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『朝日新聞政治部』にみる新聞の生き残る道

2022年08月05日 | 政権とメディア
   

 「崩壊する大新聞の中枢 政治部出身の経営陣はどこで何を間違えたのか? すべて実名で綴る内部告発ノンフィクション」(帯)と銘打った鮫島浩氏(2021年5月朝日新聞退社)の『朝日新聞政治部』(講談社、2022年5月25日第1刷)が、この分野としては異例の売れ行きだといいます。

 鮫島氏をデスクとする同社の特別報道部は、極秘とされていた福島第1原発・吉田昌郎所長の国会調査に対する調書(「吉田調書」)を入手し暴露しました(2014年5月)。このスクープに対し、「誤報だ」という批判が巻き起こり、結局、木村伊量社長(当時)が14年9月11日の記者会見で「誤報」「記事取り消し」と関係記者の「処分」を表明しました。鮫島氏は、この日に「朝日新聞は死んだ」と書いています。特別報道部は21年春に廃止されました。

 鮫島氏はこの経過の本質は「記事を出した後の危機対応の失敗」であるとし、社内の人間関係(ポスト争い)や運営の問題を詳述しています。しかし、はたして問題はそこでしょうか。問題の核心は次の2点だと考えます。

 第1に、朝日が重要なスクープを自ら「誤報」とし、「記者処分」まで行う誤りを犯したのは、国家権力(当時は安倍晋三政権)の攻撃に屈した結果だということです。同書にも次のような記述があります。

「(朝日のスクープのあと)産経新聞が他紙に先がけ、吉田調書を入手したとして報道を開始した。安倍政権が朝日批判の流れをつくるために産経にリークしたのだろうと私は思った」
安倍政権とマスコミ各社による「朝日包囲網」は着実に構築されていたのである」
「安倍政権はなぜ、朝日新聞をそこまで追い込もうとしたのか。…安倍政権はこの時期、集団的自衛権を行使できるようにするための「解釈改憲」を進めていた。…安倍首相や菅官房長官はNHKに続いて民放各社や新聞各社の「メディア支配」に力を入れはじめていたのである

 「吉田調書」をめぐる朝日新聞の最大の誤りは、こうした国家権力・安倍政権の攻撃と正面から対決しなかった、できなかったことにあります。

 なぜ対決できなかったのか。それは同社の首脳陣の多くが政治部出身であることと無関係ではありません。政治部は権力(主に自民党)との癒着がもっともはげしい部署です。同書の前半で生々しく描かれている政治部記者(鮫島氏自身も含め)と自民党議員との「持ちつ持たれつ」の関係は、政治部(もちろん朝日だけでなく)の実態を浮き彫りにしています。

 第2の問題は、特別報道部を廃止したことです。

「吉田調書」をスクープした特別報道部は、「調査報道重視を掲げた編集局の改革」としてつくられました。それは、「記者クラブを拠点に当局に食い込み、正式発表より一歩早く情報をリークしてもらって他社を出し抜く「コップの中の競争」と決別し、「隠された事実」を掘り起こす新しい調査報道スタイル」(同書)を確立する部署として発足したものです。
 事実特別報道部は、連載「プロメテウスの罠」、「手抜き除染」キャンペーンなどのスクープを連発しました。

 その特別報道部を廃止したことは、調査報道を確立しようとする改革が挫折し、もとの「コップの中の競争」に逆戻りしたことを意味します。これこそ「吉田調書」問題がもたらした最大の害悪であり、国家権力の真の狙いだったと言わねばなりません。

 鮫島氏は「企業とジャーナリズムは結局、相いれないもの」(7月10日付中国新聞=共同)と述べていますが、そうでしょうか。企業の目的が利益であるなら、売れる新聞をつくればいいのです。権力と癒着した政治記事などだれが読みたいでしょう。「隠された事実」を掘り起こし、権力の支配構造を暴く記事を書けば、新聞は読まれます。売れます。

「吉田調書」問題で挫折させられた調査報道をあらためて復活・強化し、権力と正面から対峙し追及すること。それこそが新聞・メディアの生き残る道です。『朝日新聞政治部』はその反面教師です。

Created by sasaki. Last modified on 2022-08-05 07:42:10 Copyright: Default

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