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「その改憲待った!」〜天皇の「お言葉」をどうみるか

   木下昌明

 わたしは8月9日の新聞一面にのった天皇の「お言葉」をよんだとき、これは「自民党の憲法改正草案」とそれを基に安倍晋三政権が推し進めている憲法改正に対する天皇の精いっぱいの抵抗の表明とみた。

 この「草案」について、わたしはすでにレイバーネットの2013年6月25日の時評で「天皇もギョッとする? 自民党憲法改正草案」と題して短く検証した批判文を書いたことがある。

 「草案」は、現憲法の表づらをちょこちょこと手直ししただけのようにみせているが、内実は「国民」による国家の支配を国家による国民の支配にひっくり返した恐るべきものだった。そのために国民の「象徴」としての天皇を「元首」にすえて、戦前と同じように天皇をみこしにかつぎ上げて、誰も責任をとらないですむ無責任大系の国家にしたてようとしているのだ。

 今度の天皇の「お言葉」は11分と短いが、そのなかで8回も「象徴」という言葉を使い、現行憲法下での天皇の役割の大切さを訴えている。その最後は「この国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話ししました」と結んでいる。そこには自民党の改憲を拒否し、現行のままでいいとする強い意思表示がにじみでている。

 同時に、「お言葉」では、「象徴天皇」としての改革も求めている。それは天皇の「生前退位」の示唆である。「高齢」や「重病」などにより、天皇としての務めがはたせなくなった場合、「摂政」(誰かが代行する)ではなく、すみやかに皇太子が天皇となり、この「務め」を引きつぐこと。また戦前からの旧弊な葬儀も簡素化し、近代化することで、「象徴としての天皇の務め」を主体的に担えるようにすべきではないかーーと提案している。

 この天皇の発想は戦前とは大きく異なる。戦前の天皇は、存在そのものが人間としてではなく、「現人神(あらひとがみ)」にしたてられていた。それに対して、現天皇は、人間であること、憲法の定めた「象徴」としての「務め」をはたさなければならない「個人」であることだーー。そこが興味深い。

 ところがこれを新聞やテレビでみた人々は、もっぱら「ご高齢だから」とか「お体が弱られた」とかの側面からのみ受け取り、同情している感がある。確かにそういう問題はある。が、それよりももっと強調したかったことは、「草案」にある「元首」への先祖返りへのもくろみに、天皇自身が「ギョッ」として「ノー」を突きつけることにあったーーのだ。

 日本の戦争映画をみただけでもわかるように、日本人は長きにわたって天皇制下で、「鴻毛(こうもう)よりも軽し」、個人としての主体を育むことなく生きてきた。それが戦後、天皇が「象徴」化されることによって多少は変わってきたが、それでも昭和天皇は、戦争責任を自らに問うことなく、そのまま戦後憲法を引きつぎ、「国民」もその天皇をよしとしておんぶにだっこのように生きてきた。

 その日本人の従順ともいえる習性を安倍政権は最大限に利用しようとしている。それなのに、これまた当の国民の多くは、黙して従(つ)いていっているのが現状である。そして、そのことに現天皇は危機感を抱き、「天皇を再び戦争の道具に利用するな!」と「象徴」の立場から「その改憲待った!」の声を上げたのだ。

(記・8月15日敗戦の日)


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