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戦争は権力者の無責任のかたまり〜映画『失われた時の中で』

  笠原眞弓

 坂田雅子さんのベトナム戦争時の枯葉剤使用に焦点を当てた3作目の作品『失われた時の中で』が公開された。前作『花はどこへ行った(2008年)』『沈黙の春を生きて(2011年)』とは全く違った感覚で迫って来た。まるで坂田監督の夫、写真家グレッグ・デイビスへの鎮魂歌のように、そしてこれまでの彼女の心の旅の一つの区切りのようでもあった。映画を撮り始めたきっかけと、撮影しながらも聞こえてくるデイビスの声に励まされて完成していく愛の作品でもある。

 ベトナム戦争といえば、いくつかのキーワードがある。その中でも「枯葉剤」は、この戦争の持つ大きな負の遺産である。ベトナム戦争で枯葉剤を大量にまかれた地域では悲しいかな、もう戦争が終わって50年近くなるのに、4世代目になる現在でも障害を持った子どもが生まれている。つまり増加しているのだ。戦争被害が世代を超えて引き継がれる様子が描かれ、それはまるで「今起きている現実のフクシマ」と重なり、神経がビリビリする。

 ベトナム戦争で使われた枯葉剤の実際の被害者とその家族を長期にわたって訪ねていることから、個人の成長に伴った問題点も映像で指摘している。きょうだいへの負担や保護者の死後のことなど、もう待ったなしの不安。カメラは丁寧に写し取る。

 加害者は悠々としているのに、被害者たちは大きな権力の前で、途方に暮れる。つくづく戦争被害は、その時の一瞬のことではなく、何世代にもわたって続くと考え込む。

 家庭で育てられない子どもたちを引き受けてきた「平和村」(ベトちゃんドクちゃんが入院していた病院内施設)が、近々閉鎖されるという。彼等入所者の行き先は、全く決まっていない。

 では、アメリカは彼らにどんな補償をしているのか。被害者がアメリカを相手取り訴訟を起こしても、国際法では戦争の終結時点で枯葉剤は、禁止化学兵器として未承認であったから、原告側が因果関係を証明しなければ補償の対象にならないということで3回も却下した。もしこれを認めれば、この製薬会社は確実に倒産することを視野に入れてのことだ。それを伝える坂田さんの言葉に、怒りで震えるのは、私だけではないだろう。司法が感情に左右されてはいけないとは思うが、こうして目の前の苦しむ人を見捨てられる冷たさ。これは世界共通なのか?

 子どもが枯葉剤による障害を持つフランス籍のベトナム人ジャーナリストは、フランスで裁判を起こす。ここでもアメリカの企業を裁く権限はないと訴訟は受理されない。しかし彼女はこのことが広く知られたことに意義があると述べ、これからも運動を続けると宣言する。巨象に挑むアリのようでもある悲壮感に満ちたその姿に、それでもわずかな希望を見出した。              

監督:坂田雅子  60分

ポレポレ東中野(9/3まで。続映予定)ほか第七藝術劇場(9/3〜)、京都シネマ(9/16〜)など全国での劇場上映。お見逃しなく。公式HPでご確認ください。
http://www.masakosakata.com/longtimepassing.html

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坂田雅子さんたちは、枯葉剤被害者への支援を続けている。下記にホームページアドレスを示します。

枯葉剤被害者への支援(http://www.masakosakata.com/longtimepassing.html
⼝座名:ベトナム枯葉剤被害者の会 代表 坂⽥雅⼦
三菱UFJ 銀⾏ (0005)⻘⼭通り⽀店(084)普通:0006502※お振込いただいた際は、masakosakata@gmail.com までご⼀報ください。


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