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LNJ Logo 「小出裕章×高橋哲哉」対談報告を読んで〜今こそ知られるべき戦慄の外務省報告書
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※写真=ロシア軍に一時占拠されたウクライナ・ザポリージャ原発/ハフポスト日本版より

「梨の木ピースアカデミー第6期 福島から見たポストコロナ時代〜小出裕章×高橋哲哉対談企画 「ウクライナ危機から捉え直す福島原発と植民地」開催報告」を読んだ。

この記事の中で高橋哲哉さんが紹介している「国内の原発が攻撃を受けた場合」に「最大1万8千人が急性死亡すると試算」した外務省の報告書は、反原発運動に取り組んでいるある人物から、2017年に筆者にも紹介があった。「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」と題する報告書は、1983年度に、外務省が財団法人「日本国際問題研究所」に委託して行わせた研究結果に関する資料。「反原発運動への影響」を考慮して翌1984年2月、関係者のみに向け「極秘公表」された。

発電量100万kwh級軽水炉の格納容器が外部からの攻撃で破壊され、「主要54核種」のうち11%が大気中に放出された場合の被害想定を、以下のとおりとしている。

・緊急避難をしなかった場合

 急性死亡 平均3600人 最大18000人  急性障害 平均6300人 最大41000人

・緊急避難(原発から風下10マイル(約16km)の区域の住民を5時間以内に避難)をした場合

 急性死亡 平均 830人 最大 8200人  急性障害 平均3600人 最大33000人

特に、急性死亡は避難しない場合と比べて大きく減っている。

晩発性障害に関しては、がん死亡者を平均8100人、最大24000人と見積もっている。緊急避難に成功した場合の推定であること、緊急避難に成功しても晩発性障害によるがん死亡のほうが急性死亡より平均で10倍、最大で3倍も大きくなっていることが重要な点だ。緊急避難しなかった場合の晩発性障害者数は掲載すらされていない。想像を絶する数字となったため、掲載が控えられた可能性がある。

この報告書では、「問題は現実に緊急避難がどの程度可能かであって、……緊急避難させることは容易でないし、特に夜間などを考えれば尚更である」と、避難の困難さを認めている。また、「長期にわたる土地利用制限の最大の原因は放射性セシウム(Cs-137)による地表汚染にある。表面の土壌を削り取ったり、汚染されていない土を運んで来て盛ったり、上下に深く耕すとかすれば、その放射線の影響を軽減しうるが、広い地域にわたって実施することは困難である」と、広域除染の困難さも認めている。

この報告書は、スリーマイル原発事故を参考にして影響を評価していると考えられる。福島原発事故はおろか、チェルノブイリ原発事故(1987年)もまだ発生していない段階での被害想定だが、現在、福島で起きている事態に照らしてみれば、かなり正確な予測だったといえる(特に正確なのは、甲状腺がんなどの晩発性障害、広範囲にわたる土壌汚染とその除染が困難である点など。急性死亡や急性障害は福島原発事故には当てはまらない)。

緊急避難に成功しても急性障害より晩発性障害のほうがはるかに影響が大きいことが30年も前に報告されていたとは驚きだ。民間シンクタンクによる被害想定とはいえ、外務省が委託した研究結果であり、当然、日本政府はこの結果を知っていたはずである。それにもかかわらず、福島住民を避難もさせなかった日本政府の行為は、やはり「緩慢な殺人」だといわざるを得ない。

驚くことに、この報告書は現在、外務省ホームページに掲載されており、誰でも読める。古い資料のため一部、不鮮明な箇所もあるが、ぜひ全文を読むことをお勧めする。

・外務省ホームページ掲載の報告書「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」(1984.2 日本国際問題研究所)https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000160057.pdf

・日本国際問題研究所ホームページ https://www.jiia.or.jp/

(文責:黒鉄好)


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