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*レイバーネットMLから 北穂さゆり

4月9日のNHKクローズアップ現代+「都市でバス減便なぜ?あなたの生活に影響が▽運賃 値上げ」をご覧になった方がいらっしゃるでしょうか。 この4月から東京をはじめ全国421便の路線バスが減便されています。ほとんどの減便が通 勤通学時間帯に行われているので、不便に感じる方多いという報道でした。 〈バス減便問題の原因は運転手不足〉 わたしは家族が路線バスの運転手をしているので、興味深く番組を見ました。 しかし番組のほとんどの内容は、バス減便に至る現状とは関係ない話題だったので、非常 に残念におもいます。 バス減便の原因は運転手不足です。その理由はバスの運転手になりたい人が減ったのと、 バスの運転手を辞める人が増えているからです。 運転手になりたい人が減る理由としては、免許を取る人自体が減っていることや、賃金に 見合わない人命を預かるという重責を避ける傾向があげられますが、運転手が辞める原因 はただ一つ、賃金が安すぎることです。 〈運転手不足の原因は低賃金〉 番組では一か月に220時間働いた40歳台の運転手が手取り23万円の給与明細を見せていま した。 バス運転手は一回の乗務を終えてから、8時間あけないと次の乗務ができない(法令上) や、最大12日以上連続勤務ができない(家族の会社の場合)などの制約があるので、220 時間勤務というのは残業や休日出勤を最大限こなした勤務時間です。 残業休日出勤をしての23万円というのは40歳台で妻子のいる男性であれば、生活していけ ない金額だとわたしは思います。 バスの運転手というのは、朝は3時半に目覚ましをかけて始発バス乗務のために出勤し、 最終バス乗務を終えれば深夜2時に帰宅する仕事ですから、運転手はイクメンにはなり難 く、子どものいる家庭では妻がフルタイムで働くのは難しい。 だから結局、20歳台30歳台でバス運転手になった男性運転手が、結婚し子どもが生まれて お金がかかるようになると、経験を積みせっかく熟練した運転手になったのに、やむなく 辞めていくことになるのです。 要は、バス減便問題は労働問題以外のなにものでもないということなのです。 運転手が辞めるのは賃金が安すぎるからなのだから、賃金を上げればすぐに解決します。 〈運転手低賃金の原因は大手バスグループ解体〉 話はかわりますが、わたしの高校大学の親友だった「ユミちゃん」のおとうさんはバスの 運転手でした。大手電鉄系のバス会社に勤めていて、娘のユミちゃんは私立高校からわた しと同じ私立大学へ進学しました。当時彼女は交換留学で北京大学に留学することを夢見 ていましたが、天安門事件の影響で大陸への交換留学募集がなくなり、かわりに台湾へ私 費留学しました。わたしもユミちゃんが行くなら寂しくなるからいっしょに行きたいぐら いに思っていましたが、交換留学でなければ莫大な費用がかかるから、ふつうの公務員家 庭の娘のわたしには無理な話でした。 ユミちゃんは何年台湾にいたか…留学中に篆刻という技術を取得して、今は希望どおり、 国交のない台湾と日本との架け橋となる商事会社で働いています。ユミちゃんは自分の父 親がバスの運転手だなんて恥ずかしいといつも愚痴っていました。しかしユミちゃんパパ は中学校を卒業し、金の卵として東京のバス会社へ就職、結婚し、生まれた一人娘の夢を かなえて彼女を世界へ羽ばたかせたのです。終生自家用車は持たず、車は危ないもの、車 の運転は大嫌いだとぼやいていた父親だったと聞いています。 このユミちゃんパパが運転していたバス路線の沿線にわたしは住んでいます。当時のおと うさんの収入がいくらだったか想像するしかありませんが、現在、その会社の運転手の月 収は税込みたったの17万円です。近所の人が「あのバスの運転は荒くて困る」など言うと 、わたしは「〇〇バスの運転手の給料17マンエンだよ」と教えてあげるのですが、そうす ると大抵のひとは黙ります。その給料で運転してくれているのなら、触らぬ神に祟りなし の心境で乗るしかないわけです。 ユミちゃんのおとうさんのバス会社だけでなく、日本中の運転手の給料はここ20年〜30年 の間に、一千万円プレーヤーのいる世界からあっという間に17万円〜になってしまいまし た。バスの運賃は平成になってからも数10円しか上がっていません。大手電鉄のバブルが はじけて経営をスリム化していく段階で、200円で人を乗せる路線バスはお荷物になり、 電鉄はバス路線子会社を切り捨てていきました。切り捨てられて乗客からの運賃と自治体 からのわずかな補助金で経営しなければならなくなった元大手電鉄子会社は、運転手を最 低賃金で雇わざるをえなくなります。 さらに労働組合のある大手電鉄系バス会社本体も、デパートやらリゾートやらが経営不振 ですから、ユミちゃんパパのような高い給料でバス運転手を雇うことは難しくなりました 。 だから徹底的に人員を減らしていきます。そして人員を減らして、あるバス路線が運行で きなくなると、その路線を子会社や他のバス会社へ受託するのです。同じように低所得者 や高齢者、障害者福祉目的の意味合いが強い公営バスも、低料金で運行し続けることには 限界があり、運転手を減らしています。そうして運転手を減らして運行できなくなった路 線は、民間バス会社へと受託します。 〈運転手低賃金の最悪元凶は受託制度〉

この受託という制度がバス運転手の賃金待遇に最 悪の「格差」を生んでいる元凶なのです。ひとつの例をあげると、公営バスの運転手は公 務員ですから、現業職として優遇された賃金が決まっています。ある都市の公営運転手の 賃金は日本の平均賃金年収500万円程度より高い600万円台といわれています。一つの路線 を受託する際には、行政はこの600万円を運転手一人の人件費として、路線を運営するの に必要な人数分、受託会社に支払います。受託会社はこの人権費600万円から200万円程度 を会社運営費として抜いて、運転手には年収400万円程度を支払います。 これが受託という仕組みで、受託会社は一日バスを走らせても一台30万円にもならない運 賃と、受託人件費からハネた200万円×総運転手数の収入で運営されています。 また多くののバス会社が観光事業をしていますから、そちらで路線バスとは比較にならな い収益を上げる場合がありますが、このようなバス会社運営は、多くの会社が天下りを受 け入れて人間関係で成り立っていますから、その方々の高額な給与や退職金にも大金がか かるせいか、どんなに観光で儲かっても、一運転手には還元されない仕組みです。 また、公営バスの運転手であれば収入が年功で上がっていきますが、民間バスの運転手に は昇給というものがほとんどありません。労働組合もないところが多く、春闘はもちろん 定期昇給という言葉を知らない運転手も多いかもしれません。 この公務員運転手や大手電鉄系バス本体運転手と普通の民間バスの運転手の賃金格差が、 運転手が辞めていく最大の原因です。路線バス運転手は駅前停留所などに全路線バス共同 の休憩所があり、そこで情報交換をするので、どの社がいくらの給料であるかを皆よく知 っているから、低賃金運転手は朝から3時に起きて出勤するモチベーションがバカバカし くて失せるのです。 〈無人運転と外国人労働力は運転手不足の対策にならない〉 NHKクローズアップ現代+に話を戻すと、番組では運転手不足への対策として、昨今よく 話題になる無人運転をあげていました。しかし技術的というよりも、バスというサービス の形態上、まったく無人というわけにはいきません。だから運転できなくても誰か人が乗 務することになります。(モノレールは自動運転に近いですが、無人ではありません) 運転手は運転手だからといって特別多く給料をもらっているわけではありませんし、運転 しない車掌であっても人命を担う責任を負う仕事には、結局人が来にくいでしょう。公務 員運転手や大手高給バス運転手のかわりの無人運転というのはある程度役立つかもしれま せんが、すでに公務員運転手が運転している路線など少ないのですから、やはり意味ある 対策とは言えないと思います。 さらに番組では外国人労働力への期待を上げていましたが、日本で運転手をして稼ごうと する外国人はすでに日本に大勢来ていて、真面目な人はタクシーや観光バス業界に参入し ています。真面目じゃない人は、好き勝手に違法の白タク商売をしたりする。看護や介護 は外国の専門大学でまなんだ優秀な人材が日本に労働力としてくるのでしょうが、日本よ りずっと簡単にバス免許が取れる外国からくる運転手の質はいったいどうなのでしょう? 〈バス全路線公営化か受託制度透明感か〉

わたしの家族に話を戻します。彼はもともと運 送会社で働いていましたが、バス会社に転職したときに給料は半分になりました。彼は運 転に天性があるタイプで、バスの免許を取るのにかかった費用は25万円ぐらいで済みまし たが、ふつうの人だとバスの免許を取るのに40〜50万円ぐらいかかります。こんな大金を かけて給料17万円〜の仕事に着くのは、どうかしてるのではないかと思うぐらいです。 しかし、有史以来、駆けるものを好く男という生きものは絶えることなく、車が好き、運 転が三度の飯より大好きな男子はどこにでもいるものです。 家族の夢はバスの運転手になることでした。18歳のときから運転一筋で、教習所に通う余 裕もなく、実地でおぼえながらやっと自分の描いた夢を生きる彼に給料のことは言いにく いです。彼はバス運転手を辞めないでしょう。そこにたいした意味はなく、ただバスが好 きだからです。 彼の会社にいる運転手はそんな人が多く、人生の採算を考えずに好きだからバスを運転を している。 しかしそんなことができる幸せな境遇の人は限られていて、そういう物好きな人たちの好 意に甘えていれば、この国の路線バスは間違いなく廃れてしまいます。いまはわたしは路 線バスには縁のない生活ですが、歳をとって自家用車の運転ができなくなったら、やはり バスに乗って通院や買い物をしたいから、廃れてしまってはこまります。 そういうわけでNHKクローズアップ現代+に希望を託していましたが、番組ではなんの希 望も持てませんでした。 なので仕方ないから、家族に気持ちよくバス運転手を続けさせるため、わたしが賃金を上 げる方策を考えるとするなら、全路線バス公営化、これは近い政策が保育の分野で実現す る動きがあります。 あるいは受託制度を存続するなら、時代遅れの天下りを廃止し、受託システムを透明化す る。さらに受託にかかる費用をあと一人100万円程度上げて、民間バスであれば公的資金 を導入し、運転手に還元、人並みの生活を送れるようようにする。路線バスは運賃だけで はたいした収益にはならないので、運転手の賃金を上げるには永続的な公的資金の導入が 不可欠です。 公的資金導入のためには、不透明な受託制度を透明化すること、さらに納税者の不審を買 う天下り的人事を、李下に冠を正さずと、潔く撤廃することです。 それができなければ、運転手はさらに減り、バスはさらに減便されることになります。報 道にもあったように、減便は通勤通学時間帯のラッシュ時に間引かれ、市民生活はダメー ジをこうむります。 そういうことをどこかのメディアがしっかり取り上げてほしいものです。今回はNHKの番 組を見てイラっとしたので、さすがに問題提起させていただきましたが、このあとは取材 力のあるどなたかに、しっかり調べてほしいと期待しています。

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