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「なかったことにされたくない」福島の若者たちが訴える

堀切さとみ

 福島原発事故から10年。避難の実態も、被ばくによる健康被害も調査することもないまま、国は再稼働への道を突き進んでいる。「復興」や「アンダーコントロール」というという前に、もっと聞くべき声、知るべき体験がある。

 11月28日、早稲田大学で「福島原発事故から10年の経験から学ぶ」と題するシンポジウムが開催され、事故当時、8歳から10歳だった五人の若者たちが体験を語った。顔を出し名前を明かして語るまでに、どれだけの葛藤があったことだろう。一人一人の体験はどれも重く、今も乗り越えられたわけではないという発言もあった。彼らに寄り添い続けてきた臨床心理士や医師、また、インタビューを通して友人となった大学生らの存在は大きい。避難者の勇気もさることながら、全力で受け止めようとする人々の存在が、このシンポジウムの実現につながったのだと思う。

 8時間に及ぶシンポジウムだったが、彼らの十年に思いを馳せ、最後まで席を立つことができなかった。

 いわき市から東京に避難した鴨下全生(まつき)さんは言う。「2011年3月11日は今も僕の中で続いている。広く降り注いだ放射性物質は今も汚染を続け、元に戻るには僕たちの寿命の何倍もの歳月が必要だ」。堂々と問いかける鴨下さんだが、避難した小学校時代、死にたくなるほどのいじめにあう。それでも親を心配させたくなくて、明るく振舞ってきた。

 鴨下さんだけではない。福島市から避難した阿部ゆりかさんは「福島に早く帰れ」「自分も被ばくすればタダで弁当食べられるのかな」などと言われる。

 双葉町から避難した鵜沼はなさんは、いじめのことについて語るのは精神的にキツイといい、大学生に代読してもらっていた。廊下ですれ違うたび「死ね」と言われ、しばらくぶりに登校すると「まだ死んでなかったの?」と言われた。先生に相談すると「小学生は『死ね』って言うものだよ」「こんな大事にして。はなさんが謝れ」と、信じられないような返事が返って来た。

 いじめの原因は福島から避難したからだ。転校や編入をして、福島から来たことを隠す子どもは少なくない。しかし今度は自分のことを正直に話せない苦しさに追いつめられていく。

 原発事故に対する不安や、自分の体験を語れる場所は、この日本にはないのか。鴨下さんはローマ教皇に手紙を書き、阿部さんは韓国に行って「私は何歳まで生きられますか?」「私は子どもは産めますか?」と訴えた。海外の人たちは全力で共感してくれたが、日本では原発や被ばくについて語るのはますますタブーになっていく。「避難できた自分はまだ幸せだ」とスピーチした鴨下さんは、福島に住む人から攻撃され、阿部さんのスピーチは日本では「子どもにこんなことを言わせるなんて」とたたかれた。

 自分が語ることで誰かを傷つけるかもしれないことに悩み「どう伝えればいいのかわからなくなった」と阿部さんはいう。それでも語り続けようと思うのは「なかったことにしてほしくないから」だ。

 原発避難者になるというのは、子どもたち自身が決めたことでない。それでも彼らは、親たちが選択したことの意味を、自分自身で考え抜いていったのだ。

 後半ではパネルディスカッションが行われ、お互いに質疑応答をした。五人の中には強制避難者も区域外避難者もいて、一人一人の事情は異なるが、避難者どおしが対立するのを乗り越えていこうとする気概が伝わって、胸が熱くなった。匿名で誹謗中傷することの犯罪性や、学校のあり方、伝えないメディアの問題など、どれも彼らの実体験から紡ぎ出されたものだ。アーカイブがあるので、ぜひみて欲しい。

 鴨下さんはいう。「大人たちは、これからを生きる僕たちに、汚染も被ばくも、これから起こりうる被害を隠さず伝える責任がある」と。彼らはこの十年、真正面から現実を引き受けてきた。その行く手を阻む大人にだけはなりたくないと思う。

・被災当事者の体験の講演→https://www.youtube.com/watch?v=cm1hntUNNRY

・パネルディスカッション→https://www.youtube.com/watch?v=rwnGM-oEWH0

12.25レイバーフェスタ「神田香織の福島講談」(鴨下全生さんがトークで出演します)


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