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なめとこ山が都心に出現した日〜林洋子の薩摩琵琶ひとり語りを聴く

    笠原眞弓

 白い壁に大きな影が映し出される。その影は、低い強い薩摩琵琶の力強い音を周囲に響きかせている。なめとこ山の熊の物語がその音に乗って語られていく。語り手の「林洋子」という固有名詞が不要になる。作者の宮沢賢治という名さえ、そこには存在しなくなり、猟師小十郎となめとこ山の谷や川、さまざまな熊が目の前に現れてくる。

 ここはなめとこ山、そこには中腹からドッーッと落ちる淵沢川がある。その付近は熊の棲家。小十郎は、畑もないし里では誰も相手にしてくれないから仕方なく熊を撃って、その熊から毛皮と熊の胆をもらって生計を立てているという。そんな小十郎を熊は好きで、彼が山を庭のように歩いているのを黙って見送っている。時に銃を向けられると、手を振って拒む。中には向かってくるのがいるから、それを撃つ。

 熊と小十郎の交流のさまが、目の前に繰り広げられ、ある日熊に襲われる。小十郎の耳に聞こえる「おお小十郎、おまえを殺すつもりはなかった」。ツーッと両眼から流れ落ちるものに、薩摩琵琶の音色が滲んだ。

 林洋子さんは、87歳。50歳で賢治のひとり語りをはじめ、賢治の生きた37年に当たる今年、記念講演を東大の近くの求道会館で行った。2年前に2代目巌谷陽次郎のお披露目公演もしている。巌谷さんの若々しい声は、また違う賢治のよだかの星の世界を見せてくれた。アイリッシュハープの澄んだ音と共に。

 はじめて林洋子さんのなめとこ山の熊を聞いたのは、高木仁三郎さんの房総の家だった。賢治を愛する高木さんは、林さんを応援していらした。高木さんを偲ぶ集まりだったと記憶する。その後数回、語りを聴かせていただいてきたが、今夜は、後進のために残したいと制作したDVDの発売と賢治が生きた37年と同じ年月を「宮沢賢治ひとり語り」として語ってきた記念とが相まって、特別な思いがあふれ出たように思った。

 今夜の求道会館は、選挙で疲れた肉体をも癒してくれた。


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