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LNJ Logo 映画紹介 : 「チェチ ェンへようこそ」プーチンの支配とウクライナ戦争の未来
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*レイバーネットMLから

小塚です。 ジャーナリストの常岡浩介さんが、ことし日本公開されたドキュメンタリー映画「チェチ ェンへようこそ」の紹介文を書いています。ウクライナの事態への示唆に富んだ内容です ので、投稿します。 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼ ロシアに占領された国「チェチェン」が映し出すプーチンの支配とウクライナ戦争の未来 〜映画『チェチェンへようこそ』 常岡浩介 二度にわたる壮絶な戦争の結果、ロシア連邦に編入されたチェチェン共和国。プーチン支 配下の生活を描いたドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそ』を見れば、現在進行 中のロシア・ウクライナ戦争の展望がクリアに理解できるようになる。 『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』 (c)MadeGood Films) ロシアに占領された国「チェチェン」 ドキュメンタリー映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』は2022年2月26日より全 国映画館にて上映されている。舞台は現代のチェチェンとロシア。1994年から2009年まで 続いた地獄のようなチェチェン戦争が終わり、一見「平和で豊かな」チェチェンで今も続 いているのが、性的少数派への惨たらしい弾圧、粛清だ。 ロシア連邦の構成国のひとつであるチェチェン共和国は、ロシア南西部に位置する。人口 は100万人ほどの小さな国で、住民の大半はチェチェン語を話し、イスラム教を信仰する チェチェン人だ。90年代のソ連崩壊のなか、非ロシア系国家の独立と離反が相次いだが、 チェチェンも例に漏れず、独立の機運が高まった。 チェチェンが他のソ連構成国と異なっていたのは、ロシア軍の侵攻により、独立が叶わな かったことだ。ロシアからの離脱を求めたチェチェン独立派は、チェチェン戦争で文字通 りの全滅に追い込まれ、僅かな生存者は欧州などに亡命した。 チェチェン本土に残ったのは、プーチンに任命されたラムザン・カディロフ首長率いる傀 儡政権の一派。同胞のチェチェン民族を裏切り、プーチンに忠誠を誓い、非人道行為に協 力した見返りとして、チェチェンで絶大な富と権力をほしいままにしている。 一方、ロシア本土ではプーチンに批判的な政治家やジャーナリスト、人権活動家らが次々 と暗殺されている。そうした暗殺の仕事を直接請け負うのが、カディロフの私兵集団「カ ディロフツィ」だ。 今回のドキュメンタリー映画は、ロシア内外で繰り返されているカディロフツィの蛮行の うち、性的少数派LGBTQの人たちがチェチェンで直面する脅威に焦点を絞って詳細に描い ている。 2月から続いているウクライナ侵略にも、国家親衛隊の身分で参戦しているカディロフツ ィが深く関与し、現地での蛮行、非人道行為に関わっていることがわかってきた。 日本のメディアでは、ロシアにもウクライナにも知識のないタレント政治家が連日登場し 、「市民の犠牲を避けるため、ウクライナは降伏すべき」という論陣を張っているが、残 念ながら、この主張は実情から乖離している。 チェチェン戦争で、あるいはロシアが軍事介入したシリア内戦で、ロシアに降伏した反体 制派がどうなったのかについては、山のような実例がある。チェチェン戦争では、独立派 戦闘員の犠牲者数は最大で3万人であったと言われるが、戦争全体の犠牲者数は20万人だ 。つまり、17万人程度が非武装市民の犠牲ということになる。人口100万人のうちの17万 人である。抵抗しなければ安全などということはありえない。 ロシア占領下で繰り返された蛮行 2月から続くウクライナ侵略でも同じだ。ブチャ、イルピンなど、ロシアが一時的に占領 していた都市では、民間人への大量殺戮の事実が次々と明らかになっている。市民は戦闘 の巻き添えになったのではなく、戦闘が終わったあとで、無抵抗のまま処刑されていた。 多くの市民は、後ろ手に縛られた状態で、後頭部などを銃で撃たれた状態で発見された。 遺体は数カ所に集められ、大きな穴に埋められ、隠蔽されていた。地下室やマンホールな どに捨てられていたものも多かった。家族で車で逃げようとしていたところを、車内に座 った姿勢のまま射殺されていたものもあった。自転車で移動中に射殺されたものも、飢え た家族のためにジャガイモを持ち帰る途中で射殺されたものもあった。 これらの戦争犯罪は、ウクライナ軍の反攻によって都市が解放された結果、暴かれたもの だ。ロシアに占領されたままであったとしたら、ほとんどの事実は闇に葬られていたはず であった。 そういう意味で、今も闇に葬られたままなのが、ロシア占領下、傀儡政権支配下のチェチ ェンでの非人道行為だとも言える。前述の通り、プーチン支配下のロシアでは、プーチン に異議を唱えた人たちが次々と暗殺されたり、不審死を遂げたりしている。 イギリスに亡命した元諜報機関員のリトビネンコは急性の毒物中毒症状を示して亡くなり 、野党政治家のネムツォフは路上で、ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤは自宅 のエレベーターホールでそれぞれ射殺された。刑務所に投獄されたあと「突然心臓が止ま った」り、自宅の窓から遺書も残さず転落死したものもいた。ネムツォフとポリトコフス カヤの暗殺には、カディロフツィが直接手を下したことが、それぞれの裁判などで認定さ れている。 カディロフ支配下のチェチェンではもっと露骨だ。警察や内務省軍、国家親衛隊などの職 員が突然家に押しかけてきて、暴行し、連行し、そのまま消息を絶つ。連行されたものは 、のちに遺体となって見つかり、遺体には拷問を受けた痕跡が残されている。 こうした非人道行為は通常なら隠蔽され、闇に葬られる。今回はたまたま、断片的に外部 に情報が漏れ出し、このドキュメンタリー映画が成立した。独裁者ラムザン・カディロフ が、LGBTQに対する迫害について隠すつもりもない、あるいは、隠すべき理由すら理解で きない、なにが問題なのかも分からないほど、人権感覚と教養に欠けた人物であったから だ。 いつまでも続く「戦後」 第二次チェチェン戦争は1999年から2009年まで10年間続いたことになっているが、実質的 な戦闘は2002年には終わり、あとは山岳地帯に立て籠もった少数・小規模のゲリラをロシ ア側が掃討する戦いに移っていた。つまり、ロシア国民の感覚では2002年頃までの戦争だ ったと言っていい。 しかし、『チェチェンへようこそ』の舞台は2020年代だ。戦争が終わって、20年が経った 現在に、まだ戦争による占領下の圧政が続いている。ウクライナで、戦闘ではなく、戦闘 が終わったあとの占領下で蛮行が繰り広げられた事実と重なるところがある。 ロシア本土では、これまで同じようなことが繰り返されてきた。第二次世界大戦の独ソ戦 を生き延びた激戦地の人たちを待っていたのは、スターリン政権による「対独協力者」へ の復讐だった。「対独協力者」の多くは、実際にはナチス・ドイツへの協力者ではなかっ た。スターリンから一方的に疑われた民族が丸ごと対象になったのだ。 「враг народа(人民の敵)」という語を旧ソ連の誰もが知っている。1944年2 月以降、スターリンから敵性民族と認定されたクリミア・タタール、イングーシ、チェチ ェンをはじめ11の民族の全人口が、財産を持ってゆくことも許されず、シベリアや中央ア ジアへ強制連行された。その数330万人。 移動過程や移動先で、全人口のおよそ3分の1が餓死、凍死した。これらの地域では、ドイ ツとの戦闘は終わっていたはずだった。 希望はどこにあるのか 結論を言うと、ロシアに戦争で負け、降伏すると、戦争を続けていた頃よりもさらに生き 延びる可能性は小さくなる。 現在も、ウクライナの民衆はロシアへの獅子奮迅の抵抗戦争を続けている。日本や海外の 「Pacifist(平和主義者)」の中には、武力で抵抗すると市民の犠牲が増えるから、抵抗 をやめるべきだ、と主張する人たちも多い。ロシアの歴史と、プーチンという人物のプロ ファイリングからいうと、これは間違いだ。徹底的な抵抗だけが犠牲を減らせるのだ。 では、すでに武力抵抗が終わっているロシア本土やチェチェンでは、どうすればプーチン やカディロフによる「気に入らぬものへの粛清」から逃れられるのか? その答えがこの作品に描かれている。虐げられたものたちは連携し、協力し、組織化し、 隠れ家を作って、命の危険を冒しながら脱出するしかない。そうしながら、世界にファク トを伝えてゆく。そして、亡命先で生き延びて、いつかプーチンを倒す機会を待つ。それ は、チェチェン独立派の僅かな生存者たちと同じ選択だ。 この映画の登場人物の活動は、取りも直さず、圧制下で多くの良心ある市民が辿ってきた 闘いの新たな1ページだ。 自由を求めたチェチェン人だけでなく、リトビネンコ、ポリトコフスカヤ、ネムツォフ、 多くの高潔なロシアの民衆が暗殺に倒れた。しかし、1人が暴君の手にかかっても、ユー ラシアの大地から100人の英雄が立ち上がって、暴君に抗議の声をあげる。 強大なロシア帝国も、ソ連も、立ち上がった民衆によって打倒されてきた。プーチンは自 分の運命をよく知っている。今は強力な武器を操るウクライナの民衆が、敵味方に大きな 犠牲を強いながら、プーチン暴政の「終わりの始まり」を決しようとしている。夜明けが 来ることを祈って待つしかない。 『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』(2020) 監督/デイヴィッド・フランス 配給/MadeGood Films ロシア支配下のチェチェン共和国で国家主導の”ゲイ狩り”が横行している。同性愛者た ちは国家警察や自身の家族から拷問を受け、殺害され、社会から抹消されている。それで も決死の国外脱出を試みる彼らと、救出に奔走する活動家たちを追った。本作品では、被 害者の命を守るため、フェイスダブル技術を駆使し身元を特定不能にしている。 2022年2月26日より、全国映画館にて上映中 https://www.madegood.com/welcome-to-chechnya

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