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LNJ Logo 映画紹介『茜色に焼かれる』/「自分」を見失わないで生きる
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●映画紹介『茜色に焼かれる』(石井裕也監督・脚本)

「自分」を見失わないで生きる

笠原眞弓

 コロナ禍の中で、映画の撮影も大変です。
 この映画は、それを逆手にとって、コロナ禍の今を舞台に据えました。コロナ禍であろうとなかろうと、人々は懸命に生きているのです。一生懸命働いても、報われない世の中。今の日本は、まるで “貧困”という得体のしれない物質がまとわりついてくるようです。

 自ら選んで、その貧困の中で果敢に生きていこうとする主人公(尾野真千子)。その不器用さが画面から溢れます。軽快な夫(オダギリジョー)の自転車姿のトップシーンに、この物語のべとつかない清々しさを感じさせますがなんと物語はかなり、カナリです。

 ブレーキの踏み間違え交通事故の犠牲になって夫を喪(うしな)い、1人で中学生の息子を育てている妻というか、母? 女性が主人公。その生活を生活費と共に示していきます。彼女はかけがえのない夫を値踏みされたような保険金に傷ついて、周りの忠告にも従わず、受け取りを拒否。時々見舞いに行く義父の施設入所の費用も、夫の浮気相手の子どもの養育費も払い続けています。経営していた喫茶店は、コロナのため閉店を余儀なくされ、昼夜働いても間に合わないくらいです。昼間の仕事は理不尽に首になり、夜の仕事だけに。しかもそれもあるきっかけで、自分から辞めます。

 その昔、彼女が淡い恋心を抱いていた中学の同級生にバッタリ出会って……。

 この母子は社会の底辺にいるにも関わらず、一方的暗さにならないのは、それを自ら選んでいるからでしょうか。息子は学校でいじめにあい、母は思うようにいかない日々に葛藤し、その女友だちは、弱さゆえの辛さにあえいでいます。「愛のない」正義、「これが正義」と信じている世間の正義は、凶器にもなる……。主人公の愛に裏付けられた母の強さをつくづく感じながら、映画館を出ると、空は茜色だったのです。

 計り知れない伸びしろを持つ石井裕也監督の感性に舌を巻いたのでした。彼の近日封切られる韓国との合作映画『アジアの天使』(7/2テアトル新宿他)も捨てがたい作品です。オダギリジョーと池松壮亮、『金子文子と朴烈』のチェ・ソルなどが出演しています。

*144分/5月21日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国で上映中


Created by staff01. Last modified on 2021-06-10 20:20:57 Copyright: Default

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