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民主主義を守る図書館〜ワイズマン監督『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

    笠原眞弓

 私は普段、図書館を利用していない。遠いのと、家にある古い本みたいなものしかなくて、中高生が勉強しているそばでお年寄りが新聞を読んでいるばかりの辛気臭い雰囲気だからだ。きっとそれは活用法を理解していないからだろうけど…。

 日本の図書館は、公立だったはずだけど、いつの間にか民間企業に委託するところが増えてきた。司書も専門性が評価されているのかいないのか、正職員から嘱託に代わったところもあるようだ。公立の良さを捨て、効率と経費削減を錦の御旗にしていると聞く。後世に残すべき書籍や資料が、ないがしろにされていないか心配になるのは、私一人ではないだろう。

 ニューヨーク公立図書館は、天井が高くて、広くて、古い建築様式の素晴らしい建物だ。こんな建物なら1日といわず、何日も入り浸りたい。庭も広くて、気持ちよさそうで素敵だ。

 しかも、本を読んだり借りたりするばかりでなく、考えられない種類の講座やグループがある。この映画って、公民館ではなくて図書館のことだったよねと、何回も念を押したくなるのだ。

 書籍や資料を集め、整理している部門と、88ヵ所の分館とからなり、分館はそれぞれの地域のニーズに合わせたプログラムを立てている。運営は寄付が基盤にあって、州と市も費用を出すという「公共」の仕組みなので、必要経費を市が出すかどうか、何をなすべきか模索し、成果を確認しあってもいる。

 図書館のそんな様子をフレデリック・ワイズマン監督は、3ヵ月間図書館内部に深く入り込んで撮り続けた。監督はこれまでもパリのオペラ座や英国のナショナルギャラリーを同様の手法で撮っていて、見ている私たちにも監督の興味深々が伝わってきた。今回も「なぜ」とか、「すごい」と思っているうちに、2時間半の長尺の映画は終わっていた。

 冒頭、ユニコーンについてや自分の移民のルーツの調べ方など、何でもありの電話問い合わせに丁寧に答える姿や学習のサポート方法を話し合う職員に、ある意味感動すら覚えた。

 「図書館は書庫ではない」と言いつつも、膨大な蔵書はもちろん、資料、写真、地図、フィルムなどを日々整理しているし、デジタル化に利用者が対応できるようにマンツーマンの指導もしている。

 魅力的な人たちが登場する文化講座は、わざと入口近くに設定してドアを開放している。誰でもが入りやすくという配慮だ。幼児教室のような、親子参加のプログラムなどもある。

 黒人文化研究図書館では、移民の歴史的検証の講座が開かれ、別なところでは、点字の読み方・打ち方の指導や手話通訳つき朗読会などが紹介されていく。識字教育は幼児から大人までとか。見ていくうちに、そのような企画によって、図書館はさらに利用されていくことが分かってくる。

 つまりここは、文化の発信地でもあり、それを受け止める土壌づくりもしているといえるのだ。今でも新規移民の多い国で、識字教育は欠かせないし、そこに力を入れることで市民の生活レベルは向上し、経済効果もあれば治安もよくなるだろうから。

 心の空腹を満たす仕掛けは、多角的であるほうがいい。だから、それらと平行してディナーパーティー、シニアのダンス教室などもあると納得できる。

 つまりこの図書館は、彼らが言うように民主主義の柱であって「公共」なのだ。

・監督:フレデリック・ワイズマン 205分/5月18日〜7月5日まで。岩波ホールほか全国順次ロードショー


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