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レイバーブッククラブの例会は、2020年8月1日にオンラインで開催されました。10人が参加しました。取り上げたのは、藤原辰史氏の『給食の歴史』(岩波新書、2018年)とネットで話題になった「パンデミックを生きる指針」(B面の岩波新書)でした。会には現役の給食調理員も参加し、さまざまな角度からディスカッションが行われました。岡山県から参加した森健一さんが、以下、感想を寄せてくれました。なお次回例会は、9月26日(土)午後2時〜オンラインで行います。詳細後日。(ブッククラブ事務局)
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藤原辰史『給食の歴史』合評会に参加して

              森 健一

 私が同書を読み、コメントしたいのは、次のことでした。一つは、1965年6月、『毎日新聞』の「山形県のへき地校に完全給食を」の声に、首相の佐藤栄作〔1901年〜75年〕が「このような問題こそわれわれの考えるべきことだ」と応じている箇所です(176頁)。佐藤栄作は、同年「沖縄の祖国復帰が実現しない限り、わが国の戦後は終わらない」と那覇空港で演説しているのですが、全国の津々浦々で何が起きているのかを配慮し、保守政治家として心を砕く「度量」がなお、あったと思うのです。

 ところが、今日、首相の安倍晋三が、2月末、「3月2日から春休み」にと全国一斉休校をいきなり求めたことに対し、首相官邸はもとより、文科省の次官も全国の教育委員会も反対せず、これに粛々と従ったことです。学校が急に休みになれば、学校給食が唯一のバランスよい栄養ある食事という子どもや家庭では学習が困難な子ども、新型コロナウイルスとは隔てられている離島や山間地の学校の子ども・・、彼らの目には浮かんでいないのだと思いました(政治家、官僚、学校関係者も劣化・・)。

 松原明氏も、霞が関、厚労省の官僚らに要請に行っても、端正なスーツで固めた彼らには、多くの国民が、生活の端々でどういう境遇、状態にあるのか、およそ想像が出来ていないな、と痛感するそうです。彼らの多くは、中・高一貫のエリート私学にあって、公立中学などで様々な生活背景をもつ子どもと遊び、交流して、社
会を身で知る機会を持たなかったと思います。

 テーマの「給食」は、ともに同じ食事をとることで「人としての平等」をじかに知る場でもある訳です。もう一つは、合評のなかで、吉田裕『日本軍兵士』(中公新書、2017年)を引いて、日本軍は、歯科を軽視していて、将兵らはせいぜい「正(征)露丸」(クレオソート)を詰めるくらいで、虫歯に悩んだとの叙述が、この合評会で紹介されたことでした。

 私は出典を忘れたのですが、歴史的に米(海)軍は歯科を重視していて、歯科の専門部隊があり、将兵の口腔(こうくう)衛生に特に配慮している。これは、戦後、学校給食を置き土産にした、GHQの医官で准将のクロウフォード・サムス(1902年〜94年)が、軍隊として占領統治の遂行のためにと、学校給食を重視したこと(93頁)にも通じます。きわめて合理的な訳です。ところが、今日、武漢に由来すると言われる、新型コロナ禍によって、世界最強の米第7艦隊(中国を見据えた西太平洋に展開)が機能不全に陥って、トランプ政権は有効な対応策をとれないでいる。きわめて象徴的だと思います。

 最後ですが、2016年夏、連合鹿児島ユニオンとして福岡や大分のユニオンと共に、韓国・ソウルの民主労総本部を訪問、交流しました。「韓国の学校給食は日本により良い」と聞き、給食のありようは、時々の階級関係、民衆の力量により進みもするし、後退もすると実感しました。国政や地方政治を変えて、学校給食を良くすることは、子どもの貧困問題にどれほど私たちが取り組めているのかの指標になるのだと思います。

Created by staff01. Last modified on 2020-08-26 11:10:33 Copyright: Default

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