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「ストする」ことの解放感!〜『ストする中国』日本語版に寄せて

   北健一(ジャーナリスト)

*2010年、中国ホンダ労働者のストライキ

 中国で頻発するストライキの内情を、ストに参加した労働者への聞き取りから明らかにする『ストする中国』(郝仁 編 レイバーネット日本国際部訳編 石井知章 解説、彩流社)を、ある研究会で買い求め、ようやく読了できました。

 読みやすい本とはいえません。中国が「ルイスの転換点」を迎えたとされる頃(2011年)に同国で非売品としてひっそり出され、その英訳から重訳していることもあってか日本語の文章がイマイチこなれず、当時の中国の事情がわからないためか、本文の意味や背景がどういうことかわかりにくい点が散見されるからです。

 そうした制約を補ってあまりあるのが、本書に登場するストした中国人労働者たちの生々しい経験であり、それについての飾りのない語りです。読み進むうち、聞き取りに同行しているような気持ちにさえなってきます。農村から都市にやってきた労働者の身分的不安定、長時間労働や安全衛生に不備など過酷な労働とご飯が炊けていなかったり麺に虫が入っていたりといった生活環境、罵倒や高い罰金など乱暴な労務管理、突然の賃下げ。彼女、彼らが、初期に「ストする動機」は、人としてやむにやまれぬ怒りです。

 違法ではないもののストが法的権利として明確には位置付けられておらず、合法的組合の地位は官製組合(総工会)が独占しているという不安定な状況下、労働者たちは突然、あるいはある程度声をかけあいながら集団で業務を放棄し、工場の中庭に集まり、マスコミに連絡し、道路を封鎖して行政も引き込み、ときに涙ぐましいほどの、次第に大きな要求実現をめざします。多くの場合、リーダーは解雇され、ときには逮捕されますが、ストは賃上げや就労・生活環境の改善など数々の成果を生みます。労働契約法の制定や深圳における賃確法に似た条例制定も成果に位置付けられるでしょうが、もっと大きな成果は、この経験をくぐった労働者たちの自信と学びです。

 深圳の工場でストをした小北(シャオペイ)という青年は、ストをするまで「あれは無理、これも無理」とあきらめていた同僚に聞きます。「どうして今は何でもできると思うんだい?」。返ってきたのは「大勢で一緒にやれたからだよ」。広州市でストをした男性は「団体行動は、しっかりした人的ネットワークが必要となるため、今後はこの(ストの)経験が生きるだろう」と語ります。道路封鎖を、政府の注意を引き解決に関与、介入させる戦術と位置付ける鋭い意見も出てきます。インターネットでも情報交換も大きな役割を果たしますが、職場内外での人的信頼関係がすべての基礎になっていることも示唆的です。

 そして、「ストする」ことの解放感! 長く厳しい労働からのつかの間の離脱であることに加え、職場の力関係を(一時的にではあれ)転換する、非日常の祝祭だからでしょうか。女性労働者、阿菊(アージュー)からの聞き取りの中で、「阿菊にとって、ストライキは『楽しかった』。彼女は『ストが気に入った』のだ」と書かれていますが、彼女に限らず本書全編を通じて「熱い空気」が感じられます。

 小北や阿菊たちの経験、「ストする中国」を、ストを含む労働組合活動が合法でいわば「制度化」が進みセーフティネットもそれなりに整い、だからなのか「冷めた空気」が漂う日本と、前提条件の大きな違いをすっ飛ばして比べるのは難しい面があります。にしても、本書の描く憤りや逡巡、そしてストの躍動を見るにつけ、考えさせられるのは私たち「ストしない日本」の現状。関生弾圧に象徴されるように、中国での流れとは逆に、「団結」を権利から犯罪に逆戻りさせるかのような危うい動きさえ出てくるなか、働く者の権利主張の原点を思い起こさせてくれるようなドキュメントが私たちの手に届いた意味。

 聞き取りという社会運動を担う勇気ある編著者はもちろん、苦労を重ねただろう訳者たち、そしてこの出版事情のなか、本書を発行した版元に感謝しつつ、編著者・郝仁たちのような「仕事」は日本ではどんな形でできるんだろうということも考えさせられました。

購入は彩流社HP


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