福島第一原発事故に伴うトリチウム汚染水の処理について(河田昌東) | |||||||
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福島第一原発事故に伴うトリチウム汚染水の処理について NPO法人チェルノブイリ救援・中部 理事 河田昌東 (2021年4月13日)
はじめに 政府は大量に貯蔵されている福島第一原発事故に伴うトリチウム汚染水の処理について、昨年10月中に海洋放出を決定する予定だったが、福島の漁業関係者はじめ全国の市民の反対の声を受けて決定を先伸ばしした。しかし基本的な方針が海洋放出であることには変わらない。政府はトリチウム水問題はこれ以上先送り出来ない、として2021年4月13日の閣議決定で正式に海洋放出を決めた。マスコミなどではもっとよく説明すべきだ、などとの主張もあり海洋放出のリスクについては丁寧に説明すれば分かってもらえる、と考えているようだ。しかしトリチウム汚染水の問題は単なる風評被害ではなく、具体的な実害が起こる危険性が高いことを改めて確認したい。一方、一般市民にとっては海洋放出しないとすれば一体どうしたらよいのか、という疑問も当然出てくる。この問題について改めて私見を述べる。
トリチウム水と普通の水(軽水)は化学的性質が同じなので化学的処理で分離できないことは周知の通りである。しかし両者は分子量が違うのでそれに伴う物理的性質は当然異なる。この違いを利用して互いを分離することは不可能ではない。 分子の大きさ(分子量)は通常の水(H2O)が18、トリチウム水はHOTが20、TOTが22である。即ち、汚染水と非汚染水では重量が違う。因みに冷却水に重水(HOD:19)を使うカナダの重水炉原発は通常の水(軽水)から超微量の重水を分離して利用している。汚染水からトリチウム水を分離濃縮することは原理的に不可能ではない。 トリチウム水処理の分離に関する研究は後述するように、軽水とトリチウム水の蒸気圧の違いによる分離(蒸留法)や水素原子の交換反応を利用する方法、電気分解法などの技術開発が進んでいる。2014年9月にアメリカのアイダホ州で行われた第34回トリチウム問題グループ会議では、福島第一原発のトリチウム水処理に関する具体的な提案が出され、処理施設の設計図やコスト迄提案されている。政府はトリチウム汚染水の海洋放出を中止し、トリチウム水を安全に保管しながら、これらの技術の実用化を一刻も早く実現すべきである。
●トリチウム水の量の問題 海洋放出を主張する原子力専門家の中には、そもそもトリチウムは自然界でも宇宙線などによって発生しており希釈すれば問題ないと主張する人もいる。しかし今回の福島原発事故によって発生したトリチウム水の量を考えた時、この主張は極めて非現実的である。宇宙線などで生じる海水中のトリチウムは1〜2Bq/L程度である。それに対して福島原発で貯蔵されているトリチウム水の量は現在120万トン、トリチウム量は860兆Bqで、濃度に換算すれば72000Bq/L、自然界の海水濃度の36000〜72000倍である。東電の排水基準1500Bq/Lで放流するとしても5.7億トンまで希釈し、40年簡に渡って処理を続けなければならない。これでは廃炉に必要な敷地面積拡大など出来るはずがない。 加えて、メルトダウンした3基の原子炉には今なお地下水や炉心の冷却水が毎日170トン近く流入し同量のトリチウム汚染水が毎日新たに発生している。
●対策その1:新たな汚染水発生を止める 東電は新たな汚染水発生量を2020年度内には150トン/日に、2025年までには100トン/日まで減らすとしている。こうした汚染水の大きな発生源は原子炉建屋の地下に流入する地下水だが、この汚染水の正確な発生源は未だに分かっていない。これに加えメルトダウンした炉心を今なお毎日140トンの冷却水を投入し続けているからである。更に、今年2月13日発生した地震により、格納容器にひびが入り、冷却水の漏れが発生し、注入している炉内の水位が下がったため、東電は投入する冷却水の増量を決めた。こうした状態で海洋放出を認めれば、垂れ流し状態の継続を認める事になる。まずは新たな汚染水発生をゼロにすべきである。発生源を放置したままで汚染水を垂れ流すという対策は解決の本質を誤っている。
●対策その2:安全な保管により半減期による減少を待つ トリチウムの半減期は12.3年である。単純計算で半減期の10倍(123年)時間が経過すれば当初の1000分の1になる。更に123年経てば100万分の1になる。ついでだが、今問題になっている高レベル廃棄物は安全なレベルになるまでに10万年必要とされている。これに含まれる放射性物質の半減期が長いからである。 放射性廃棄物処理の基本は「拡散せず、小さくまとめて半減期による消滅を待つ」である。放射能とはそもそもそのようなものだと覚悟すべきである。汚染水は安全な保管を数百年レベルで継続し、半減期で減少するのを待つ必要がある。 このままでは敷地に余裕がなくなり廃炉作業に差し支える、等というのは東電の勝手な言い訳である。なお、保管のためには汚染水をモルタルなどで固化し、事故などによる外部流出を避けるべきだ、という意見もある。
●対策その3:トリチウム水の分離除去技術の開発 汚染水を安全に保管・管理しつつ、トリチウム水の分離技術の開発を急ぐべきである。通常の水とトリチウム水の化学的性質は同じなので化学反応による分離は出来ないが物理的性質は異なる。この物理的違いを利用した分離技術を早急に開発する必要がある。そうした技術開発は既に行われている。
(例1) アメリカのノースカロライナ州に本社のあるGE Hitachi Nuclear Energy(GEH)のカナダ支社の 研究者らは2014年9月23〜25日にアメリカのアイダホ州で行われた第34回トリチウム問題 検討会で「福島の軽水浄化システム」と題する研究結果を公表した。要約すれば軽水とトリチウム水 の物理的性質(沸騰点の違い:軽水は低く、トリチウム水は高い)を使って、蒸留法による軽水とト リチウム水の分離技術を開発し、実際に福島原発の汚染水を一日当り500m3処理できる装置の設 計とコスト計算を行った結果を発表している(1)
(例2) アメリカの原子力研究所、オークリッジ国立研究所は1980年に2極電気分解法と呼ばれる技術でトリチウム水と軽水の分離を行う技術を開発した(2)。電圧をかけた液体の中では分解した水素とトリチウムの移動度が違い(水素は速くトリチウムは遅い)、その違いを利用して水素ガスとトリチウムガスを分離する技術である。
(例3) トリチウム水と軽水の氷点の違いを利用した分離技術も開発されている(3)。これは質量の大きなトリチウム水が軽水より4.49℃高い温度で氷結する性質を利用して両者を分離する技術である。この技術を開発したアメリカ・ワシントン州の研究者Boris J. Muchnik はこの技術に関し日本の特許も取得している(特許公報2008-503336)。
(例4)ロシアの国営原子力企業ロスアトム社は福島原発事故で発生したトリチウム水処理技術を開発した、と発表した(2016年6月7日)。実際規模レベルの設備を構築し、水蒸留法と水素原子交換法の組合せで、一日当たり400m3以上処理可能な施設を完成させた。トリチウムの除去係数は500であり、今後さらに上げることも可能という(4)。
(例5)近畿大学は東洋アルミ(株)との共同研究でアルミニウム粉末を焼結した多孔質フィルターを開発し、これにトリチウム水の蒸気を通すと軽水の蒸気だけが通過しトリチウム水はほぼ100%フィルター内に残った、と発表した(2019年6月)。従来の蒸発処理に比べて低温(60°C)低真空の為安全性が高いという(5)。
(例6)京都大学は酸化マンガンの結晶とトリチウム水を接触させると酸化マンガンの表面でトリチウム水が分解されてトリチウム・イオンになり、酸化マンガンの結晶内に吸収される、という現象を利用した新たなトリチウム水処理技術を開発した。室温で20分間で1.75×105Bqのトリチウムを分離できた、という。勿論トリチウムを吸収した酸化マンガンは低レベル廃棄物として処分しなければならない。この反応は常温で起こるため安全性も高いと言う(6)。
さいごに 類似の技術は他にもあるが、これらは何れも膨大な量の汚染水から物理的性質の違いを利用してトリチウ ム(水)を分離・濃縮する技術であり、濃縮された汚染水(又は吸着材)は前述のように半減期で消滅するのを待つしかない。トリチウム水(HOT)860兆Bq(=8.6×1014Bq)は純度100%に濃縮した場合、その重量は単純計算すればたったの16gに過ぎない。これを長期保管する事には何の問題もない。仮にその量が1000倍に増えたとしても安全な保管は可能である。上に述べた例は何れも実用化に大きな困難はないと考えられる技術であり、その他の技術も含めて国と東電は早急に実用化の努力をすべきである。
文献1 A.Busigin, PhD.,P.Eng. and P.Mason, P.Eng.: Fukushima Light Water Detritiation System; Water Distillation Option. Light Isotope Technology Centre of Excellence. Doc No.:8000-0685. (2014) 2 M. Petek, D. W.Ramey, R .D.Taylor and H. Kobisk: Truitium Isotope Separation fromLight and Heavy Water by Bipolar Electrolysis: COSN-800427-15. 3 United States Patent Application. Pub.No. US 2005/0279129 A1(Dec.22,2005) 4 水からのトリチウム除去が可能にーロスアトム:Global Energy Policy Research(2016年7月19日) 5 汚染水からトリチウム水を取り除く技術を開発:日がh氏日本大震災復興支援プロジェクトから生まれた汚染水対策:近畿大学ニュース(2018年6月26日) 6 Hideki Koyanaka & Hideo Miyatake: Extracting Tritium from Water Using a Protonic Manganese Oxide Spinel: Separation Science and Technology: Vol50,2015. Issue 14. 情報提供 : 愛知連帯ユニオン Created by staff01. Last modified on 2021-04-14 21:37:32 Copyright: Default |