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保健所の過酷な現場 そこに政治はあるのか〜映画『終わりの見えない闘い 新型コロナウイルス感染症と保健所』

笠原真弓

 

 2020年冬、中国の武漢から始まった新しい感染症に日本も見舞われた。これは東京中野保健所の、昨年初夏から今年3月までの10カ月の記録である。
 1波、2波、3波と続くうちに、保健所内はどんどん緊張し、人手が不足していく。SNSに、電話がつながらないなど保健所窓口への苦情が載っていたのはいつ頃だっただろうか。でも彼らはさぼったり、投げやりに仕事をしていたわけではない。電話回線を増やし、保健所の持つ携帯電話を動員し、他部署からの応援に加えて派遣も頼み、家に帰る時間も惜しんでいる。その中で、過労死基準を超えた労働時間。「死に物狂い」で頑張っているという言葉がぴったり当てはまる。それなのに緊迫感はあっても殺気立たない。彼らに心底感謝の言葉が湧いてくる。
 デイサービスでのパンデミック、保育園での園児の発症と緊張が増していく。入院を仕切るのは東京都だが、もう病床は満杯だ。すると保健所自らが、これまでのつながりであちこち連絡して空きをさがし、隙間に入れていく。時に「気管挿管はできないけどそれを承知でなら」という病院の言葉に、医師でもないのに延命をどうするかを家族に告げなければならない。その重責に涙ぐむ保健師。
 そんな中でも、心配りは欠かさない。発病者リストの中に見覚えのある名前を見つけて訪ねると、以前結核で面倒を見た留学生だった。何くれと相談に乗りアドバイスする保健師を、お姉さんみたいだと彼は安堵の笑顔になる。誠心誠意対応している保健師たちの姿が、途切れなく映しだされ、その健気さに私も思わず涙がにじんだ。
 しかし、そんな彼らを守るのは市民だ。それだけではいけないと思う。コロナ禍に対して行政は何をしてきたのか。
 日本の予防医学は、世界でもトップクラスとして知られていた。それを支えていたのは全国に網の目のように張り巡らされていた「保健所」の存在が大きい。それが、結核がほぼ収まった1997年頃から、国は保健所を削減してきた。しかもこのコロナ禍の病院不足のただなかでも病院削減のための予算が組まれた。いまだにコロナは収束せず、今回のような新たな感染症が今後も起こらないとも限らない中で、十分な話し合いがなされたのか。救命の優先順位を決めるトリアージがはじまったという中で、行政としてどうあるべきなのかと、映画を観ながら考えさせられた。
 いずれにしても、日本の、たった一カ所だけの保健所の、期間限定の記録であるが、この世界的大事件の現場の記録は重要な意味を持っている。 ハンディーなビデオカメラと違い、大きなカメラを手持ちで撮影したというその気概にも、驚嘆した。
 この映画はバリアフリーとして作られ、全字幕と音声ガイドがついている。秋以降に、ポレポレ東中野での上映も決まった。
 コロナ禍の一側面であるが、ぜひ見てもらいたい。
 監督:宮崎信恵/100分


Created by staff01. Last modified on 2021-09-02 19:46:57 Copyright: Default

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