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緊急拡散★新型コロナウィルスと介護現場〜〜白崎朝子(介護福祉士・ライター)ご本人が「拡散」を希望されていますので、転送させていただきます。(K)
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みなさまへ

お疲れ様です。白崎朝子です。3月から2ヶ月あまりの短期間で6本も新型コロナウィ
ルスと介護現場の実態について、さまざまな運動系機関紙や媒体に原稿を書いてきました。
しかし日々事態は深刻化し、医療現場に比して、介護現場の仲間たちの声や苦闘はあま
りにも報道されていません。

介護職以外の複数の友人たちから、ネット等で広く拡散した方がいいと進言されました。
雑駁ですが、拡散されることを前提に、記事を書いてみました。
記事に書いたことは、介護現場ではどこでも誰にでも起こりうる普遍的な実態だと思っ
ています。
みなさまのネットワーク等で拡散して、介護現場の仲間たちをどうかご支援ください。(5月14日)
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新型コロナウィルスと介護現場    白崎朝子(介護福祉士・ライター)

 コロナ禍で高齢者の在宅生活を支えてきたデイサービスが次々休業に追い込まれ、最後の砦の訪問介護も60代以上の非正規の女性たちが支えている。身体介護は濃厚接触で、感染リスクが非常に高いが、医療職のようには注目されず、介護崩壊の危機に晒されている。

■はじめに

 4月24日のAFP通信によれば、新型コロナウイルスに関連する死者のうち介護施設の入所者が占める割合は、フランス:49.4%(4月15日現在)、ベルギー:49.1%(4月16日現在)、ポルトガル:33%(4月17日現在)、スペイン:53%(4月17日現在)だという。

 5月12日のニュースでも感染者は減っているのに、高齢者の死亡者は減っていない。国内の感染者が減っても、これから施設におけるクラスターは増大していくと私は推測している。

 5月11日の国会で共産党議員が総理に向けて訴えていた統計では、現在の感染者は医師143人、看護師363人に対して、介護現場の職員は453人と医師の3倍以上となっている。

 私は2月24日から首都圏や関西のネットワークを中心に、コロナ禍と闘う介護職員の声を聴いてきた。国の無策に翻弄されながら奮闘する仲間たちの姿を報告する。

■報道されない現場の実態

 3月6日、三鷹市のあるデイサービスが休業となり、そこで働く非常勤職員の女性は、約2ヶ月間、無給での自宅待機を余儀なくされた。単身で子どももいないため国の助成も対象外だった。

 私は2月末から、デイサービスが一番大変になるだろうと思っていたが、予想以上に深刻な事態になっている。(休業中の高齢者のショートスティやデイサービスは全国で858ヶ所。4月下旬、厚労省発表)

 関西のケアワーカーズ・ユニオンの志賀直輝さんは、3月から新型コロナウィルスによる休業補償について勤務先の法人と団体交渉を続けている。10割の補償を要請し、6割という回答を得た。4月からは危険手当や、自宅に帰れなくなった場合の補償も求めている。3月には、学校休校のため、有休が無くなった職員の対応などにも追われた。認知症対応型のグループホームで働く住み込みの技能実習生の女性たちのために、雇用主に消毒液やハイターを要求したが全く支給されなかった。

 また、妊娠中の病院受付の職員は、安物のビニールカーテンごしで患者対応をさせられているという。
 医療知識のある病院ですら、感染したらリスクが高い妊婦に対して、配置転換等の安全配慮義務を怠っている。
 病院の夜間受付勤務のシングルマザーの友人は、バイトだからとマスクが1枚も支給されず、身の危険を感じて休職した。 

 コロナ禍の影響での解雇や経済困窮が、介護家族や利用者にも打撃を与えている。介護保険の利用者負担が払えないため、サービスを減らす家族が増加している。密室で介護を余儀なくされた家族による虐待は、DVや児童虐待同様にハイリスクだ。認知症の親に食事を与えずに放置している例も耳にした。

 一方、感染予防に神経をすり減らし、雇用も不安定な介護職員の疲弊も深刻さを増している。やり場ない怒りを利用者に向ける職員もいる。
 施設内で虐待が増加する可能性は高いが、現在、家族は面会謝絶となっており、虐待が起きても隠蔽しやすい状況にある。

 むろん多くの職員は献身的に対応しているが、コロナ禍以前から、利用者を虐待する同僚を私は何人も知っている。隠蔽工作に走る施設長や会社、私が内部告発しても動かない労働組合や自治体も見てきた。水面下での、虐待が悪化している可能性は高い。

■自分のマスクを利用者に…

 都内の訪問介護ヘルパー藤田さん(仮名)は、発熱した利用者にマスクがなく、なけなしのマスクを利用者に提供した。事業所からの支給は布マスク2枚と使い捨てマスク5枚。「仕事で使う分は請求してよい」と言われても入手は困難。無防備な状況下で、退職者も出ている。「利用者もヘルパーから感染するのではないかと、不安にかられています」と藤田さん。

 2月末から、「マスクや消毒薬がない!」という介護現場の友人たちからのメールが絶え間なく届いている。製薬会社勤務の知人は、「消毒薬は儲からないため地方の中小企業しかつくっておらず、大量生産ができないと複数の問屋から聞いています。東日本大震災のときよりも深刻な事態になるでしょう」と言う。

 3月末、利用者100人の知的障害者施設Aや小規模の訪問介護事業所などに、厚労省から布マスクが「5枚」送付された。4月初旬、施設Aに都の福祉保健局から使い捨てマスクが1500枚送付されたが、10日しかもたない量だった。施設Aの職員は、「ただでさえ忙しいのに、布マスクは消毒や洗浄が大変。その割には予防効果が薄いから使っていません」と話す。

 同時期に、都内の特別養護老人ホームの利用者・職員に各1枚の布マスクが届いたという。使いものにならない布マスクを忙しい介護職員たちが、解体し縫い直して使っているという声を複数耳にしている。

 また国から布マスクが支給されたからとサージカルマスクの支給をしなくなったのは、日本介護クラフトユニオン加入の大手企業が経営する大阪の有料老人ホームだ。

 「役所も保健所も非正規化し、肝心の防疫対策ができる人が少なく、物資が後回しにされているようだ」との声も聞く。不足が叫ばれてから3ヶ月……。最近、市場には出回ってきているようだが、介護現場のマスク不足は深刻化していて、足りているという話は耳にしない。

■『検査難民』化する介護職員

 私の息子が勤務する都内の障害者施設の施設長は、4月4日から2週間発熱と解熱を繰り返した。発熱してすぐ住居地(都外)の保健所に「福祉施設の管理職でクラスターにつながる」と掛け合うも、PCR検査は受けられなかった。東京なら産業医の紹介で検査が受けられたが、39.4℃の熱で動けず、37℃に解熱したときには待機者が数千人に膨れ上がっていた。
 「検査の精度は100%ではない。もし陰性なら検査に行って感染するリスクが高い。自宅療養して体力が回復したら血液検査をし、職場復帰した方がいい」と産業医に言われ、PCR検査は断念した。

 血液検査とCTでは異常はなかったが、別な医師は、「肺に異常がなくても上気道感染している可能性もある」と検査の必要性を訴える。検査の必要な福祉支援者が『検査難民』になっている。
 「クラスターになるのは時間の問題。いつ自分が感染してもいいようにシミュレーションしている」と言いながら、息子は施設長の分も仕事をこなし施設長不在の現場を支え続けた。施設長は5月1日に職場復帰した。だが、まだまだ予断は許さない状況だ。
 医療、福祉職、そしてその同居家族には症状の有無に関わらず、全員にPCR検査を義務づけるべきだ。特に介護職は、フィジカル・ディスタンスやテレワークなどは絶対にできないのだから。

■介護職員に特別手当を!

 4月15日、福岡市が介護職員へ特別給付金を支給すると発表。医療従事者へは、危険手当や診療報酬の倍増という報道もされた。東京と埼玉の訪問介護事業所が、マスク・防護服の優先的支給、感染者・濃厚接触者への訪問介護に対する介護報酬や特別手当、ヘルパー不足を解消する対策を早急に打ち出すことを国に要望した。

 4月24日には日本介護福祉士会が厚生労働大臣に「新型コロナウィルス対応に関する要望書」を提出。それに賛同した介護福祉士有志の会が「新型コロナウィルスに伴う介護職支援」の署名活動をスタート。5月17日締切で5万筆が目標という。

 大阪を中心に障がい当事者やサポーターで構成する「障がい者の人権を考える当事者の会 Future〜みらい〜」は、厚生労働大臣と大阪府知事・大阪市長(各市長)宛に「新型コロナウイルス対策についての緊急の要求書」を提出予定だ。

 また5月12日には、政府全体と厚労省に対して、障がい当事者や支援者のネットワークで構成する、「骨格提言」の完全実現を求める大フォーラム実行委員会が、「新型コロナウィルス感染に関する要請書」を提出した。東京都にも提出予定だ。

■介護施設で起きたクラスター

 現在、国内最大のクラスターは千葉県の障害者福祉施設、北総育成園。 4月27日現在、121人に感染が拡大している。だが病院に比して、福祉施設のクラスター報道は極めて少ない。報道規制が敷かれているのではないか……と仲間たちと話している。

 4月25日22時、ケアマネジャー原田さん(仮名)からのメールに、私は凍りついた。彼女の担当する利用者Cさんがショートステイした特別養護老人ホーム(以下、特養B)で、新型コロナウイルス陽性者が9人(死者1人)も出たという。同じ法人のデイサービスとショートステイは休止。利用者のCさんは感染が拡大していた17〜20日にショートステイを利用していた。

 Cさんは訪問介護、訪問看護、訪問診療、デイサービスを利用していたため、帰宅翌日の21日からサービスを再開した。もしCさんが感染していたら、接触した支援者、その支援者が担当している利用者やその家族、支援者の家族にも影響する。デイサービスだとCさんが接触した利用者や職員が少なくとも30人以上はいる。果てしない拡大の様相が目に浮かび、血の気が引いた。

 ネットニュースによれば、その特養では15日〜21日に10人発熱。25日に9人陽性。22日に70歳の人が死亡していた。原田さんがクラスターの詳細を知ったのは、25日に自治体の危険管理情報センターからきたメールでだった。
 翌朝、原田さんは特養Bに連絡し、Cさんがいた同じフロアから感染者が出ていたと初めて知った。CさんはPCR検査の対象となったため、原田さんはご家族と相談し、デイサービスと訪問介護サービスを休止する決断をした。 

 本来、ケアマネジャーにはサービスを止める権限はないという。だが原田さんの知るヘルパーは、会社からマスクと手袋を支給されても、毎日交換できる量はなく、数日使ってから処分していた。ヘルパー自身が感染リスクをおして、薬局に並んで自腹を切ってマスクを購入しているような状況だった。いまは使い捨て手袋が入手困難となり困っている。防護服もないため、感染リスクのある利用者対応はできないのが実態だ。

■指示系統もガイドラインもない現場で……

 Cさんが感染していたら、デイサービスだけでなく訪問介護や訪問看護も中止になる。だが利用者や家族にはそのことへの理解がないという。
 利用者が感染した場合、同居家族も仕事や外出ができないと説明しても、わからない家族も多い。
 原田さんは、医療と介護の感染リスクに対する意識や考えの違いが身にしみた。それが今回の特養からの連絡遅延につながったと考えている。すぐにショートステイを中止する判断を施設がしなかったため、感染は拡大。5月7日時点でのPCR陽性者は、入所者36名、職員6名、ショートステイ利用者は4名。ショートステイ利用者を通して、地域に感染リスクが拡がった。
 「私も関係者にどこまでリスクを説明するか迷いましたが、その迷いが感染拡大につながるのです」と原田さん。子育て中だが、連絡調整に追われゴールデンウィークは一日も休めなかった。

 2ヶ月半取材を続けてきたが、Cさんの件は私が取材したなかで最も苛酷な事例だった。だが、現場を必死に支えている介護職員が感染しても、きちんと補償されるのだろうか? 院内感染した看護師で、PTSDになった女性がいると報道されたが、本来それは労災のはずだ。
 幸いにも陰性だったが、もしCさんが陽性だったら、原田さんの心身の負担は計り知れない。利用者と共倒れにならないためにも、介護職員には自衛してもらいたい。サージカルマスクすら供給できない国が、現場を守り、責任を取るとはとても思えない。

 コロナ禍以前から、特に大企業の介護事業所は職員を使い捨ててきた。使い捨てられた職員の多くは非正規の女性たちだ。感染しても労災が適用されるかも怪しい。私自身が懸命に働いても雇用の調整弁にされたり、賃金引き下げの対象となった経験があり、コロナ禍が介護現場の女性たちに与える影響の甚大さに戦慄を覚える。特養Bの感染者はさらに拡大し、千葉の障がい者施設のようになる可能性があると私は見ている。

■おわりに

 5月8日、シングルマザーの看護師がコロナに感染したが、職場の協力を得られない等の複合的理由で、労災申請ができないというニュースが流れた。中島由美子さん(全国一般労働組合東京南部委員長)は、「厚労省は『感染経路が不明の場合でも、業務の内容によっては、広く業務起因性を認め、労災として認定する』という方針を示しています。事業主が労災申請に協力しなかったり、労災を隠したりするケースもあるかもしれませんが、事業主が証明を拒否しても、労災申請は労働者個人でできます。積極的に労災申請をして欲しい」とコメント。
 厳しい現状だが、介護職員には、現在ある制度を活用し、自身の人生と尊厳を守って欲しい。それが、なによりも利用者を守ることにつながるからだ。

 そして私がここに報告した実態は、5月13日時点での氷山の一角に過ぎないことを記しておく。
 人類が過去に経験したことのないパンデミックは、介護が必要な当事者や、現場で働く仲間たちの人生を変えていくだろう。
 いまはまだ展望は見えない。だが、一瞬一瞬を懸命に生き、そこに希望と解放をつないでいきたい。 

※現場の実態について、よろしければ情報をお寄せください。astrumanimus-asa4013(あっと)ezweb.ne.jp

    しらさき・あさこ………1962年生まれ。介護福祉士。
    ケアワークやヘルパー初任者研修講師に従事しつつ、反原発運動、女性労働、旧優生保護法強制不妊手術裁判支援などの諸活動と執筆を続けてきた。
    著書『介護労働を生きる』、編著書『ベーシックインカムとジェンダー』(共に現代書館)。2009年、平和・協同ジャーナリスト基金賞の荒井なみ子賞受賞。

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