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レイバー映画祭『がんを育てた男』に期待するフクシマ陽太郎月刊「東京」7月号「かがみよ、かがみ」(木下昌明)を読んだ。フクシマからここ3年ほど「レイバー映画祭」に通っている。今年は7月23日に開催だ。毎年どの映画もままならないこの世に生きて、黙って耐えるのではなくいささかなりとも抵抗する人々や、間違いを告発していく映画が上映され、見ごたえがあるすばらしい映画祭だと思う。今年、私が最も期待するのは『がんを育てた男』(写真)だ。何しろ主人公が木下昌明であり、制作があのビデオプレス、そして主題はがん。絶対に見逃せない。 月刊「東京」の文章のさらに興味深いのは、自分が主人公の映画を自画像として木下昌明が批評することだ。戦争法案、TPP、原発再稼働、沖縄基地、格差拡大といった大文字の重大問題については、すべてに反対だ。だが、今岐路に立つ我が国のこの政治的政策について最も根源的な反対を提起し、野党共闘の中心となる政党の機関紙をみても、あらら、がん治療の問題点の指摘などただのひとつもなかった。 慶応医大のがん治療の惨憺たる病室に勤務して、教授になって改革するのは困難だと出世を諦めて、その医学界と薬剤会社と厚労省が作るがんワールドの犯罪的様態を患者に向かって数十年も啓蒙してしてきた近藤誠。がんを「育てて見てはどうか」とは近藤誠の診たてである。それが映画のタイトルとなっている。 また復活してきた原子力ムラに匹敵するほどの、金儲け一辺倒の、真実なんてほとんどないがん治療のがんワールド。それはデモや請願や投票行動では改革に結びつかない。何しろかの政党ですら、がん治療の専門家の助言や新しい治療をそのまま掲載しているのだから、変革など起きようもない。絶望である。 木下昌明はその闘争を徒手空拳で挑み、それを記録したのがこの映画なのだ。何が何でも切るのが標準とメスを研いで待つ外科を頂点に、内科と放射線科がその下に仕える。その外科医と闘い自分の望む放射線治療に持ち込んだ木下昌明の健闘は讃えられよう。がんと診断されたらまずその診断から疑い、壮絶なイカサマ医学界に対してたったひとりの反乱を起こさねばならない。 ところが、自分の命なんだから、がんであろうがなんだろうが、沢山勉強して自分の頭で考えて自分でその治療法を自分で主体的に選ぶ。そんな当たり前のことができない我が国のがんワールドは真実や誠実や患者のための治療など一切ない、グロテスクな世界である。おそらく映画はそこをくっきり映し出すだろう。 決して格好はよくないが「せっぱつまりながらもあれこれ模索した」。それこそ極めて正当な闘争であり、誠実に生きるとはという問いにもきちんと答えているに違いない。自分が納得するがんの治療法を探求して医者にさせるというのは、優れて先駆的な闘争であり、激しい生き方なのだ。「老醜をさらして少しもカッコよくないのだ」と映画に映った自身の姿をそう、木下昌明はいささか自嘲気味に書いている。だが、そこをどう映像にしているか。実に興味深い。 評判になった原一男の『全身小説家』は失敗作だと思う。井上光晴という実人生をも嘘で固め、優れた小説という虚構の中で生きた井上光晴の本質に少しも光をあてることができなかった。つまり小説をまたその評価をどう映像化するかという重大な問題を避けて、つまらないスキャンダルのようなものにしてしまったのだ。 ビデオプレスは、うじがわくような独りずまいの部屋や醜いアヒルの子を、どう撮ったか。果たして、たったひとりで右往左往しジタバタして、自らの考えで主体的に生きる人間の光輝を映すことができているか。実に興味がそそられる。レイバー映画祭が待ち遠しい。 Created by staff01. Last modified on 2016-09-13 13:43:07 Copyright: Default |