2019年4月20日(土) レイバーブッククラブ
参加者5人 ブックカフェ二十世紀(写真)
取り上げた本『82年生まれ、キム・ジヨン』
著:チョ・ナムジュ/訳:斎藤真理子 筑摩書房刊
<参加者からの感想> 報告・柏原康晴
●韓国社会の様々なリアルな社会データをストーリーに入れ込みながら、キム・ジヨンの
人格が憑依(ひょうい)してしまう謎が興味を持たせて最後まで引っ張る、語りとしての
まとめ方、読みやすくよく出来た小説として感心した。自ら選んで読む本ではなかっただ
けに、今回の選書にとても感謝している。韓国より日本社会の方が女性差別や格差がはる
かに酷いのでは? とも思った。(これについては意見交換の中で見解が分かれた。)
●物語にありがちなスペクタルな出来事ではなく、日常ありふれた細やかな事として淡々
と描かれている。作者が韓国MBSテレビの看板報道番組「PD手帳」の放送作家出身だけに
、伝え方の工夫が秀逸。学校での理不尽な扱いにはクラスメイトが教師に意見し抗議する
、少しずつより良い方向へ変えていく体験が描かれている。高校時代に同じ予備校の男子
学生にストーカーされた時に、救ってくれた年上の女性が主人公に「あなたは何も間違っ
たことをしていない」と言ってくれて泣き崩れるシーン、日本と同じく被害者が周囲から
自らの(ありもしない)落ち度を責められたり、過剰な自己責任に苛まれる社会に生きて
いることを示している。
●乖離現象〜憑依する理由が最後まで提示されてないことも、読み手としては想像の余地
があって良い。個人のアイデンティティを持ちつつ同時に社会で女性の役割が否応なく変
わる、家父長制を通した日本との類似と差異なども。国民学校で隣の席の男子から受けて
いたいじめを先生が厳しく叱ってくれ、味方だと思いきや、社会のセクハラ加害者と同じ
ダメなテンプレ言い訳を先生の口から言わせる奈落。キム・ジヨンの母親が呑気な父親へ
向かって啖呵を切るシーンは痛快。読み進むごとに強く共感し、首が赤ベコみたいに激し
く頷き続けた。韓国政府の女性省はじめ女性政策の実態は、日本同様に社会の中で女性を
資源としか見られていない気がする。男女の意識の非対称性について。日本版のカバーイ
ラストの意味合いと、ミラーリングの手法に納得。キム・ジヨンの物語のその後を想像し
、今後の自分と重ね合わせたりもする。
●男性女性の圧倒的な非対称性と、自分の記憶の中でこれまで諦めた事を思い出した。読
みやすさフェミニズムの啓蒙に優れていて良い意味で万人向けの教科書。祖父母の世代と
、物語の後半に事業を始めた母親の意識の変化、経済力と自信。娘に教育を受けさせる重
要さを描いている。家庭と職場仕事の残業をこなしてきた私自身の日々を思い出した。韓
国の兵役制度、除隊後も続く厳しい上下関係や、男性社会のミソジニー(女性憎悪)に関
係性があるのでは?
●参加者の共通意見として、「読みやすく優れた作品であること。日本語翻訳者の力量も
大きい。男性・女性問わず多くの人に読んでほしい」」とのことだった。
●私個人としては・・・同時代に同じ社会で生きている女性が日々受けている理不尽さに
対して、まだまだずっと鈍感で無神経だろうなと、それで読後に深い傷を負わずに命拾い
したかもと。自分を含めた日本社会の中高年男性がいかに不誠実で、被害者を切り捨て続
けて、問題に向き合わずバカなフリをして日々ヘラヘラとやり過ごし、責任逃れや組織の
ポジションを守ることを最優先で暮らし、右肩下がりの泥舟に乗っているか、311後によ
うやく物心ついて来た今日このごろです。
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*次回は6月1日(土)14時ー16時 ブックカフェ二十世紀(神田神保町)
取り上げる本は『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(光文社)です。
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Last modified on 2019-04-21 19:07:57
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