまな差異 と多くの要因を一つ一つ広げ、それぞれが女性に対する暴力とその極端な形態 の女性殺害の発生にどう関係するかを具体化する作業が必要だ。

韓国での殺人事件は毎年減少する傾向で、女性の殺人死亡率は男性より低い方 だ。だが重要なことは、女性殺害の動機と被害者-加害者の関係が、ますます反 女性的かつ性差別的な特徴を見せているという点だ。性平等の水準と女性への 暴力の発生の割合は、一貫して比例関係で、反比例関係ではない。ある場合は 女性の社会的・経済的地位が上昇するほど女性殺害が減ることが明らかになっ たが、他の調査では反対の結果を示す。後者の場合を男性の反撃として説明す るフェミニストは、女性平等の増大により威嚇を感じる男性が権力維持の手段 として暴力を使うと主張する。最近数年間の韓国社会にはこの反撃理論の証拠 がしばしば、そして激しく現れている。男性たちは女性たちを、味噌女、ガチ フェミ、キム女史、ボスラッチ(女性を武器に世を渡る女の意味)などと細かく 分けて軽蔑的な名札を付けている。こうした現象が示す男性の怒り、恐怖と当 惑が、今はインターネットでの言語的暴力として現れているが、いつ、どこで 物理的な暴力として、そして女性の殺害に展開するかはわからない。

女性殺害は1970年代中盤に提起され、今まで粘り強い議論があったが韓国では フェミニズムと女性運動の中心議題にならなかった。女性殺害を経験した被害 者の女性の声は、生存していないためその経験に意味を付与する作業は容易で はなかったためだ。また死が持つ普遍的で極端な性格により、女性の殺害が持 つジェンダー化され、反女性的で、女性嫌悪的な特性が隠蔽される一方、かな り例外的な個別の事件で置き換えられてきたのも事実だ。しかし韓国では、何 よりも女性への暴力が強姦と殺害に代表されることで、家庭と職場をはじめ、 あらゆる日常的な空間で起きる暴力が無視される状況に対する憂慮の方が大き かったのだろう。これに同意しないフェミニストはいないだろう。だが、こう した憂慮により、フェミニストの観点から問題を設定して、論理と運動を作り 出す作業を先送りする必要はない。

参考資料:
カン・ウンギョン、パク・ヒョンミン、〈殺人犯罪の実態と類型別特性:連続殺人、尊属殺人および女性殺人犯罪者を中心に〉, 2008.
「韓国女性の電話」, 「2013韓国女性の電話相談統計および言論報道分析」, http://www.hotline.or.kr.
Diana E. H. Russell, Jill Radford、Femicide:The Politics of Woman Killing, 1992.
Diana E. H. Russell &Roberta A. Harmes, Femicide in Global Perspective, 2001.

付記

この文は女性文化理論研究所の〈女/性理論〉に掲載される予定の文の一部です。 さらに具体的な議論は近く出版される〈女/性理論〉第28号の原文を参考にして ください。

原文(チャムセサン)

翻訳/文責:安田(ゆ)
著作物の利用は、原著作物の規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可仮訳 )に従います。


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